2020年07月01日

飛ぶための百歩 ジュゼッペ・フェスタ 2020課題図書

飛ぶための百歩 ジュゼッペ・フェスタ・作 杉本あり・訳 岩崎書店 2020課題図書

 本の帯を見ると、視覚障害者のこどもさんのお話のようです。イタリアの児童文学作品です。

 プロローグで、お父さんは眠らないとあります。なんのことだろう。
 お父さんがいて、お母さんがいて、主人公の男の子が、山の中で二か月ぐらい暮らしているようです。満点の星空が輝いています。でも、この子には見えないみたい。(全体を読んでからもう一度この部分を読みました。この部分は、主人公の男子ルーチョの気持ちではなくて、ワシの夫婦のこどもゼフィーロの気持ちが語られていることがわかりました。しみじみしました)

 登場人物です。
ルーチョ:主人公で中学を卒業したばかりの男子です。イタリアの学校制度は、小学校が6歳からスタートで、5年間。中学校が3年間。高校が5年間。義務教育は10年間。16歳まで。ルーチョは、今年14歳を迎えるぐらいの年齢でしょう。ルーチョは、フルートを吹く。音楽が好き。視力がない彼が山を愛する理由は、山が静かで音がよく聞こえるから。おばさんが付けたニックネームが、「ヤマネくん(ヤマネはハムスターみたいな動物のことです)」
ベア(ベアトリーチェ):ルーチョのおばさん。ルーチョの父親の妹
ジェジェ:ルーチョの友だち。同級生
ペッチョ:悪者。何か悪いことをたくらんでいる。ロッククライミングが好きだが、歩くのは嫌い。リュックサックの中にロープが入っている。
グラッコ:ペッチョの相棒。悪者。リュックサックのなかには、豆とパンが入っている。
エットレ:山小屋「百歩」の主(あるじ)おじいさん。タイトル「飛ぶための百歩」と関係がありそうです。
キアーラ:エットレの孫娘。ルーチョと同じく14歳
テイツイアーノ:青年。山岳ガイド。ワシのひなを見るためルーチョを連れていくが、ルーチョは視覚障害者だから、ものが見えないのに、何の意味があるのだという疑問をもっている。山岳警備隊の監督官をしている友達がいる。
悪魔の頂(あくまのいただき)というところの「ヤマネの崖」にある巣で暮らしているワシの家族として、父ワシの名前がミストラル(北西風という意味)、母ワシの名前がレヴァンテ(東風という意味)、ひなの名前がゼフィーロ(そよ風)

 生き物や、植物の記述がいっぱい出てきます。
 モミ、カシ、松、ラベンダー、ブナ、カラマツ、ズアオアトリ(鳥)、シジュウカラ(鳥)、イスカ(鳥)、キツツキ、バッタ、カッコウ、ワシ、野うさぎ、ラバ、ヤマネ、リス、ワタリガラス、アルプスマーモット、ラナーハヤブサ、ラクダ

 調べた言葉などとして、
シルク:絹。カイコという虫が吐きだす糸でつくられた繭からつくる布地
入れ子式のストック:順に中に入れる。ロシア人形のマトリョーシカとか、アンテナとか、つりざおみたいな感じ。登山用ストック。トレッキングポール
視覚障害者用の杖:白杖。白い杖
タルト:洋菓子。パイ生地にくだものなどをのせて焼いたお菓子
シナモンとミント味:シナモンは樹木から得られる香辛料。ミントは、爽快感、冷涼感がある多年草
キビ砂糖:茶色。砂糖液を煮詰めてつくる。
シチリア:イタリアに所属する地中海に浮かぶ島
アペニン山脈:イタリア半島を縦貫する山脈
ラップ:リズミカルな言葉の音楽。
ロック:社会への対抗意識を表現した音楽。エレクトリックギター、ドラム、キーボードなど
自尊心:自分を大切にする気持ち。誇り
ディセンダー:登山で使用する下降器具
ハーネス:この物語の場合は、盲導犬の胴体に巻く輪っか
リード:綱

 主人公のルーチョと彼の叔母のベアがヨーロッパアルプスの山登りをしています。イタリアの「ドロミテ渓谷」というところです。それから、ルーチョが生まれて2歳で発病してから5歳から徐々に視力をなくしていったことの話が出てきます。今は暗闇だそうです。ルーチョは視力を失くしていますが叔母のベアの付き添いがあれば登山はできます。登山以外にもふたりで、これまでにフランスパリにあるディズニーランド、オランダのアムステルダム、イギリスのロンドン、スペインのバルセロナへの旅行を楽しみました。

 89ページあたりから、にわかにおもしろくなってきました。スリルがあります。事件が起こりますが、ここには書きません。

 ハリーポッターの映画に出てくるフクロウが思い出されてくるような記述です。

 記憶に残った記述の趣旨などとして、
ルーチョは、がんこに人の助けをこばむ。
ルーチョは、夢の中で、白い杖(視覚障害者用の杖)をもつ少年に出会う。
目が見えなくても毎日を楽しんでいる人はたくさんいる。
健常者は、言葉がなくても、相手の表情をみて気持ちを察することができるけれど、視覚障害者の場合は、表情で感情を判断することができないので、こと細かく口で伝えることが必要です。
「人に頼りたくないんだ」という視覚障害者男子ルーチョに対して、同い年の女子キアーラが、「誰だって、人に頼って生きている」
キアーラの言葉、「私はどこにいても場違い。イヤな女だと思われている」
二人の前に道が開けた。
任務完了
山小屋から、「ヤマネの崖」まで、ちょうど百歩。山小屋の名前は、「百歩」

 92ページ付近を読んでいます。作者がこのあとどんなふうに話をころがしていくのかが楽しみです。

 そうか、意外な方向へと話は流れました。

 お金のためならやってはならないことでもやってしまうのが、人間の悪いところ。それをやめさせようとするのが、人間のいいところ。人間はふたつの顔をもっている。

 ドラマチックな展開になりました。感動的、劇的です。

 今年読んで良かった一冊になりました。がんこさからの解放があります。自由の獲得があります。ルーチョとキアーラは、自分の弱さを認めることで、心が強くなれました。

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