2018年06月14日

わたしがいどんだ戦い1939年 2018課題図書

わたしがいどんだ戦い1939年 キンバリー・ブルベイカー・ブラッドリー作 大作道子訳(おおさく・みちこ) 2018課題図書

 舞台はイギリスロンドン、タイトルにある戦いの相手は、母親であり、自分であり、世間であり、対処は、「障害者差別」です。時代背景として、第二次世界大戦、ドイツの独裁者ヒトラーがいます。

 右足首がねじれていて、歩行に障害がある主人公は女性で10歳、名前をエイダといいます。弟の名前がジェイミーで6歳、外国だから、新学期が9月で、この秋に小学校1年生になります。ただし、第二次世界大戦が始まったので、ロンドンはドイツ軍に空襲されるおそれがあるので、ふたりは、田舎へと疎開します。(避難する。)

 エイダのような足首に障害がある(ねじれて、足の裏が上を向いている。)人を見たことがあります。ちゃんと仕事をしていて、電車で通勤をされていました。たいへんだろうなあと思いましたが、かわってあげることは物理的にできません。

 ふたりのこどもはロンドンのスラム街にいます。昔、ロンドンには貧民街があったという小説を昔読んだことがあります。テムズ川の話を思い出しました。川をさらうといいものが出てくるのです。貧民はそれを拾って生きる。
 エイダは差別を受けています。行為者は母親です。父親はいないようです。外に出してもらえません。みにくい、みっともないというのが、外出禁止の理由です。歩こうと思えば歩けるのにです。ひどいしうちです。母親は娘エイダを「怪物」と呼びます。本当の母親なのだろうか。
 障害者を家の中に隠す習慣は昔の日本にもありました。今も一部残っているのでしょう。
 
 人間はだれしも、としをとって、体がいうことをきかなくなります。歩行困難で車いすになったり、人工透析を受けたり、記憶がとんだりします。つまり、人間は最後はだれしも障害者になるのです。だから、障害者の人は心苦しく思う必要はないのです。早いか遅いかの違いがあるだけです。

 歩く練習をする。狭い部屋の中ばかりにいたら練習になりません。

 差別用語として、「ちょっと足りない人」
 どうも、エイダは母親から、ドイツ軍の空襲で死んでもいい人と思われている。
 近所に住むスティーブン・ホワイトがそんな様子を見て言います。「おかしいよ。」 たしかに、おかしい。
 エイダは、家出同然で避難列車に弟と乗り込み、母親から分離、つまり、自由になりました。列車の窓から、ポニー(子馬)にのった少女の姿が見えました。彼女も障害者で歩けないのかもしれない。読み手の期待がふくらみます。ピョンチャンオリンピックのパラリンピックを思い出します。

 列車は人身売買のようなことをするためにこどもたちをのせていました。もらい子なのです。障害者のエイダとその弟のジェイミーはもらい手が現れませんでした。まるで子犬のやりとりです。

(つづく)

 ふたりの姉・弟のもらい手は、スーザン・スミスさん、中年のこどものいない女性です。彼女の家は牧場のそばにある。隣が軍の飛行場。イギリスの島の南東部フランス寄りの地域ケント州に住んでいます。お金持ちのようです。スーザン・スミスさんはとってもいい人です。

 ここまで出てこなかった「松葉杖」が出てきます。どうして右足首に障害があるエイダが使用しないのか不思議でした。「内反足(ないはんそく)」という病気です。エイダの病気の正式名称も出てきました。
「足が悪いからといって、頭が悪いことにはならない。」

 こどもふたりは、生年月日が不明です。戸籍制度がない外国ではよくあることです。いつ生まれたのかは問題ではない地域や国があります。

 聞いたことのない病名も出てきます。「膿痂疹:のうかしん。皮膚病。黄色いかさぶたみたい。」、「くる病:ほねの障害」、「栄養失調:栄養不良で不健康」

「ベッキーのハンター:ベッキー所有の(馬の種類)高級馬」
「スイカズラ:つる」
「あぶみ:乗馬をするときに両足をのせる部分」
「内反足のフォウル:内反足の馬のあかちゃんということ。」
「ライサンダー:第二次世界大戦中のイギリスの飛行機。小型輸送機10人乗り」
「スイスのロビンソン:スイスの児童文学作品。船が難破して孤島で暮らすファミリー」

「(第二次世界大戦の)勝利とは、平和のこと。」

 たたみかけるような項目ごとの展開です。

「スコーン:スコットランド料理。パン」

 放置、放任主義のエイダの母親を責めることはできません。母親の気持ちは理解できますエイダの世話ができる環境にあればそうするのですが、そうできない事情があります。お金と言えや土地があるスーザン・スミスさんならできます。

 聖書とは何だろう。左利きの弟ジェイミーが責められます。左利きは悪魔の印(しるし)だそうです。証拠はありません。

 蹄(ひづめ)、書中にあるように爪です。切っても馬は痛くありません。むしろ切らねばなりません。エイダは自分の爪を切ったことがない。歯で噛み切っていたと話すのはかわいそうでした。弟のジェイミーのおねしょはあいかわらず止まりません。精神的なものが原因でしょう。

ネコの名前が、「オナガ―」

「ほんものの家族」ってなんだろう。血縁関係は重要なのか、それとも、気持ちが重要なのか。

 読み書きができるようになりましょうという「教育」の志があります。エイダは、右足内反足という障害に対する劣等感が強い。

(つづく)

「ガチョウのロースト:オーブンで焼く。串にさしてあぶる。」
「チャー:賃金の安い掃除婦」
「6月のダンケルク撤退作戦:1940年。ドイツ軍におされて、イギリス軍はフランスダンケルクからイギリスへ撤退した。40万人の軍人があらゆる船に乗船してフランスからイギリスへ帰国した。」
「ウィストン・チャーチル首相:

 エイダは思春期に近づいてきたためか、自立心が強くなってきます。反抗的です。ある意味、それまでの自分をくつがえすための自分とのたたかいです。
 「内反足」を治す手術を受けたい。ちゃんと歩きたい。閉所恐怖症を克服したい。母親からの虐待を受けて、戸棚に閉じ込められた体験があります。巻末をみると作者自身も虐待を受けた体験があるとあります。作者はこの本を書くことで親に仕返しをしたのかもしれません。こどもを虐待する母親は母親ではない。子は母親を捨てた方がいい。子どもが欲しくなかった女性、望まない妊娠をした女性もいる。人間界は厳しい。

「戦争に感傷は禁物」

 スーザンは責任をきちんと果たす人です。

「ローズマリー、ラベンダー、セージ:セージだけがわかりませんでした。多年草、薬草」
「ランドガール:イギリス。婦人農耕部隊」

 最後の盛り上げ方は、すばらしかった。

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