噛み合わない会話と、ある過去について 辻村深月 講談社

 長くてわかりにくいタイトルですが、4本の短編のうち1本目を読み終わるとその意味がじっくりとわかります。1本目の「ナベちゃんのヨメ」は、質が高い。いい内容です。良かったセリフとして「人の嫁を嗤う(わらう)権利は私たちにはない」
 大学時代コーラス部で男子扱いされない色白の男子が結婚するのですが、彼の婚約者に問題があるのです。それでも彼は彼女を愛しているのです。

2本目「パッとしない子」5人組男性アイドルグループの25歳男性が卒業した小学校を訪問します。調べた単語として「MC:マスターオブセレモニー。仕切る人」読んでいる途中、これから先、どうなるのだろうかという未知への期待感がふくらみます。
人間のもつ「隠れた悪意」をあぶりだす内容です。こういうことってあるだろうなあというふつーのことです。人間だもの。仕方がないんじゃないか。ひとりの人間は、加害者でもあるし、被害者でもある。ありのままに受けとめるしかありません。

 自分では相手を傷つけた覚えがないのに、相手は相当に傷ついている。傷つけられた相手はそのことで自分を怨み続ける。直接的な攻撃や被害があるわけではない。ふだんは表面に出ない人間の思いを上手に表現してあります。

3本目「ママ・はは」継母の話かと思いきやそうではありません。最後まで読みましたが腑に落ちない部分があります。スミちゃん(29歳住吉亜美小学校教員)のママは他人でいいのだろうか。たぶんいいのだろう。極めて厳しい娘と母親との関係です。だけど、あり得ます。導入部の引っ越しの梱包手伝いのときに友人に来てもらって手伝ってもらうということはないような気がします。運搬ならあります。梱包はプライバシーを知られるので女子ならなおさらないような気がします。親子は対等の関係ではないという親の主張があります。もちろん親が上で、子は従うほうです。記述にあるとおり親が悪いわけではありません。そういうものなのです。人間の哀しさがうまく表現されています。よかった表現として、「お母さんが、その家のルールそのもの」

4本目「早穂とゆかり(さほとゆかり)」
 この本は教育現場の話が多い。4本目はそこに雑誌編集記者がからみます。2本目と内容がかぶるような気がします。何回も使う手ではないと思うのですが…
 目についた文として「大学デビュー」
 読んでいて、仕事はつらいなあと思う。
 ゆかりという女性が発言する意見を聞いて、ゆかりは可哀想な人と思うか、彼女の意見を支持するかふたとおりの受け止め方があります。
 人をばかにしてはいけないという教訓があります。とくに、相手を見下して自分の地位を高めるということがいけないこととされています。
 調べた言葉として、「自意識:周囲とは区別された自分への意識」
 過去において、いじめられた人間が、何十年も経って、いじめた相手に復讐する復讐劇です。
 すごいエネルギーがあります。
 いじめ撲滅と基本的人権の尊重が作者からのメッセージです。
 なにか、賞をとってほしい。

 なんとなく、いいもわるいもないのですが、昭和時代には肯定されていた人間関係のありようが否定されたような気持ちになります。

 ひとりの人間の隆盛は永遠に続くものではありません。時の流れに応じて立場は何度か逆転します。そして、最後はみんなが「老い」を迎えます。

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