2017年08月23日

長いお別れ 中島京子

長いお別れ 中島京子(なかじま・きょうこ) 文藝春秋

 老衰、認知症、お別れの話かと思って手にした本です。
 短編8本がおさめられています。

「全地球測位システム」
 アルツハイマー型認知症の元中学校長男性とネグレクト(育児放棄)気味の姉妹とのふれあいです。
 文章運びがうまい。ベテランの味があります。
 いいなあ。

「私の心はサンフランシスコに」
 おもしろすぎる。今年読んでよかった1冊です。
 おもしろ、おかしい。
 妻72歳、夫はぼけている。

「おうちへ帰ろう」
 むずかしい漢字を読めるぼけ老人の祖父と、漢字が読めない十代男子孫とのやりとりがとてもおかしい。

「フレンズ」
 落語のようです。おもしろすぎる。
 いいセリフの趣旨として、「結婚とは、あきらめることです」
 話の運びがうまい。

「つながらないものたち」
 しあわせってなんだろう。どういう状態がしあわせというのだろう。
 それは、「標準」であることではないようで、実は、「標準」であることのような気がする。
 なんども、「家に帰る」というセリフが出てきます。自宅にいるのに、「家に帰る」というセリフを言われます。その「家」は、もう、この世には無い、過去のものとなった「(昔の雰囲気がある)自宅」なのでしょう。帰る家はもうこの世のどこにもないのです。泣けてくるような話です。

「入れ歯をめぐる冒険」
 アルツハイマー型認知症を患って9年が経過しました。夫婦ふたりともが認知になったら、家の中はどうなるのだろう。

「うつぶせ」
 読めなかった漢字として、「俄か:にわかに」、「喚く:わめく」
 短編の内容はまあ、めちゃくちゃです。介護の様子で、不謹慎ですが、(おもしろい)

「QOL」
 アメリカにいる孫たちのことから導入するパターンがいい。
 距離感があっていい。

 ケアマネジャーという職業のたいへんさ、重要さ、高い位置がわかります。なかなかできない。志が必要です。
 
 QOLとは、人間らしく生きることらしい。
 主人公は、自分で決めたわけではないけれど、こう言います。
 「もう、いい」
 長い10年間でした。

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