2020年07月13日

おれ、よびだしになる 2020課題図書

おれ、よびだしになる 中川ひろたか・文 石川えりこ・絵 アリス館 2020課題図書

 全体を二回読みました。絵本の形態になっています。
 さいしょにタイトルを見たときに、すもうの『よびだし』になるということが、『すもうの行司(ぎょうじ)になりたい』ということはあるかもしれませんが、『よびだし』は、珍しい将来の希望だなと思いました。ふつうは、すもうが好きなら、『すもうとり』になりたいと思います。また、本であればなおさら、『おれ、すもうとりになる』のほうが、かっこうがつきます。なぜなら、『すもうとり』は、興行の華(はな)であり目立ちます。『よびだし』は、地味で目立ちません。よびだしは、すもうとりを目立たせるための裏方の人です。
 ふつうに考えると、親族によびだしをしている人がいて、その人の紹介で相撲界に入りよびだしになるような就職ルートではないかと考えます。

 お話の内容は、昭和35年から昭和45年、1960年代ぐらいのことに思えました。
 こどもはたいてい、義務教育の中学を出ると家を出て働きにいきました。『金の卵』と呼ばれて、都会の工場や商店などで、住み込み就労をしたり、会社の独身寮で集団生活をしたりしました。
 この絵本では、仕事として、『よびだし』がとりあげられていますが、ほかの職種も似たような就労形態でした。そういう時代がありました。そこで、世間や社会のことを学びながら人間関係をつくっていきました。そういうことが、絵本のなかでも紹介されています。さみしくてもつらくても耐えました。いやなこともありましたが、楽しいこともありました。そうやって若い人たちは生活に順応していきました。

 はっきょーいのこったのこった。本場所は、何度か観に行ったことがあります。あと、けいこ風景も数回観に行ったことがあります。けいこは神聖な雰囲気の中で行われていました。静かでした。
 すもうを開催している本場所では、間近で、まだ名前を知らない若いおすもうさんたちも何人も見ました。館内の食堂に行くと、昼ご飯を食べている彼らを見ることもできました。
 おすもうさんがつけているびんつけ油という整髪料の香りがとてもいい匂いです。
そんなふうなので、この絵本の内容を身近に感じることができました。

 すもうというものは、祖父母、両親などの親族がまず興味をもっていないと、こどもにまでおもしろさが伝わらない運動、スポーツだと思います。
 基本的には、スポーツである前に、神事です。神さまへの奉納です。
 この本は、『ぼくは ちいさいころから すもうが すきで いつも テレビで すもうを みてた。』から始まります。
 出島(でじま)さんというおすもうさんが出てきます。いまから20年ぐらい前に活躍した力士です。本の内容とは時代がずれる感じもするのですが、それはそれでかまいません。
 
 テレビの前で、よびだしのまねをしている主人公の小学生の男の子がいます。彼がよびだしをすきなのは、『かっこいい』からです。
 テレビの前に、一部分が茶色になったドラムのスティックみたいな棒が二本置いてあるのですが、それがなんなのかが気になりましたが、なんなのかはわかりません。

 ぼくちゃんは、5歳の時に福岡市で、たんじょうびプレゼントで、すもうをみせてもらったそうです。たんじょうびプレゼントがすもう鑑賞とはめずらしい。そのときに、すもうとりに目がいったのではなく、よびだしの役割の人に目がいったそうです。それもまためずらしい。

 よびだしをされていたどなたかの体験をもとにして絵本ができあがっているのでしょう。

 さじき席から観る大きなすもうの絵は圧巻です。迫力が伝わってきました。

 一人前のよびだしになるための修行が続きます。努力して何度も繰り返して、仕事を体に覚え込ませます。主人公は、ざぶとんをたいこがわりにして練習をしています。(さきほどかいたテレビの前にあった二本の棒は、ざぶとんをたいごがわりにした「ばち」だったのかもしれません)
 どひょうづくりは力仕事です。ていねいに仕上げなければなりません。裏方仕事の大事さがにじみ出ています。

 目立たないようで、実は目立っているのが、『よびだし』さんかもしれません。テレビに映るので、ご親族の方にはわかるでしょう。知り合いがテレビに映るとなにかしら嬉しいものです。
 『仕事とは』を問う絵本でもあります。自分の個性を自覚して、自分に向いた役割を果たして収入を得て自活していく。
 仕事ぶりをほめてくださる人がいます。やはり、ほめられるとやる気がでます。
 『いいぞ、よびだし!』声をかけてくれた人は、やさしい人です。みんなもいいことをしている人がいたら『ほめましょう』

 『おれ、にっぽんいちの よびだしに なる!』ひさしぶりに聞いた『にっぽんいち』というフレーズ(文節)でした。すがすがしい。そして、なつかしい。将来の夢で心がわくわくしていた時代がありました。

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