2019年02月27日

ニルスの不思議な旅 講談社青い鳥文庫

ニルスの不思議な旅 セルマ=ラーゲルレーフ 山室静訳 講談社青い鳥文庫


 小学5年生11歳の頃に読みました。覚えているのは、ニルスが悪い子で、こびとにされて、鳥のガンの背中にのって、北ヨーロッパの半島あたりを旅して、さまざまな体験をつみながら、心優しい人間に成長していくことと、鳥のリーダーの名前が、アッカさん(メス)だったことです。
 最後のシーンで、ニルスがこびとから人間に戻って、アッカさんたちと会話ができなくなって終わりを迎えた気がします。何十年も経って再読してみるとどんな感想になるのか、楽しみです。

(つづく)

 後ろの解説から読みました。作者が女性とは知りませんでした。作者も解説者もすでに亡くなっています。1906年ですから、もう100年以上前の作品です。作者はノーベル文学賞を受賞されています。本は、昔のものでも、いろいろと人間の生き方を教えてくれます。
 ニルスは、昔読んだ時は、自分と同じ11歳小学5年生ぐらいだと思って読みましたが、今回の本を読むと13歳~14歳となっています。年齢は、思春期、反抗期なので意外です。彼は動物たちに「親指こぞう」と呼ばれます。
 3月20日の日曜日から始まって、同じ年の11月9日の水曜日までの期間でお話が続きます。
 ニルスの個性設定は、「勉強は大嫌い、好きなのは食べることと寝ること。生き物をいじめたり、人にいじわるしたりで、少しも優しい心はない」というところから始まります。弱い者いじめをするとんでもない悪い子です。

(つづく)

 ニルスはガンの背中にのっていたと記憶していましたが、読みなおし見てみると、ニルスの家にいた飼い鳥の白いガチョウのモルテンの背中にのっていました。鳥たちは、リーダーのアッカさんを先頭にして、13羽が、Vの字になって飛びます。スウェーデンの南端から北にあるラップランドを目指します。春の渡りです。
 文章は流麗で、情景描写が美しい。
 気づいたのですが、ずるい人間(キツネ)をガンたち(庶民)が叩く精神があります。
 54ページまできて、ここまで読んだだけで、本書が優れた作品であることがわかります。ニルスとおばあさん、鳥たち、読者とのコミュニケーションがあります。
動物、鳥の動きには、迫力と勢い、スピードがある文章表現です。
 ニルス=ホルゲルソンは、お父さんも、お母さんも、先生も近所の子も、だれも好きにはなれない。みなニルスの思いどおりにはさせてくれない。
 どうやったら人間に戻ることができるのか。白いガチョウのモルテンの世話をすることができたら人間に戻してもらえる。弱い者(ヒツジ、ガン)の味方がニルスです。食べるのに必要以上の殺しはしないという注意があります。
 弱人強食の食物連鎖に逆行する内容もあります。生きるための助け合いを優先します。ケガした動物を見捨てません。
 たくさんの動植物の名称が出てきます。動植物園の中にいるようです。
 千と千尋の神隠しみたいなシーン、東日本大震災のシーン、万博会場にあるペルシャの宝飾商店、マルコポーロ東方見聞録みたいなシーンも出てきます。
 「きつねのずる公」がニルスたちの対立相手です。
 206ページまで来ましたが、本の中では、まだ、4月20日の日付で、スタートの3月20日からあまり経っていません。289ページが最終で、11月9日の日付なので大丈夫だろうかと最後の解説部分を読んだら、全体で原稿用紙2000枚以上、55章のうち、24章を選んで乗せてあるそうです。この本では半分ぐらいの文章量です。
 ニルスの小さな姿を想像しながら、洋画のアントマンとか、民話の一寸法師、アイヌのコロポックル、ヨーロッパのこびと、みな、なにかしら関連があるのではないかと空想します。
 湖の埋め立てを中止するお話があります。作品に自然保護の精神があります。湖、鳥、バルト海、雪をかぶる山脈。スウェーデンの首都ストックホルム、
 ワシのゴルゴが強いがゆえにだんだん孤独になっていく姿は良かった。
 ニルスがワシのゴルゴを檻から逃がそうと、毎日少しずつやすりで檻を切っていき、ようやく格子が切れます。少しずつ努力を積み重ねて思いをかなえる姿も良かった。人にやってもらうのではなく、お金で解決するのではなく、自分の体を使って仕事を為す姿がいい。
 鳥とニルスは、スウェーデンの南部から北部のラップランドを目指すわけですが、その距離は途方もなく遠いわけではなく、ラップランドは、避暑目的であることがわかります。夏は白夜で昼間が長い。
 鳥たちの移動はときに、飛行機をイメージします。
 後半にあるカラスのバタキーが話す「オオカミに襲われた旅人の話」が良かった。読み方によっては、人の良いだまされやすい人間になりなさいともとれるのですが、結果はそうではありません。
 今年読んで良かった1冊です。
 産業革命によって動物たちの生息域が減ってきている。さらに、人間同士は戦争をして人間同士で住み場所を奪い合っている。もうそんなことはやめましょうというメッセージが、100年前の人にあります。
 ラストシーンでは、ニルスに永遠にさよならではなく、再見(また会いましょう)とガンたちは言っていたと思いたかった。
 調べた言葉などとして、「植物採集のどうらん:小型のかばん」
 気に入った表現などとして、「少年は心をひきしめました」、「ぼくのお母さんはまだ生きている。お父さんだって生きている」、「(キツネに)しかえしをせずに助けてあげた」、「自分にも他人にも、けしてはやまったことはしないように。きっと逃れる方法はある」、「この世界は、人間がひとりじめにしていいとは思わないで」

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t133470
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい