2019年12月25日

アライバル ショーン・タン

アライバル ショーン・タン 河出書房新社

 テレビ番組のアメトークで、カズレーザーさんが推奨していたので取り寄せて読んでみました。文章部分のない絵本です。セリフもありません。絵は緻密な鉛筆画です。写真のようです。そして、大量です。

 物語部分がないので自分で感じて文章をつくっていきます。
 絵はリアルで、読み始めは、静止画が動画に見えてきます。鉄拳さんのパラパラ漫画のようでもあります。不思議な感覚におちいります。

 白いトカゲのような生き物がいます。それを各自がもっている「感情」の化身だと理解することにしました。妖精であり妖怪でもあります。
 各自がペットのようにいろいろな形の生き物を飼っています。それは、各自の「気持ち」とか「愛情」を表しているのだと解釈します。

 作者は、一芸に秀でた、このことだけに集中できる人ではなかろうか。凡人にはとても書けない絵です。なおかつ大量です。4年間を費やしたと巻末に説明がありました。

 肖像画の人々は、まるでほんとうに生きているように見えます。
 
 タイトル「アライバル」の意味は、「到着」です。移民とか、出稼ぎとか、難民とかを想像できます。

Ⅰの部分
 思い出を残すために家族そろっての記念写真を残すことは大事なことだと思います。
 旅行に持って行くトランクに荷物を入れて、旅立ちの準備ができました。
 小学4年生ぐらいの娘さんがいて、ベッドで目覚めて、朝食をとって、父はトランクをもって、母と娘の三人は家を出ました。
 舞台は空想の街です。トゲトゲがあるタコの足が道路や建物をおおっています。なにか悪いことの暗示のようです。
 三人いっしょに旅に出るのかと思ったら、おとうさんだけが旅立ちます。
 夫婦、親子の別れがあります。
 少女は不安そうです。蒸気機関車が来て、出発しました。
 父ひとりが旅に出ました。妻と娘が残されました。暗い空にトゲトゲのタコの足が見えます。

Ⅱの部分
 ぞっとします。人物が生きているみたい。
 船室の中です。
 船はどこへ行くのだろう。イメージとしては、シリアからイタリアへの感じです。地中海での航行です。
 雲の絵には圧倒されます。60枚あります。見上げるように雲の絵を見ながら、「人生ってなんだろう」という思いにひたります。
 船上には、たくさんの人がいます。
 日本でいうところの「折り鶴」を折ります。折った鶴は、とんぼみたいになって、空中を飛んでいきます。
 赤ちゃんと母親の絵から、家族とか、家庭へのこだわりが感じられます。
 日本人も外国人も、その外見は異なっていても、気持ちは同じであることがわかります。
 難民、移民、出稼ぎ、流浪の人々は、平和と繁栄を望んでいます。
 船は、どこかの国あるいは地域へ到着しました。社会問題、国際問題を扱った絵に見えます。
 表示してある文字は、イスラムのアラビア語に見えます。入国審査、健康状態の検査。おそらく役人に問われてなにかを説明している。役人らしき人がスタンプを押している。許可書でしょう。パスポートのようなビザのような。
 入国許可がおりました。
 ここが、どこの国なのかはわかりません。空想の世界です。理想がかなうかもしれないという期待感がもてる世界です。にぎやかで、豊かな街に家を出た男はひとりで立っています。
 男は、道に迷いました。男はどこへゆくのだろう。
 男は、これから住む借家に到着したようです。その部屋には、ネズミのような生物がいます。(それが、この男の気持ちを表しています)
 家族。妻。娘。孤独。旅行トランクのふたを開けると、トランクの中に、故郷に残してきた妻と娘の姿が見えます。仕送りをしなければいけません。壁に家族写真をぶらさげて飾ります。
 
Ⅲの部分
 ウーパールーパー(メキシコ山椒魚)のような顔をした生き物です。男の淋しい気持ちや妻子への思いを表している生き物だと思います。
 男は仕事に行く。あるいは、仕事を探しに行きます。地図を見ながら、人に道をたずねながら移動してチケットを買います。また、船の上にいるようです。
 昔、農家への減反政策とか、エネルギー革命による炭鉱閉山とかで、転職、転宅を余儀なくされた日本人が思い浮かびました。
 絵本のなかの男性は、船の上で、乗り合わせた女の人の身の上話を聞いています。強制労働をさせられていた場所から逃げてきた話です。工場での住み込み肉体労働者で、人間扱いされていなかったようです。みんながいろいろと苦しんでいます。
 船は空中を浮かびながら移動しています。
 笑顔でいっぱいのページが現れます。街の人たちが笑顔なのは、金銭的にも気持ちの面でも豊かだからです。
 瞳の中にある炎は何を意味しているのだろう。巨人の悪魔が街を破壊しに来ました。あまりよく知りませんが、進撃の巨人みたい。戦争勃発です。みんな、逃げるために穴に入って地下の世界へ行きます。
 水の都、イタリアのヴェニスのようなところに着きました。
 ここはどこ? それとも、思い出の世界なのか。
 笑っている。人間たちが笑っています。人間は生きていくために笑顔が大事ということがわかります。
 
ⅳの部分
 仕事をします。男は、これからどうしたらいいのか、考えます。壁にポスターを貼る仕事をします。次には、モノを売る仕事をします。その次には、ベルトコンベアーで流れ作業をしながら、物をピックアップする仕事をします。酒を飲みます。徴兵に応じます。イタリアの風景みたいです。戦地へ行って、戦死者のガイコツを見ます。右足の膝から下を失った戦闘員がいます。ヨーロッパ映画を観ているようです。足を失ったのは絵本の主人公の男性ではありません。男性は願いをこめて千羽鶴を飛ばしました。
 平和な世界をキープしたい。茶色と白色しかないけれど、まぶしく光が輝く絵です。
 新しい国づくりが始まりました。
 
Ⅴの部分
 「気持ち」という鳥が地面に着地しました。アライバルです。
 男は手紙を書きます。手紙を折って、鶴をつくって、封筒に入れます。
 葉っぱから目が出て育って木になって枯れての流れ図があります。
 雪国のような、灰が積もっているような風景です。
 男に手紙が届きます。妻子から男への手紙でしょう。
 妻子が男に会いに来てくれた。
 
Ⅵの部分
 家族の「再会」です。
 三人が思い出話をしています。楽しい暮らしがあったころの思い出話です。平和であること。
 娘は父親に頼まれて、なにかをみっつ手に入れてきてくれと言われ家を出て行きます。外で娘はなにかを3個手に入れました。球根に星が生えているような植物に見えます。
 娘は外で、地図を持って自分の行き先の道を探している若い女性と話をします。じゅんぐりに夢とか希望とか愛情とかを手に入れていきましょうというメッセージがあります。それが人生だと。

 最後に、いろんな国籍であろう人々の顔の絵がたくさん描いてあります。

(その後)
 3回、4回と読みなおしを繰り返しています。
 途中、ひとつ目巨人の悪魔がまちを破壊しているような絵があるのですが、彼らの手には、ラッパの形状の武器が握られています。最初は、その武器で、路上にいるたくさんの人間たちを吹き飛ばしていると思ったのですが、じっと見ていたら、むしろ逆で、ラッパの中に人を吸い込んでいました。つまり、「掃除機」なのです。さかさになって、掃除機に吸い込まれていく人の影がたくさん描いてあります。不気味です。

 終戦シーンのような絵があります。まちは廃墟になっています。なにがなんでもなにがあっても戦争は避けなければなりません。

 この本のしおりのヒモが、金色で、幅が広い。しっかりしたつくりです。そういう形状の立派なしおりヒモを初めて見ました。なんだか、うれしい。

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