2020年02月19日

「松本」の「遺書」 松本人志

「松本」の「遺書」 松本人志 朝日文庫

 ダウンタウンも松本人志さんもよくは知りません。局長というポストが西田敏行さんから松本人志さんに替わるころから、当地では深夜に放送されている「探偵ナイトスクープ」を録画して見るようになりました。こんなおもしろい番組があるのをいまごろ知りました。関西は笑いが豊富です。

 この本は文庫で、おおもとは、「松本」それから「遺書」という2冊の単行本があって、そのふたつをひとつの文庫にまとめてあるようです。
 さいごの「あとがたり」の日付は、1994年8月25日になっています。もうずいぶん前、四半世紀前です。読み始めにある本人の年齢は30才でした。現在は56才です。どこかの読書記事で、彼の本を読んで、へこんでいた気持ちが救われたとありました。今回の読書の動機です。

 週刊誌のコラム(柱。著者の意見、分析、考え)の集大成です。文脈が、テープ起こしのようになっています。口語です。(107ページにテープ起こし、ライター記述と思われるが、自らが書いていると説明があります。そして、1割ぐらいはうそが書いてあるそうです)

 多用される単語が、「ウンコちゃん人間」、屈折している部分があります。貧乏体験あり。
 読んでいて、どこまで本気なのかわかりません。芸人の個性づくりとして演じながら表現しているのかということがありますが、どうも、本人の「素(ありのままの人格)」の姿です。
 自己中心的な部分もあります。それでも大衆に受け入れられる理由は何か。プッシュ話法(ぐいぐい押していく)です。
 こどものころはいじめられていたが、吉本の演芸場を観に行って、笑いを武器にしてからはいじめられなくなったとあります。

 ぐっとくる言葉として、「自分はアイドルではない。自分は笑いをつくるコメディアンだ。笑いに魂を売った男だ」、「人の悪口で笑いをとるのには、テクニックと根性がいる」、「普通のサラリーマンのほうが芸人よりも忙しい生活を送っている」

 組織の中の歯車のひとつではいられない人です。

 番組に対するクレーム話がおもしろかった。主婦のクレーマーというのはあまり聞いたことがありませんでしたが多いそうです。下ネタが攻撃されるそうです。

 文字の色がページの途中で、黒から緑になり、茶色になり黒になりと変化します。最初は、自分の目がおかしくなったのかと心配しました。ゴシック体なので、文字色に関わらず読みやすい。

 本人の芸風を知らないのですが、書中では、「他人の悪口を言いまくる」というような趣旨が書かれています。読んでいて、合法的なもの対する批判はどうかと思います。新幹線のグリーン車にこどもが座るのは違法行為ではありません。それをどう思うかは個人個人の気持ちです。もう25年以上前のことなので、今、どうこう書く気もありませんが。説得力に弱い部分があります。
 M-1ぐらんぷりが始まる前の記述です。漫才大会の持ち時間は15分とあります。M-1は4分間です。なにもかもが短縮された世の中になりました。

 結婚反対の記事があります。「なぜ結婚するんですか」動物の本能だからです。理屈ではなく生体が生まれながらにもつ生活様式です。
 本人は現在、既婚者です。わたしは、別の観点から、配偶者は親友だと思っています。

 芸能人ならではの苦労が書かれています。自分や親族へのねたみ、そねみ、サインの強要、プライバシーの侵害、迷惑行為があります。対応がかなりたいへんです。人の心は汚れているけれど汚れがなくなることはありません。

 女性に対する視点として、「女で天下をとるためには、化粧もせず、恋愛もせず、結婚、妊娠、出産もあきらめるぐらいの気持ちがないと男に勝てない」とあります。そうして、栄光をつかんでも、最後は孤独死が待っています。それとも表面にはいないパートナーがいるのかもしれません。それがいいともよくないともいえません。

 読んでいて、本人の理論が正しいのか、そうでないのかがわかりにくい部分があります。ボクシングは好き。野球やサッカー、ゴルフは嫌い。わきあいあいのチームワークプレイはイヤなようです。もうひとつは、過去を見ながら未来は見られないという趣旨があります。物に対する愛着心は薄い。過去にこだわらないという、たしかにそうではあるけれど、過去に封印して、未来にがんばるということもあります。
 
 全体で265ページのうちの100ページまできました。これ以上読んで得るものがあるのだろうかと疑問をもちながら流し読みに入りました。
 吉本興業の若い未熟なマネージャーたちの話が出ます。去年もめた闇営業がらみに関係があるのかもしれません。
 
 「金は出さずに文句ばかり言う視聴者」、「横柄で自信過剰と見られる自分」、「親父への復讐心でがんばれた」、若い世代層に限って受け入れられる漫才を目指す。テレビ制作者にこびない。体を張ったリアクション芸はしない。口は悪い。読んでいて、ごく狭い世界で深い暮らしを送っている人と見受けました。そのあとのページで、「狭くても深く支持されることを選んだ」と、自認する記事があり、これからは、広く深くで行きたいと希望が書かれています。芸人の人権を守る意思が固い人でもあります。

 相方浜田雅功(はまだ・まさとし)さんの小学生時代がおもしろい。スペイン人のようなかっこうをしていたそうです。気が合うわけではない。漫才の相方として最高。私生活は知らないとあります。相棒です。

 過去の記録を書いた歴史書を読んでいるようです。書いている年明けが、1995年です。阪神淡路大震災がありました。オウム真理教サリン事件がありました。ウィンドウズ95の発売がありました。書中では、大相撲で、22歳の貴乃花が武蔵丸を破って優勝しています。もう25年前の出来事です。
 
本人は、小学3年生の時に学校嫌いだった。半年ほどほとんど学校へ行かなかった。足が痛くなった。神経性のものだろうとあります。そのあたりが、登校拒否やひきこもりだったことがある読者に理解されるのでしょう。

 「笑い」とは、「発想」
 右か左か、白か黒か、中途半端は嫌いだという記述です。考えが深いようで案外浅いのではないか。感覚的な判断と受け取れます。
 書中では、「ものを裏側から見る癖がある」と自己評価されています。本人に対する世間の評価は、「生意気、わがまま、ごうまん」と記されています。本人が書く文章は、怒りの連発です。
 わたしには、まだ彼のおもしろさがわかりません。DVDで漫才でも見てみます。昔、本人が監督で撮影した「さや侍」という映画は観たことがあります。それは、おもしろかった。ただ、笑いにしては、暗い部分もありました。


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