2019年09月25日
いるいないみらい 窪美澄
いるいないみらい 窪美澄(くぼ・みすみ) 角川書店
お気に入りの作家さんです。5本の短編があります。どうも、子どもを産む産まないの選択がテーマになっています。そして、どちらかといえば、産みたくない女性が主人公です。
「1DKとメロンパン」
35歳既婚、堀知佳さん、子どもを産みたくない願望があります。理由は、子育てがめんどくさい(子どもは親の言うことをきかないからとか保育園がみつからないとか、夜泣きとか)。母親や妹(もうすぐ出産)からのプレッシャーはありますが、夫の知宏さんからの要望はありません。
おもしろい記述の趣旨として、「自分はもてる女ではなかった。自分に興味をもってくれる男子がいなかった」、「女子ばかりの女子高では恥ずかしいことがなかった」、「自分も夫もまだこども」
堀知佳さんの妹佳奈さん夫婦に赤ちゃん誕生です。知佳さんのだんなさんがこどもを欲しくなります。でも、知佳さんはいらない。厳しくて重い雰囲気です。夫婦というのはやはり同じ未来志向がないと続けるのは苦しい。書中にあるのは、「妊娠、出産まではできても、その先が見えない」という女性の不安です。
問題提起の作品です。こどもを望まない親のもとに生まれる子どもはかわいそうです。不幸ともいえます。
「無花果のレジデンス(いちじくの高級アパート・マンション)」
読後感のいい作品でした。
イチジク無花果のタイトルを見ながら、内容は夫婦のうちの男性に問題ありで妊娠がしにくい話なので、男性の立場を表した単語なのかなとかんぐりながら読みましたが、逆にこどもができるほうの果実でした。
ふたつのシーンが同時進行していきます。主人公宮地睦生(みやち・むつお)の先輩牧村が突然死します。(無呼吸症候群だろうと思いました)牧村夫婦には、こどもがいません。もうひとつは、宮地夫婦のうち、妻が子を望みますが、夫はどうもこどもが好きではないようすです。
実体験として、歳をとって思うには、「孫を抱きたいから子をつくったのかもしれない」ということがあります。父さんとも母さんとも呼ばれることのない人生という趣旨の部分を読んでいてそう思いました。
違和感を表すのに、「微妙にサイズの違う靴を履かされているような」は、絶妙です。
調べた言葉として、「ED:たたない」
主人公宮地睦生は、亡くなった先輩の奥さん牧村千草に、二十歳のときに亡くなった自分の母親を重ねています。
じんときたセリフとして、「子どもには縁がなかったのね」
淋しさから逃れるために、「転居」という変化をしてみることはいいことだと思いました。
「私は子どもが大嫌い」
胸に何かが突き刺さる短編です。直木賞候補になった「トリニティ」より、こちらの本のほうが出来がいい。どうすることもできない自分の運命があります。
子どもが嫌いな理由の種明かしがあるのですが、ここには書きません。
36歳女性茂斗子(もとこ)さん、女子高を出て就職して以来、好きになった男性も好きになってくれた男性もいない。独身用マンションは両親の所有で、1階に両親、自分は最上階の4階に住んでいる。36歳といえば、昔なら小学生のこどもが複数いてもおかしくない年齢です。
子どもがぐずっているのに、スマホをいじっている親に対する敵意から始まります。
子どものいる知人がうとましい。ただ、ラインで子どもの写真を乗せる人は淋しいから注目してほしいという願望が底辺にあるのではないかと思いながら読みました。
独身専用のマンションに子どもの泣き声が響きます。そこからが物語の本当の始まりです。
主人公と泣く少女の母と、人のせいにして自分の正しさを保とうとする人間の苦しさがありました。少女の母親は、なぜ、世話してくれた相手にありがとうと言えず、逆に攻撃してしまうのだろうか。ねたみ、同情に対する反発があります。
「ほおずきを鳴らす」
ほおずきの鳴らし方を知らないと思いながら読んでいたら鳴らし方が出てきました。ただ、読んでも実感がわかないので、YouTubeで見て、わかりました。それから文章を読んだら理解できました。
タワーマンションに1DKがあることも知りませんでした。ファミリー向けの間取りだけだろうと思っていました。
勝俣博嗣(かつまた・ひろつぐ)54歳、離婚歴あり。子、今はいない。製薬会社課長職のお話です。若い女性との出会いがあります。
読みながら人間は未熟と思います。学習するには負の経験がいります。しかたがありません。
子どもに関する悲しくてつらい過去があります。過去をひきずりながら生きることは苦しい。
分かれた妻が「同志」であるという言葉に伝わって来るものがありました。
ほんとうのようなうその話だと思います。
死の順番が逆なのはけっこうつらい。
最後まで読んで、ここまで話をふくらませなくても、途中までで十分心に響いたという感想をもちました。
「マゼンダ色の芍薬:しゃくやく。明るく鮮やかな赤紫色のしゃくやく」、「梅雨寒:つゆざむ。梅雨時にある寒い日」、「俗物:ぞくぶつ。欲に心を奪われているつまらない人」
「金木犀のベランダ(きんもくせいのベランダ)」
金木犀:秋に小さいオレンジ色の花が咲く。甘い強い香り。
パン屋さんを営む子どもがいないご夫婦のお話です。売れ残りのパンを養子にたとえます。奥さんは捨て子で施設育ちです。
メロンパンにこだわりあり。メロンパンは、全世代に受けるそうです。
良かった表現の趣旨などとして、「家族というわっかにつながった」、「(年配女性の言葉として)若い頃は生き生きしていたけれど今は年金暮らしのひとりぼっち。戦後で年頃の男性がいなかったから結婚しなかった」、「昔は、結婚と仕事、ふたつを手に入れることは難しかった」
結末まで読んで、淋しいと感じる人と、幸せと感じる人と、ふたとおりあるような気がしました。
メランジェ:小粒で種なし干しブドウとくるみを混ぜて焼き上げたとありますが、よくわからないので、ネットで調べました。ブドウパンだと思いました。
最近気づいたのは、結婚してもしなくても、こどもがいてもいなくても、こどもが巣立てば、最後はだれでもひとりになるということです。そうなったときに同じ舞台に立ってお互いに友だち同士になれるような気がします。
お気に入りの作家さんです。5本の短編があります。どうも、子どもを産む産まないの選択がテーマになっています。そして、どちらかといえば、産みたくない女性が主人公です。
「1DKとメロンパン」
35歳既婚、堀知佳さん、子どもを産みたくない願望があります。理由は、子育てがめんどくさい(子どもは親の言うことをきかないからとか保育園がみつからないとか、夜泣きとか)。母親や妹(もうすぐ出産)からのプレッシャーはありますが、夫の知宏さんからの要望はありません。
おもしろい記述の趣旨として、「自分はもてる女ではなかった。自分に興味をもってくれる男子がいなかった」、「女子ばかりの女子高では恥ずかしいことがなかった」、「自分も夫もまだこども」
堀知佳さんの妹佳奈さん夫婦に赤ちゃん誕生です。知佳さんのだんなさんがこどもを欲しくなります。でも、知佳さんはいらない。厳しくて重い雰囲気です。夫婦というのはやはり同じ未来志向がないと続けるのは苦しい。書中にあるのは、「妊娠、出産まではできても、その先が見えない」という女性の不安です。
問題提起の作品です。こどもを望まない親のもとに生まれる子どもはかわいそうです。不幸ともいえます。
「無花果のレジデンス(いちじくの高級アパート・マンション)」
読後感のいい作品でした。
イチジク無花果のタイトルを見ながら、内容は夫婦のうちの男性に問題ありで妊娠がしにくい話なので、男性の立場を表した単語なのかなとかんぐりながら読みましたが、逆にこどもができるほうの果実でした。
ふたつのシーンが同時進行していきます。主人公宮地睦生(みやち・むつお)の先輩牧村が突然死します。(無呼吸症候群だろうと思いました)牧村夫婦には、こどもがいません。もうひとつは、宮地夫婦のうち、妻が子を望みますが、夫はどうもこどもが好きではないようすです。
実体験として、歳をとって思うには、「孫を抱きたいから子をつくったのかもしれない」ということがあります。父さんとも母さんとも呼ばれることのない人生という趣旨の部分を読んでいてそう思いました。
違和感を表すのに、「微妙にサイズの違う靴を履かされているような」は、絶妙です。
調べた言葉として、「ED:たたない」
主人公宮地睦生は、亡くなった先輩の奥さん牧村千草に、二十歳のときに亡くなった自分の母親を重ねています。
じんときたセリフとして、「子どもには縁がなかったのね」
淋しさから逃れるために、「転居」という変化をしてみることはいいことだと思いました。
「私は子どもが大嫌い」
胸に何かが突き刺さる短編です。直木賞候補になった「トリニティ」より、こちらの本のほうが出来がいい。どうすることもできない自分の運命があります。
子どもが嫌いな理由の種明かしがあるのですが、ここには書きません。
36歳女性茂斗子(もとこ)さん、女子高を出て就職して以来、好きになった男性も好きになってくれた男性もいない。独身用マンションは両親の所有で、1階に両親、自分は最上階の4階に住んでいる。36歳といえば、昔なら小学生のこどもが複数いてもおかしくない年齢です。
子どもがぐずっているのに、スマホをいじっている親に対する敵意から始まります。
子どものいる知人がうとましい。ただ、ラインで子どもの写真を乗せる人は淋しいから注目してほしいという願望が底辺にあるのではないかと思いながら読みました。
独身専用のマンションに子どもの泣き声が響きます。そこからが物語の本当の始まりです。
主人公と泣く少女の母と、人のせいにして自分の正しさを保とうとする人間の苦しさがありました。少女の母親は、なぜ、世話してくれた相手にありがとうと言えず、逆に攻撃してしまうのだろうか。ねたみ、同情に対する反発があります。
「ほおずきを鳴らす」
ほおずきの鳴らし方を知らないと思いながら読んでいたら鳴らし方が出てきました。ただ、読んでも実感がわかないので、YouTubeで見て、わかりました。それから文章を読んだら理解できました。
タワーマンションに1DKがあることも知りませんでした。ファミリー向けの間取りだけだろうと思っていました。
勝俣博嗣(かつまた・ひろつぐ)54歳、離婚歴あり。子、今はいない。製薬会社課長職のお話です。若い女性との出会いがあります。
読みながら人間は未熟と思います。学習するには負の経験がいります。しかたがありません。
子どもに関する悲しくてつらい過去があります。過去をひきずりながら生きることは苦しい。
分かれた妻が「同志」であるという言葉に伝わって来るものがありました。
ほんとうのようなうその話だと思います。
死の順番が逆なのはけっこうつらい。
最後まで読んで、ここまで話をふくらませなくても、途中までで十分心に響いたという感想をもちました。
「マゼンダ色の芍薬:しゃくやく。明るく鮮やかな赤紫色のしゃくやく」、「梅雨寒:つゆざむ。梅雨時にある寒い日」、「俗物:ぞくぶつ。欲に心を奪われているつまらない人」
「金木犀のベランダ(きんもくせいのベランダ)」
金木犀:秋に小さいオレンジ色の花が咲く。甘い強い香り。
パン屋さんを営む子どもがいないご夫婦のお話です。売れ残りのパンを養子にたとえます。奥さんは捨て子で施設育ちです。
メロンパンにこだわりあり。メロンパンは、全世代に受けるそうです。
良かった表現の趣旨などとして、「家族というわっかにつながった」、「(年配女性の言葉として)若い頃は生き生きしていたけれど今は年金暮らしのひとりぼっち。戦後で年頃の男性がいなかったから結婚しなかった」、「昔は、結婚と仕事、ふたつを手に入れることは難しかった」
結末まで読んで、淋しいと感じる人と、幸せと感じる人と、ふたとおりあるような気がしました。
メランジェ:小粒で種なし干しブドウとくるみを混ぜて焼き上げたとありますが、よくわからないので、ネットで調べました。ブドウパンだと思いました。
最近気づいたのは、結婚してもしなくても、こどもがいてもいなくても、こどもが巣立てば、最後はだれでもひとりになるということです。そうなったときに同じ舞台に立ってお互いに友だち同士になれるような気がします。
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