2020年07月25日

本当の「頭のよさ」ってなんだろう? 斎藤孝

本当の「頭のよさ」ってなんだろう? 勉強と人生に役立つ、一生使えるものの考え方 斎藤孝 誠文堂新光社

 本屋さんで手にして、知りたい興味を満たしてくれるかもしれないと期待して読み始めました。2ページにある『脳の状態』というところにひかれるものがありました。
 ただ、34ページまで読んだところですが、期待はずれにおわるかもしれません。

 小中学生向けの本です。中学受験をする予定の小学生向けという一面もあります。
 ここまで読んで、『なになにすべき』という標準化をめざす本の内容だと感じています。無難な人生をおくるための人間の標準化です。
 この世は広い。脳は人間の数だけある。同じものを見ていても、それぞれの脳の中では違って見えているという自分の意見をもっています。だから、よく言葉をかわさなければ、お互いの意思疎通ができないと考えています。
 この本の内容は、一部の人たち向けの内容になっていると感じながら読んでいます。この世は広いです。全面的に取り入れるのではなく、参考にすることを考えながら読む本です。

 フレーズとして、共感した部分は、『脳のよしあしをほかの人と比較しても意味がない。とりかえることはできない』

 本にもあるとおり、『勉強ができる』ことと『社会に適応できる』ことは違います。
 学校で、勉強はできたのに、社会に出てきて不可解な言動や奇妙な行動をする若者がいます。喜怒哀楽の表情がなかったり、周囲の人と日常会話ができなかったり、自分の思いどおりにならないと机やイスをけったり、あいさつはしない、意思表示をしない、そういう人がいます。きっと、学校で無理をしてきたのだと思います。やりたくもないことをがまんしてやって、脳が悲鳴をあげたのです。
 世の中に出てみて、社会には、五体満足で、口も達者なのに、働けない人がいるということがわかりました。だからといって、その人の人格を否定することはできません。ただ、距離を置くことにはなります。

 この本では、『社会的適応性』を重視すると書いてありますので、そのことに着目して読み続けてみます。

 ことは単純で、『自分のことは自分でやる』が柱なのですが、だれかのご機嫌をとるために、だれかの言うとおりにロボットみたいに生活してきた(たとえば親のために)というパターンは危険です。いやなことはいやだとしっかり言えるようになったほうが、自分の心身を守れます。
 自分で自分をコントロールできるようになる。そのために勉強をすると思いたい。

 年収に関する記述は全面的にOKとは思えません。『大卒のほうが、生涯年収が有利』とあります。生涯獲得収入というものは、就労連続継続期間で増えていくものです。中卒でも、高卒でも、無職の期間がまったくなく、歳をとって働けなくなる時期まで働き続ければ、毎月の収入は少なくても全体では相当な額に達することができます。さらに老後は年金が重なります。きちんと年金保険料を納めておけば、長生きすればするほど生涯獲得収入は、うわのせになります。
 
 文章というよりも話したことを録音してテープ起こしをしてあるような文脈です。講演会の台本のようでもあります。

 いまは、サラリーマン世界では、役職につきたくない人が増えているような気がします。むかしあった秩序は乱れています。お金や名誉よりも心身の健康や時間のゆとりを求めている心理があります。豊かさはむかし財力でしたが、いまは、多方面へ労働者の顔が向いています。

 高学歴をめざす小中学生が読む本です。
 学校でいい子でいなさいと勧める本のようでもあります。
 
 とりあえず生きていればいい。
 学校重視はあまり意味がありません。
 社会に出ると学校でなにがあったかは問題になりません。異端児みたいだった生徒が、社会に出てスターになることもあります。

 教科は、『考え方の手法』を学ぶため、それから、学校は先生も含めて、いろんな人間を見る場所という趣旨には共感します。

 『読書』について書いてあります。かなりのページ数が使われています。人それぞれかなと思う面もあります。それぞれがなにかに夢中になれればそれでいいと思います。

 『こども孫子の兵法』というこどもさん向けの著者の本は読んだことがあります。勝負においての勝ち方が書いてありました。意外だったのは、「孫子」は人名ではなく、書いたのは孫武という人だということでした。2400年前のお話です。
 画期的な勝利法が書いてあるわけではありません。負けないための準備をする。効率優先、安全第一、精神論よりも科学です。
 無難な道を選択して、安全と安心を確保します。そういう点では、刺激の少ないおもしろみのない本という面もありました。いま読んでいるこの本にもあるとおり、「逃げてもいい」のです。相手の戦法を予測して、勝てないという結論が出たら、とりあえず逃げて、次は勝てるように準備するのです。

 本を読むのはいいのですが、いいことが書いてあっても、記憶の引き出しの容量が決まっていて、引き出しに入らなくなると忘れてしまうのです。だから、『記録』しておいたほうがいいのです。
 わたしは、読書メモを残していますが、先日は、ホタルのおしりはなぜ光るかということが気になり、以前、本で読んだのですが、忘れてしまっており、記録をさがしました。ありました。蛍は体そのものが光る。発光の役割として、「求愛行為」オスもメスも光を出し合ってカップルをつくる。次の役割が、光る生物は食べてもおいしくない」とアピールする。自分の命を守る行為。そして、ホタルイカだと敵の視界をふさぐための「めくらまし」、アンコウだと、「えさをおびきよせる」と記録してありました。

 調べた言葉として、
シナプス:情報伝達のための接触構造
ウズベキスタン:カスピ海の東にある中央アジアの国。人口約3,200万人。旧ソビエト連邦の一員

 例示が、ここ最近生まれた、いまどきのこどもさんには、古いような気がしました。カフカの『変身』、芥川龍之介の『蜘蛛の糸(くものいと)』、マンガのなかにあるナポレオンのコメント『余の辞書に不可能はない(よのじしょにふかのうはない)』、司馬遼太郎「竜馬がゆく」、宮沢賢治「虔十公園(けんじゅうこうえん)」

 共感した部分として、
「好きなものがあれば、この世は楽しい」
「友だちとは、好きなものについて楽しく語り合える人」

 気の合わない人とは無理をして、仲良くする必要はありません。それでも最低限、相手の足を引っ張らないようにしておきたい。

 200ページにあるウズベキスタン人のバスの話と217ページにあるマンガのシーンが関連づけてありますが、趣旨が異なるような気がしました。

 206ページから207ページを読んでいた時に、「人間はロボットじゃない。よくもわるくも、一番大事なことは、『死なないこと』」と考えながら、次の208ページをめくったら、太い文字で、『自分をおいつめない、絶対に死んではいけない』と出てきたので共感しました。
 昔からいわれていることですが、死にたくなったら、いったん仕事をやめるか、仕事を休んで休憩すればいいのです。恥をかくことを恐れることはありません。仕事というものは、デビューも引退も、引退後の復帰も自己申告のようなものです。いつでも辞められるし、いつでも復帰することができます。
 身近な人が自殺すると、そばにいた人の気持ちはかなりへこみます。「どうして」とか、「なぜ」が頭の中に充満して悩みます。

 『おわりに』の部分はいらなかったと思います。しつこかったです。どうしても入れたいのなら本文の枠組みのなかに入れてほしかった。一般的に、『おわりに』は、長文を書き終えて自分はやりとげたという書いた人の自己満足です。読み手は、いったん終わったものと思っていますので、深い意味合いの重たい文章が続くと疲れます。言いたいことは本文のなかで終わらせてほしい。『おわりに』は、出版にあたっての関係者への謝辞程度にして結んでほしい。

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t139845
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい