2020年10月28日

チリンのすず やなせたかし

チリンのすず やなせたかし フレーベル館

 可愛らしい白い子羊が描いてある絵本の表紙とは違って、お話の内容はかなり厳しいものです。
 「復讐」「仕返し」のお話です。

 子羊が母親をオオカミに殺されてしまったあと、オオカミをだまして、母親の復讐を果たします。しかし、その後、子羊自身も崖から転落したらしく、行方不明になってしまいます。
 チリンという名前の白い子羊が首にぶらさげていた鈴の「チリン」という音だけが谷間に聞こえるのです。

 最初のページに予告の文章があります。
 「おもいだす このよの さびしさ また かなしみ」

 オオカミの名前は、「ウォー」です。体が黒くて細長いオオカミです。
 母親をオオカミに殺されたチリンは、なんとオオカミのウォーに弟子入りします。ここまでチリンは女子だと思って読んでいましたが男子でした。
 オオカミは自分を慕ってくれるチリンに愛情が湧きます。新しい発想があります。
 チリンはオオカミの教育を受けてだんだん凶暴になっていきます。
 チリンにツノが生えて、三年後には、ものすごいけだものができあがります。
 そして、最後に、チリンは師匠のウォーを裏切ります。

 なんだか人間界と重なります。
 ドラマチックなのは、オオカミが、「おまえの気持ちはわかっていた(だからオレを殺せばいい)」というようなことを発言するのです。

 ちいさなこどもさん相手の絵本でここまで表現するとは、やなせたかしさんになにか強い思い入れがあったのでしょう。
 スリルとサスペンスの深い人間ドラマがあります。
 復讐を果たしても羊のチリンの胸は晴れないのです。(たぶん深い谷に身を投げて、首に巻いていた鈴だけが岩にひっかかって、風に吹かれてチリンと音が響いているのです)
 やむなし(やむをえない。仕方がない)に挑んだ羊の話でした。

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t141123
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい