2018年11月30日

変わったタイプ トム・ハンクス

変わったタイプ トム・ハンクス 小川高義訳 新潮クレストブックス

 名作映画に何本も出演した方がどんな小説を書くのか楽しみになって読み始めました。
 17本の短編集です。
 小さな日常を小さくも深く記述する方式のようです。

「へとへとの三週間」
 女性の名前はアンナ。男性は「僕」。ふたりは恋人ではないけれどボーイフレンド、ガールフレンド。
 読み始めてしばらく、映画の世界にひたる感じがします。
 女性の指導のもと、「僕」は、ジョギングすること、エクササイズすること、女性となにすることを連日続けていきます。男性は女性の装飾品みたいです。
 女性は仲間みんなで、南極へ行くと言い出します。
 「僕」の一人称で深刻そうな記述が続きます。
 「僕」はアンナの言いなりになっていた。
 恋愛していない。
 女は男の調教師だった。
 読み終えて、地球が小さく感じる文章でした。

「クリスマス・イヴ、 1953年」
 平凡な家庭のあったかい雰囲気のクリスマス・イヴを表しているのかと思いながら読んでいると、第二次成果対戦ノルマンディー上陸作戦の厳しい戦闘風景に一変します。心にしみる作品でした。
 映像を観ているような記述で脚本に近い。
 調べた言葉として、「プラテン:タイプライターの紙をかけるローラー」、「轟然:ごうぜん。大きな音がとどろく」、「アントワープ:ベルギーにある都市」、「喚く:わめく」
 ファミリーのイブ風景を読んでいて、自分が、車のトランクにプレゼントを隠していて、イブの前に子どもに見つかってしまったことを思い出しました。

「光の街のジャンケット」
 光の街は観覧車からながめる夜のパリの街並みで、ジャンケットは映画の宣伝旅行です。有名俳優の過密スケジュールはすごい。気が変になりそうです。
 話題の大作映画に出た男。自分を模しているのでしょう。ただし、売れない男優という設定です。チームで、ヨーロッパ、USAを宣伝で回ります。
 調べた言葉として、「グルーミング:髪、ひげ、体をきれいにすること。猫の毛づくろい」
 ちょっとしたトラブルがあってひとりの自由な時間ができます。幻想的で、映画のようです。

「ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」-印刷室の言えない噂」
 新聞記事形式の作品です。紙による新聞紙と電子による新聞の比較があり、作者は紙にこだわりがあります。わざと電子のほうは誤変換、誤植にしてあります。作者はこの本全体にタイプライラ―への愛着を記しています。
 調べた言葉として、「AP通信:アメリカ合衆国の大手通信社」、「コンチネンタル製のタイプライター:ドイツの会社のタイプライター」

「ようこそ、マーズへ」
 マーズというのは場所のことで、サーフィンをする海岸です。
 5人家族ですが、いさかいがあったらしく、今は、オヤジと19歳の息子のふたり暮らしらしい。母と娘ふたりの女3人は家を出たようです。
 オヤジと息子は、マーズへサーフィンをしに行きます。今度はそのふたりに別離の気配があります。味わいがありました。

「グリーン通りの1カ月」
 外国作品なので、一度読んだだけではピンとこないところもあります。とくに人の名前。一度全体を読んでから、最初に戻って、メモをしながら再読をしています。
 夫が浮気して、離婚して、3人のちびっ子をかかえて生活するママです。市井(しせい。庶民)の暮らしを描写します。
 子どもたちはたくましい。父親はいらない。家族について考えます。とくに、血縁関係のない夫と妻。そして、相方との継続性。
 部分月食、天体望遠鏡、夜空の話し。天体をとおして「時間」という空間を感じられる作品です。
 小道具をいっぱい羅列する記述方式です。iPad、ソーラーパネル、ハンモック。
 調べた単語として、「ナノ秒:10億分の1秒」、「閃いて:ひらめいて」、「アプリコットの木:杏あんず」

「アラン・ビーン、ほか四名」
 空想宇宙旅行、月旅行のお話しです。アポロ13に出演したから書いたのだと思います。
 ふと思う、人類は本当に月面上にいたのだろうかと。
 調べた言葉として、「ルビコン川を渡る:もう後戻りはできないという覚悟で行動を起こす」
 この作品はあまりおもしろくありませんでした。

「ハンク・フィセイのわが町トゥデイ」
 新聞記事形式の短文です。ニューヨークの風景が生き生きと文章で表現されています。雰囲気がよく伝わってきます。才能を感じます。

「配役はだれだ」
 映画人だから書ける内容です。アリゾナの田舎から出てきて、ルームシェアをしながら、女優を目指している女性は、ニューヨークに来て失望しています。オーディションを何度受けても落選です。資金も尽きてきました。
 不潔で、雑然としていて、変人がいるニューヨークです。ひとごみがあります。
 恩人と出会い、履歴書づくりです。
 気に入った表現として、「舞台に立てればそれでよい」、「ニューヨークを描いた映画は嘘だらけ」、「ニューヨークに出たんだからもう立派な親不孝」
 ここにも、タイプライターへのこだわりがあります。
 調べた言葉として、「踵をかえす:きびすをかえす。引き返す。踵はかかと」、「アリゾナ:人口630万ぐらいで国の左のほう。グランドキャニオンあり」、「タイプライターのマージンとタブ:マージンは左右の余白、タブは、文字をあらかじめ設定した任意のところに位置させるキー」、「オレオを食べる:サンドイッチ状のクッキー」

「特別な週末」
 離婚した両親をもつ10歳の男の子の日常にワンスポットの照明を当てたお話です。男の子は実父に引き取られて、実父再婚後の義母と義母の連れ子と生活しています。そして、面会の機会があるのか、今日は、実母と実母の彼氏と過ごす時間があるのです。
 時は、1970年で、日本では、昭和45年です。どうもこれはトムハンクス自身の生い立ちの話です。事実そのものではなく変化はさせてあると思います。
 共働きの実母である母親のつらさが伝わってきました。
 ベトナム戦争の影もあります。
 10歳の子どもが夢をみた内容のような作品です。別れた実母との面会は、その時は楽しいが、時間が過ぎて、さよならすると淋しくなる。
 調べたことなどとして、「サクラメント:人口50万人、太平洋側カルフォルニア州」、「ディスペンサー:飲み物を定量で出す装置」

「心の中で思うこと」
 中古のタイプライターを5ドルで買った女性がいます。でも、そのタイプライターの調子が悪い。修理してもらおうとタイプライター屋に行ったら、それは、タイプライターではなく、タイプライターのおもちゃであることがわかります。女性は代わりに本物の中古のタイプライターを購入します。店主の「物は使うものだ」という趣旨の言葉がいい。読みながら、もう40年ぐらい前に、自分自身仕事で和文タイプライターを毎日打っていたことを思い出しました。
 調べた事柄として、「ポッドキャスト:インターネット上の動画・音声」、「ヘルメス2000:タイプライターの機種」、「筺体:きょうたい。機器類を入れる箱」

「ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」」
 記者の妻の実家への里帰りから始まり、タイプライターをタイムマシンとしながら、過去から現在までを表現してあります。前作と雰囲気が似ています。

「過去は大事なもの」
 現代に存在する男性がタイムマシンで過去への旅を繰り返すうち、過去に存在する26歳の女性に恋をする物語です。
 ただ、わたしには合わない物語でした。
 映像を観るようでした。
 調べた言葉として、「ライラック:紫、白色の花をつける落葉樹」、「アルゴリズム:計算手順、処理手順」、「ヘーゼル色:瞳の色。淡い褐色」、「

「どうぞお泊りを」
 映画の脚本形式の作品です。
 時代旅行的なもので、あまりピンとこないまま読んでいきましたが、最後は感動的でした。非日常的です。
 調べた言葉として、「ピラティス:胸式呼吸のストレッチ運動」、「グリドルケーキ:ホットケーキ」、「ハンク・スノウの「どこへでも行ってやろう」:アメリカ合衆国カントリーソング」

「コスタスに会え」
 アメリカ合衆国に船で不法入国するブルガリア人移民について書いてあります。今のアメリカ合衆国政権とは考えが違います。アメリカ合衆国国民は、多民族であることを肯定する内容です。
 ブルガリアは貧しい国という意外な発見をしました。
 ここにもタイプライターが出てきます。
 難民なのか、避難経路での出来事や密航は過酷で悲惨です。自分が難民なら他国に助けてほしいし、受け入れ側の国民なら受け入れたくないというのが人間の正直なところでしょう。
 複雑な人間心理があります。ここが、アメリカ合衆国、これがアメリカ合衆国、しかし今、政権はテロ対策を理由に難民を排除しようとしています。
 調べた言葉として、「ジブラルタル海峡:ヨーロッパとアフリカの間にある海峡」、「ドラクマ紙幣:ギリシャ紙幣」

「ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」」
 コーヒーのお話です。作者はアナログが好きです。タイプライターが好きなのは、過去の温かい雰囲気が好きだからと考えます。不便でもぬくもりがあればいい。
 調べた言葉として、「バリスタ:コーヒーをいれる職業」、「フレーバー:香料」

「スティーブ・ウォンはパーフェクト」
 ボーリングの連続パーフェクトゲームを成し遂げるのがスティーブ・ウォンという若者です。読んでいると、洋画「フォレスト・ガンプ」を思い出します。
 この本でよく使われる言葉として「ナノ秒:10億分の1秒」
 他の話も含めて、中間部分ではほわーっとしていて、なんだかわからないのですが、最後の締めはきちっと締めてあります。この話の最後も予想できませんでした。

 秋の夜長を読書で楽しめた1冊でした。

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