2017年02月12日

ファミレス 上・下 重松清

ファミレス 上・下 重松清 角川文庫

 久しぶりに読む重松作品です。前回読んだのは、2013年の「ゼツメツ少年」以来です。
 この「ファミレス」上巻を230ページまで読んだところですが、作風に変化がみられます。以前は、孤独な少年少女、いじめにあっているとか、両親が離婚・再婚して連れ子の状態とか、極限状態におかれたこどもたちを中心において、涙が止まらなくなるほどの感動を呼ぶ作品群がありました。今は、喜劇としての娯楽作品、商業作家さんの趣(おもむき)です。またこの本は、料理の本でもあります。

 三組の夫婦が登場します。中学校国語教師とその妻(この妻が離婚届を隠しもっています。)、出版社勤務の男性と妻(この妻は親の介護を理由に実家の京都へ帰ったままもう5年ぐらいが経っています。)、バツイチの弁当・仕出し屋の男性と妻(再婚後の妻で、夫より17歳年下)

 中身は料理の本です。ファミリーレストランの料理を良しとするところにいきつきます。

 小説家慣れしている文章です。長年の作家活動で、いかようにもものごとを文章で表現することができます。読んでいると、とても真似できない才能をみせつけられます。

 こどもふたりが巣だって、夫婦ふたりの生活になって、さて、どうする。というところから始まります。そしてまもなく、夫は、妻が記入済みの離婚届用紙を偶然発見してしまうのです。妻はまだ何も言いません。17ページあたりで、「ヨシ! おもしろくなる」と読み手は興奮します。長年夫婦げんかもなく、波風が立たなかったことが離婚の原因かもしれないと読み手は思います。
 「離婚届」の用紙1枚で、200ページ以上まで引っ張れる文章の力量があります。

 同じ時刻に3人の男子がどこで何をしているかと書く書き方がうまい。
 人同士が愛称で呼び合うのがいい。例として、「タケさん」

 「昭和時代の賛歌」なのかと思う部分があるのですが、正直、もう「昭和」はいい。

(つづく)

 テレビのバラエティー番組をみているような感じで文章が進んでいきます。

 どうも、奥さんは本当に離婚を考えているようです。夫に、束縛され続けたこれまでの結婚生活が浮き彫りになってきました。このままだと、夫は捨てられる。定年退職を前倒しにして離婚申し入れがなされそうです。妻は、「自由」がほしい。だから、職もほしい。

 仙台、被害日本大震災の被災地は悲惨です。このあとどうつないでいくのか。

 心の落ち着く場所として、「ファミレス」の存在が強調され始めました。

 上巻を読み終えました。

(つづく)

 みんな仲良しの物語が続きます。
 下巻40ページ付近に、重松作品らしさが顔を出します。離婚して前妻が引き取った息子が高校2年生ぐらい、ずっと会っていない、これからも会うことはない。
 
「ダンスク:デンマーク風の鍋」、「ターコイズブルー:青と緑のあいだの水色」、「クリュグ:フランスのシャンパン」、「豚ロースのアリスタ:イタリア料理。豚肉をスライスして焼く」、「総菜と弁当の移動屋台」、「ロハス:健康・環境問題重視の生活スタイル」、「インディーズ:大手に対して独立プロ、小さなレコード会社」、「プルーン:西洋スモモの実」、「S・C・C:サバイバル・クッキング・クラブ」、「ゲンかつぎ:以前の良い結果が出た行為を繰り返す」、「午餐:ごさん。昼食」

印象的だった言葉として、「平凡とは飽きがこないこと」、「夫婦に大事なのは言葉」、「なんとも中途半端な雨脚(あまあし)」、「ふりだしよりさらに後退したところに戻る」、「会社に定年があるように、夫婦にも定年があってもいいじゃないかという思想」、「母は離婚をがまんしていたら、チャンスを逸して、今は、認知症のおばあさんになってしまった」、「おしどり夫婦は仮面夫婦」、「きっぱりと離婚宣言する女性」、「(金儲けはできなくても)美しいだんななら人生は楽しくなる」、「昭和時代は男尊女卑の時代」、「進歩がないとういうことは、健在であるということ」、「昭和時代、惣菜屋は批判された。お袋の味、お母さんが作った弁当が優先という考え(この部分、77歳の千春おばあさんの話には泣けました)」、「昭和時代は足し算の思想。ものが増えれば幸せと思われていた」、「実母の命令下にあって、なにも決めることができない夫」、「正しくても、優しくない」、「過去を失うことは未来を失うこと(みんな海へもっていかれてしまった)」

家族をファミレスにたとえてあります。ファミレスとは、失う「レス」であること。
再生できる夫婦、できない夫婦があります。もっとも、結婚のスタートからつまずいたまま長期間が経過している状態ですから、「再生」というよりも「始動」のほうがふさわしい。
 後半は、イベント企画実行をするように盛り上がっていきますが、現実には、それはできない。

「慰め」は偽善者がすること。「(相手のために)怒ってやれ」

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