2019年08月18日

おしいれのぼうけん ふるたたるひ

おしいれのぼうけん ふるたたるひ 童心社

 お化けが出てくるようなこわい話で子どもさん向けです。
 でだしがいい。「さくらほくえんには、こわいものがふたつあります。おしいれとねずみばあさんです」 これだけで、小さな子どもには恐怖心が生まれます。
 こわくなる犠牲者は、4歳に近い3歳ぐらいのさとしとあきらで、最初はちいさなことをきっかけにして、少しずつ、世界が広がりをみせていきます。
 みずのせんせいが、いろいろと世話をやいてくれる進行役です。さわいで注意しても言うことをきかないさとしとあきらをおしいれに入れます。ふたりのこどもは先生に注意されてもあやまりませんが、今の時代だと、押し入れに入れる行為は、体罰だと言われるかもしれません。
 上の段にさとし、下の段にあきら、閉じ込められた押し入れのなかで、ふすまの穴から外をのぞくふたりですが、みずのせんせいが、両手であなを押さえて目隠しをします。おもしろい。
 じょうききかんしゃとミニカーがふたりを助けてくれます。時代を感じさせてくれるふたつの乗り物です。
 57ページにあるビルのてっぺんに座るねずみばあさんの姿がこわい。迫力があります。
 物語は、けっこう豪快で、空間に広がりがあります。戦いは壮絶です。ついにふたりはつかまってしまいました。65ページの絵は、エンマ大王の前に引っ張り出された罪人ふたりです。エンマ大王がみずのせんせいに見えるのは失礼なことなのでしょう。でも、ふたりは、ねずみばあさんにあやまりません。
 強い者の上には上がいる。ひとつの世界はひとつの箱の中にあって、その箱はまた別の箱の中にある。そんなことを考えました。
 おしいれひとつで、壮大な冒険話ができあがっています。最後は、友情です。良い行為もそうでない行為も「仲間」で保たれます。人はひとりでは生きられないというところまで到達します。
 さいごは、こどもをおしいれに入れるしつけみたいな行為は中止されました。
 ラストは最初の記述に戻りますが、「さくらほいくえんには、たのしいものがふたつあります。それは、おしいれとねずみばあさんです」の結びがいい。こどもたちは、じぶんたちからわーっとおしいれに入るようになります。ねずみばあさんに会えるかもと期待してのことです。気持ちがいい終わり方でした。
 おしいれの上の段と下の段の世界、蒸気機関車とミニカーというふたつの道具、さとしとあきら、みずのせんせいとねずみばあさん、二面性をからめながらの複雑さがあるもののよく考えられてつくられた物語です。
 1974年発行の絵本です。おしいれのなかにあった高速道路の水銀灯は、いまはLED灯でしょう。いまのこどもたちがどう反応するのか読んであげてみるといいと思います。

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