2019年07月11日

トリニティ 窪美澄

トリニティ 窪美澄 新潮社

 お気に入りの作家さんです。いつかは、直木賞をとってほしい。2012年の作品「青天の迷いクジラ」は、映画になってほしいと思い続けていますがまだなっていません。3人の自殺したい人が、浅瀬に打ち上げられて瀕死の状態にあるクジラを見に行く物語です。
 さて、「トリニティ」という言葉は、トリプル、3人の女性ということで、読み始めました。まだ、461ページのうちの33ページまでしか読んでいませんが、感想は書き始めてみます。
 72歳を迎えた宮野鈴子(若い時出版社勤務、結婚後主婦)、79歳佐竹登紀子(フリーライター、今は貧困ごみ部屋状態のひとり暮らし。宮野鈴子にお金を借りている)が出てきて、早川朔(はやかわさく。本名藤田妙子。高齢80歳ぐらいの雰囲気。亡くなる)のお葬式で一緒になります。
 宮野鈴子の孫が出版社勤務なれど、彼女はオーバーワークで、うつ病のなりかけらしく、仕事に行けません。病欠で休職中です。このふたりが、佐竹登紀子宅を訪れて、昔話が始まります。
 早川朔の訃報の知らせが、宮野鈴子には、だれからかかってきた電話なのかがわかりません。佐竹登紀子へも連絡してほしいと伝言で頼まれました。発端をつくったのはだれだろう。(これは最後まで明かされません)

(つづく)

 タバコの煙や吸い殻、灰の記述が多いことで、臭いや汚れが頭に思い浮かび、苦になりますが、しかたがありません。記述されている昭和時代はタバコ社会でした。
 歴史の掘り起こしをしていく小説です。「永遠の0」形式で、まずは、72才宮野鈴子とその孫宮野奈帆が佐竹宅を訪問して、フリーライター79才佐竹登紀子にインタビューをします。
 
 昭和39年(1964年)東京オリンピックの年に潮汐出版(ちょうせきしゅっぱん)という会社で、3人の女性が出会います。三人がからんだ雑誌名が、「潮汐ライズ」
 宮野鈴子:事務員兼雑用係。18歳
 佐竹登紀子:文章を書く人。フリーライター 祖母、母、娘、三代物書き26歳、43歳の河津浩介(こうづ・こうすけ)と入籍
 早川朔(はやかわ・さく。藤田妙子):絵を描く人。イラストレーター。(佐竹よりも4歳ぐらい年下に思えます。22歳ぐらい)
 そして、時は流れ、現在は、宮野鈴子が72歳、佐竹登紀子が79歳、早川朔は亡くっなってお葬式のところです。
 
 IT機器の発達・発展ということがあったのですが、全員がそれについていけたわけではありません。いまだに、パソコンはもたない、スマホももたないという人も案外多い。
 使いこなせているのは一部の人たちです。年齢が若いから使えるということでもありません。

 イラストレーター、フリーライターという女性アーティストの一生物語です。仕事を極めようとしたら、家庭をもたない、家庭をもったら、夫婦の形態にこだわらない。妻の役割を果たせない。家事は家政婦を雇った方がいい。そんなことを思わせる生活ぶりです。

 山場のひとつだろうか。共働き、女性が仕事をもつと子どもを産めない。女子の反発があります。
 1969年1月東京大学安田講堂で学生2000人と機動隊が激突。東大生の数は少なかった。
 女性向けの新しい形態の雑誌を出す。「雑誌馬鹿」
 
 流行雑誌「ライズ」づくりの作業は、お金だけのつながりという印象です。次の女性社会優先をめざす新しい女性誌「ミヨンヌ(フランス語で、可愛い、魅力的)目標として、ちょっととがった雑誌」はどうなのだろうか。

 ヒモのようなだんなから、「(君に迷惑をかけるから)別れないか」と切り出されて、別れることができない。生き方として、結婚しても子どもを産まないという女性の生き方もある。自分は男を食べさせる立場でもいいと思う。結婚しても互いに別の異性と交渉をもってもいいと思う夫婦関係があります。不幸なのか、幸福なのか、それは、本人が感じることで、まわりの人間は何も言えません。
 それでも、浮気相手が絵描きとしての自分のライバルならつぶす。
 
 仕事の現場に男女の性別の差はあってはならない。

 経済的に生活力がある女性が求める男性像として、お金はなくてもいい。わたしが食べさせてあげる。わたしの話し相手になってくれるなら。

 別の職業女性は、子どもを産んだけれど、子どもを育てているのは女性の母親、つまり母方祖母です。こどもとの距離感ができます。

 時代は、学生運動、政治活動、三島由紀夫氏の自決、どんどん暴力的になっていきます。暴力の向こうにあるのは、「喪失」でしかありません。

 1985年佐竹登紀子フリーライター47歳まできました。彼女のエッセイが売れています。
 その頃、イラストレーター・アーティストの早川朔(藤田妙子)は、業界のやっかいもの扱いです。出版社は早川のイラストが売れた時代は終わったと評価しています。
 主婦木下鈴子の長女真奈美は高校三年生、大学受験です。仕事をしていない主婦の鈴子は主夫の立場を責められます。寿退社が見下される時代です。もうすぐ「昭和時代」が終わります。男の人を立てなさいの時代が弱くなっていきます。鈴子は娘に専業主婦にならないように勧めます。
 
 後半になって、生活臭がにじみ出てきました。仕事優先の仕事をしてきた女性が老後を迎えるとこういう気持ちになると受け止めました。
 まだ、50歳ぐらいの女性なのに、もう過去の業績の栄光しかありません。夫・子からの愛情はありません。いくらたくさんお金があっても、「(仕事で有名になって)売れる」ってなんなんだろう。
 
 読みながら思ったことは、「仕事はお金(生活費)のためにするもの。好きなことは、お金のためにするものではなく、自分の心を満たすためにするもの。たとえていえば、水や空気のようなもの」

 2000年、佐竹登紀子は62歳です。
 長編で、読むことで得られる充実感があります。

 つらいなあ。中学生の男子が、父親の不倫相手の女性に会いに行って、「父にもう会わないでください」と言います。

 生きていることはつらい。仕事優先の人生をうらやましいとは思わない。
 重い雰囲気の文節が続きます。親も子もひとりぼっちです。

 読み終えました。
 世代をまたいで、続いていくものがあります。
 読後感は、さわやかでした。

 調べたことがらなどとして、「映画「八月の鯨」:87年アメリカ映画。老姉妹の夏の日々」、「力が漲る:みなぎる」、「釣書:縁談のときの身上書」、「ゴブラン織り:フランスのタペストリー(壁掛け室内装飾織物)ゴブランは地名」、「アールグレイ:紅茶。柑橘系の香り」、「祖母の臑を囓る:すねをかじる」、「マリナ・ヴラディ:フランスの女優」、「ショパンとジョルジュ・サンド、マジョルカ島:ジョルジュ・サンドはフランスの女流作家。マジョルカ島は地中海にある島。ふたりで逃避行をした。同棲」、「トアイアンフ:イギリスのオートバイ」、「ポートフォリオ:携帯用書類入れ。デザイナーが自分の作品をまとめたもの」、「バッハとマグダレーナ:バッハの後妻、ドイツの声楽家」、「世田谷区の用賀:渋谷の西、6キロぐらい。ようが」、「パノラマ36:霞が関ビル。36階。1968年築」、「評伝:人物評価をまじえた伝記」、「コミット:関係する」、「ノンポリ:政治運動に無関心」、「1968年10月21日国際反戦デー。新宿騒乱」、「ベイタン:米国ジェット燃料タンク輸送列車」、「権威主義:権威に服従する思想、姿勢、体制」、「誹られる:そしられる。否定される。さげすまれる。中傷される」、「六本木交差点から狸穴に向かう:狸穴というところが実際にある」、「記事をディレクションする:指導、監督、演出」、「寵児:ちょうじ。人気者」、「エコノミックアニマル:なつかしい言葉です。お金第一の日本人を批判する言葉。外国人から見た日本人の性質」、「咄嗟:とっさ」、「結界:ある一定の地域を限る」、「黒いギャルソン:ファッションブランド」

 いくつかの印象的だったこととして、「専業主婦は夫に寄りかかる生活でみっともないというような考え」、「東京の人たちがマスクの人だらけになった」、「人間、幸せな時期は、そんなに長くは続かない」、「どこに生まれても、どういう育ちでも、世に出る人は出る」、「父と母にはそれぞれ恋人がいた(その後離婚)」、「60年代の大学進学率は2割」、「わたしはイラストレーターになると、犬に話しかけた」、「テーマは、ファッション、車、そして女」、「ふたりでいるようで、ひとりひとりがいただけだった」、「描きたいものを描けるわけじゃない」、「木下さんは悪い人ではない」、「女をばかにするな。ばかな男の下で働くのはもううんざり。好きな絵を好きなだけ描きたい」、「威圧感のある視線」、「いつも頭のどこかに仕事のことがある」、「こどもがもつ原風景」、「夫になにかあったらどうするの」、「ジャズ喫茶は音楽がうるさい」、「反戦フォークが嫌い」、「夫は仕事、女は家事育児、産めよ増やせよ」、「観光海外旅行ができるようになったのは1964年」、「(時代の変化で)何かが終わる。終わっていくものの中に自分が含まれているような気がする」、「(夫婦なのに)この家には男と男がいる」、「母親のくせに仕事ばかりして子どもの世話をしないという主旨の記述いくつか」、「地上げを先導しているのは銀行」、「家で食べる食事はすべて夫がつくった」、「発展的な別居」、「同じ屋根の下に住んでいるのにめったに顔を合わせない」、「出産、子育ては、女にとって足止め」、「雑誌愛」、「自分たちは親子ではなくて、ふたりもひとりぼっちのさびしいこどもだったという趣旨の言葉」、「セレッソは、スペイン語で、桜」

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