2019年11月11日

マタタビ町は猫びより 田丸雅智

マタタビ町は猫びより 田丸雅智(たまる・まさとも) 辰巳出版

 ショートショートの名人らしい。(ショートショート:不思議な雰囲気の短い作品)
 15編、1編あたり7ページぐらいです。400字詰め原稿用紙10枚ちょっとの感じです。
 「マタタビ:落葉つる性大木。葉の下に白い花。猫が臭気で恍惚感を得る」

「猫ポリス」
 猫の頭にパトカーの屋根にある赤色灯がついています。猫が警察官の役割を果たして、マタタビ町の平和をキープします。町内パトロールがあります。おもしろい発想です。鳴き声がサイレンです。タバコのポイ捨てを注意したりもします。

「オシャレな爪」
 「キャットドア:ペット用出入口ドア」、「ラインストーン:模造宝石。ガラス、アクリルでダイヤモンド類似石」
 さし絵がかわいい。
 猫が、お客さんとして、ネイルサロンに来るのです。
 ここまで、猫に執着して作品をつくるのはなぜ?

「猫の局員」
 郵便局員です。猫を擬人化してあります。好みが分かれる作品です。

「被る(かぶる)」
 タイトルの漢字を読めませんでした。猫をかぶるのです。お上品な女子、男子になるのです。本当の実態は、がらが悪い。表面上は整っているのですが、なにかしら噛み合わないものを感じる作品でした。こちらもさし絵がかわいい。

「大将のうどん」
 うどん屋の大将がねこちゃんで、うどんをふみふみしてうどんの麺づくりをします。絵がかわいい。おいしそう。好みの作品でした。最後の一行、人間の店員のふみふみ動作はピンときませんでした。

「ネコジング」
 行方不明になった飼い猫をねこじゃらしを使って探すお話です。「ダウジング:地下水、鉱脈などの隠れたものを振り子や棒の動きで探す」
 最後の一行で、ああそういうことかとうなずきました。

「目覚まし猫」
 大学に入学してひとり暮らし一年生になった人の話です。アパートに目覚まし猫がいるのです。おもしろい。ラストもおもしろかった。

「猫のシアター」
 好みの作品です。いいお話です。記述にもありますが、胸が締めつけられます。本のカバーの絵を見たときに、「思い出」とか「なつかしさ」とかを感じました。そういうことを表現してある作品です。
 白黒映画『ローマの休日』、オードリーヘップバーンが凛(りん。引き締まっている)としていました。おじいちゃん。永い時が過ぎて、自分がおじいちゃんになってしまいました。
 映写技師のジロウさんはもちろん猫で、その目から光が出て、スクリーンに絵が映し出されるのです。

「町なかのアート」
 謎の画家バンクシーみたいなお話です。(匿名のストリートアーティスト)
 「自己主張」、「承認欲求」、作品の出来はそれほどでもないのですが、24時間、猫がらみのアイデアをひねり出す努力をしていることが伝わってくる作品でした。

「バグをおって」
 バグとは、パソコン用語でプログラムをだめにする「虫」です。プログラムの誤りのことです。登場する黒猫のクロは、2歳児ぐらいのイメージです。2歳児というものは、おとなが、だめだとか、やめなさいと言っても、パソコンのキーをばんばんばんと叩き続けます。
 クロがプログラムのバグをみつけてくれるのです。おもしろい。読んでいる途中でなんども「ほう」と感心するため息が出ました。
 最後にごみ箱の中身を散らかす終わり方も気に入りました。おもしろかった。

「マエストロ」
 マエストロとは指揮者です。この物語の場合、もちろん、指揮者は猫です。しっぽが指揮棒です。おもしろい。幻視の世界です。
 詐欺的に読み手の心をだまそうと文章が頭に入ってきます。スリルもあります。最後付近の転換シーンも良かった。

「夏の日の猫」
 15年間飼っていたコハルが死去しました。初盆です。こどもがいない夫婦にとっては、こども同然の猫でした。
 142ページのさし絵がいい。愛情に満ちたいいお話でした。

「猫のラジオ」
 猫であるコタロウのヒゲがアンテナなのです。よくできているお話でした。

「モチ猫」
 お正月です。正月のモチです。話をどう料理するのだろう。なんだかほんとうに料理みたいな話になって、最後には話として料理されました。結末は、そういうことかと。おもしろかった。

「スキマの猫」
 「キューブのような椅子:さいころクッションみたいなイス」
 心のスキマに入る。失恋した女性がクリニックに行きます。お客さんは、なにかを失った人が多い。
 納得できるオチでした。ハートフルなお話でした。

*全体をとおしてですが、ショートショートという手法においては、作家に善意の詐欺師的技術が必要と感じました。

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