2020年07月17日

フラミンゴボーイ マイケル・モーパーゴ 2020課題図書

フラミンゴボーイ マイケル・モーパーゴ 杉田七重・訳 小学館 2020課題図書

 43ページまで読んだところで、感想を書き始めてみます。マイケル・モーパーゴの小説は以前、三冊読んだことがあります。『時をつなぐおもちゃの犬』『希望の海へ』『最後のオオカミ』戦争のお話が多いので、本作品も戦争がからんだ話のような気がします。

 舞台は、フランス南部のカマルグという場所です。(渡り鳥フラミンゴの飛来地として有名。アルルのそば。自然公園あり)
幻想的な部分がみられるお話です。彼とフラミンゴが一体化するような感覚になる記述がときおりみられます。
 いまは五十代の年齢になっているヴィンセント・モンタギューは、祖父母からもらった絵がきっかけで、1982年18歳高校三年生のときにひとりで、フランス南部にあるカマルグという地中海に面したまちを訪れます。
ヴィンセント・モンタギューはイギリス人で住まいはイギリスにあるウォットフォードの郊外とあります。調べたらロンドンに近い場所、人口8万人ぐらいとありました。

 登場人物などとして、1982年当時として、
ロレンゾ・スリー:男性。南フランスで、フラミンゴの保護をしている。知的障害があるようで、言葉がしっかり口からでない。自分では自分の名前を「レンゾ」と呼ぶ。1932年5月28日生まれ。50歳。
両親は、母親がナンシーで結婚前は学校の先生をしていた。父親がアンリ。酪農を営んでいる。
ロレンゾは、動物に慕われ動物と会話ができる。とくにフラミンゴが大好き。彼のことをタイトルにある『フラミンゴボーイ』と呼びます。

ケジア・シャルボノー:女性。ロレンゾ・スリーとは9歳からの付き合い。今は同居人。結婚はしていないようです。ケジア本人の自己申告では、ケジアとロレンゾは、親友であり、兄と妹のようなもの。ケジアもいまは、50歳。いまいるロレンゾの家から30km南の海辺で生れた。ケジアは、移動遊園地などを営業して移動するロマ(ジプシー)の一族の一員

メイユール・アミ:ケジアとロレンゾの飼い犬。大きくて茶色をしている。アミはフランス語で『友だち』

ボネ先生:ケジアの小学校の担任だった。移動民族のケジアを差別して目の敵(かたき)にする。

ジョセフとベルナデット:小学校で、ケジアをいじめた児童

サロモン先生:ケジアにやさしかった小学校の先生。ユダヤ人。ナチスに身柄を確保されて行方不明になってしまう。

ハニー:馬車を引く馬。性格が悪い。馬車は引くが、農耕作業はしない。

シュヴァル:ロレンゾの家で飼われている農耕用の馬

シャルボノー家のメリーゴーランド:ケジア・シャルボノーのファミリーが運営する移動民族ロマの移動遊園地のメリーゴーランド

カポラル・ヴィリ・ブレンナー伍長(最下級の下士官):ドイツ兵のボス。白髪の兵士で、ケジアたちに親切にしてくれます。

アラン・ロバーツ博士:イギリス人。大学教授。鳥類学者

 鍵を握る二枚の絵として、
「ボートの絵」ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ作 たぶん本物ではない。複製品。四そうのヨットが浜にあって、赤、青、黄色、緑色をしている。沖にも四そうのヨットが浮かんでいる。ボートのひとつは、『アミティエ(フランス語で友情)』という名前。場所はフランスの浜辺。額の裏に祖父母が書いた手紙があったのを偶然主人公は見つけた。
「ロマの小さな幌馬車」主人公のヴィンセント・モンタギューが小学生のときに描いたもの。タイトルは、『行き先は道まかせ』幌馬車の階段にすわるロマのおじいさんの絵。ロマ=ジプシー。移動型民族

 ロマ(ジプシー)という民族は定住地をもたずに、幌馬車を自宅として移動しながら移動遊園地で稼ぐ。

 昔観た、イタリア人監督フェデリコ・フェリーニの映画を思い出します。たしか、『道』でした。旅芸人の哀しいストーリーでした。

 調べた単語などとして、
 まず、障害者のロレンゾ・スリーが発するロレンゾ語として
フラム:フラミンゴ
レンゾ:ロレンゾ
ジア:ケジア
ラウン:メリーゴーラウンド
サギ:シラサギ、白いツルみたいな鳥
モワ:ぼく
ロワ:?ちょっとわかりませんでした。
アゴン:勝利の雄叫び
カポ:ドイツ兵カポラル・ヴィリ・ブレンナー伍長(最下級の下士官)
アース:アーサー王
ギネ:グィネビアという名前のアーサー王の王妃(おうひ。きさき。配偶者)
ロット:キャメロット城
ヴァル:ロレンゾの家で飼っている馬の名前。正確な馬の名前は、『シュヴァル』
アゴン:ドラゴン(ロレンゾの言葉として)西洋の架空の生き物。とかげ、へびに翼があるような姿

 それから、
幌馬車の階段:後部にあるステップ部分だろうか。
ツグミ:野鳥。ズズメみたい。
ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ:1853年-1890年 37歳没 オランダの画家
ミストラル:やかましい風のこと
エーグ・モルト:南フランス地中海に面したところ
ジッポ:ジプシーの差別用語
邪教:じゃきょう。他の宗教を非難するときの言葉。人を悪いほうへ導く宗教
アーサー王の物語:中世の騎士道物語。ローマ皇帝を倒してヨーロッパの王になる。
エクスカリバー:魔法の剣
スズカケノキ:落葉広葉樹。10m~30m。プラタナス
トロール:北欧の妖精。けむくじゃらの体をしている。
ゴブリン:ヨーロッパの伝説の生き物。悪い精霊、幽霊
沽券:こけん。家屋敷の売買を証明する書類。沽券にかかわるは、体面(たいめん。人から見られる姿)がおとしめられる。ばかにされる。
サント=マリー=ド=ラ=メール:フランス南部の都市
聖女サラ:サント=マリー=ド=ラ=メールに伝わる聖女。ロマ民族の守護聖人
掩蔽壕:えんぺいごう。戦闘時の人・物・重機を保護するためにコンクリートでつくられた地中の基地のような空間
サリエ:南フランスの都市
プリズンキャンプ:捕虜収容所
マキ:ドイツ軍に抵抗する組織。レジスタンス組織
チュービンゲン:ドイツ南部の都市

 主人公のヴィンセント・モンタギュー高校三年生は、南フランスのカマルグという土地でフラミンゴの群れをながめているときに、失神して気を失っていたところをロレンゾという男性に保護された。

 外国人の感覚なので、日本人の自分には、どうしてそのことにこだわるのかがわからないのですが、ひとつは、「フランス人のケジアが英語を話せる理由」「壁からヴィンセント・ヴァン・ゴッホの絵が落ちてきた出来事を運命としてこだわること。絵は、フランスカマルグ自然公園でのボートの風景画」

 詳しい説明が、ケジア・シャルボノーからあります。
 記述はヨーロッパ的で雰囲気があります。
 ロマ(芸人ジプシー)に対する差別があるようです。
 ロマ民族のケジアは、小学校で差別を受けます。先生も差別してきます。先生には、いい先生とそうではない先生がいます。ケジアは不登校になります。ケジアは自宅で元教師のロレンズの母親から読み書きを習います。
 たぶんケジアが11歳の時にドイツ兵がカマルグにやってきます。三年前、フランスはドイツに侵略されたのです。
 嵐で、移動遊園地がひどく壊れてしまいます。壊れてしまったメリーゴーラウンド、そのほかの道具は納屋に保管されますが、徐々にみんなの記憶から遠ざかっていきます。

 ナチスドイツの兵隊が嫌悪集団ですが、それよりもタチが悪い(もともと行いが悪い)のが、同じフランス国民でナチスドイツにへつらう(ごまをすって利益のおこぼれをもらう)フランス民兵団「ミリス」のメンバーだそうです。
 
 ナチスが土地を侵略してきます。

 曲として、『アヴィニョンの橋の上で』フランス南東部の都市。15世紀ごろにつくられたフランスの歌

 いいなと思った記述などとして、
移動民族ロマのあいだに伝わる言葉として、「行き先は道まかせ、どこへでも自由に行きたいところへ行く」
世の中には親切な人と意地悪な人の両方がいる。
メリーゴーラウンドの木馬になっている動物たちにはそれぞれお話がある。
フランスの三色旗
フランス国家『ラ・マウセイエーズ』フランス革命のときの革命歌。フランス革命 1789年-1799年 身分制・領主制の廃止。君主、貴族の支配を廃止して、資本主義国家を築く。
雲の向こうには必ず青空が広がっている。悲しみを越えた先には、いつだって喜びがある。
ナチスドイツの伍長に対して、「きっと悪いひとばかりじゃない」これに対して、「みんな軍服を着ている。それを忘れるな」
障害者のロレンゾ・スリーが侵略してきたドイツ兵に向かって行って抗議として、相手の胸を次々と押すところ。
アーサー王が、ロレンゾ・スリーで、アーサー王の妻グィネビアがケジア・シャルボノーと見立てて、ふたりがそのことに満足すること。

いやだなと思った記述として、
大きな赤いナチスの横断幕で、真ん中に黒い鉤十字(かぎじゅうじ)

 第二次世界大戦ノルマンディー上陸作戦:1944年6月6日

(読み終えました)
 日本人の感覚では、すんなり腹におちる内容ではありませんでしたが、多民族でヨーロッパ大陸の上で暮らしていく人たちのいいところ、そうでないところが、バランスとか、協調とかを基調にしていることが理解できそうな内容でした。

 ナチスドイツの伍長を敵とはみないで、敵の中にあっても、自分たちの味方になってくれる『個人』として、フランス人の移動民族ロマの人たちとその友人たちが評価します。珍しい設定です。これまで読んだ本は、ドイツナチスのメンバーは、凶悪犯扱いの作品ばかりでした。
 それから、ユダヤ人を強制収容所に収容してガス室に送り大量虐殺をしたことがとりあげられることが一般的なのですが、この本では、ジプシーに属するロマという移動民族に対する強制収容が書いてあります。人間の単一民族標準化志向に対する抗議があります。

 メリーゴーラウンドが、安息のための遊び道具として扱われます。苦しい環境のなかにあったから、わたしたちは、(娯楽で)笑うことが必要だったとあります。
 壊れたメリーゴーラウンドは、終戦後の1947年5月1日に修復を終えて復活しました。
 そして、フラミンゴは、『自由』『平等』『友愛』の象徴なのです。フランスの国旗三色旗と同じです。いずれも『平和』な世界をめざしてと思いたい。

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