2016年12月23日

すみなれたからだで 窪美澄

すみなれたからだで 窪美澄 河出書房新社

 短編8本です。
「父を山に棄てにいく」
 迫力ある文脈です。フィクション(仮想)かと思いきや、作者自身のこと(ノンフィクション)のようでもあります。家庭が、家族が壊れています。そして、父親を山の中にある施設に、棄てるような気持ちでいれるのです。リアリティがあります。
 社会福祉の本のようでもあります。ソーシャルワーカーも出てきます。
 主人公は山下さん女性45歳、両親不仲、自分12歳、弟4歳のときに母が家を出て、以降、祖母に育てられた。自身は子どもを生後間もなく亡くして、次の子を授かった。
 強く印象に残ったフレーズとして、「自分が正しいと思ったことを曲げる(ことができなかった。)」
曲げることができないと人生で苦労します。矛盾だらけが人生だからです。
 「お父さんのこどもで恥ずかしい」は、父からみると、けっこうつらい。自殺願望が強い、死にたい父さんがいます。

「インフルエンザの左岸から」
 どうも、前作と関連があります。主人公は男性です。前作の山下さんの弟さんのようです。12月18日父、死亡。老人介護施設にて死亡。弟の名が隆、隆の婚約者が、佳奈子です。
 主人公が10歳のときに両親が離婚した。4歳年下の隆がいる。10歳、6歳で、祖母に育てられて、主人公が20歳のときに祖母が他界した。母親は、年下の男と再婚していた。
 一人称で、本音の言葉が続きます。

 印象に残ったフレーズとして、「仕事は食べていくための連続的な作業だ。(自分の感想として、仕事に生きがいはない。そういうことってある)」

「猫降る曇天」
 記述表現がうまい。リズムにのって流れるように素敵な文章が続いていきます。
 文章が繊細であるがゆえに、主人公が男性という設定が意外です。繊細な男は少ない。
 どの短編も家庭とか家族が破たんしています。離婚とか、親子離ればなれとか、表には出ないよくある裏事情です。読んでいて、受け入れることはできるけれど、なにかしら、人生がわびしくなります。

「すみなれたからだで」
 セックスレスの夫婦で、妻側からの事情です。女性にも性欲はある。なんだろう。人間であることを再確認する短文でした。

「バイタルサイン」
 タイトルの意味は、生きていることを示す指標。体温、脈拍、血圧の表記から小説は始まります。
 継父と女児の悲しい出来事です。何年もの永い時が過ぎていきます。そして今、継父の死に際です。
 有名芸術家夫婦の娘として育つ彼女の成育歴はいびつにゆがんでいます。実態として棄児(きじ。捨て子)。読んでいて、気持ちのよいものではありません。
 心に響いた表現として、「母の頭のなかには、何か違う生き物がすんでいる」、「ぶざまに、私はまだ生きている」
 家庭の崩壊と破たんがあります。テーマは、「生と性、そして愛」

「銀紙色のアンタレス」
 空想の世界です。現実的ではありませんでした。16歳の男子と女子は、作中にあるような会話はしません。
 アンタレスは星座を意味します。しし座生まれの16歳ぼくである「真(まこと)」は、季節は夏が好きで、海で泳ぐことが好きです。夏は単身、海辺にある祖母宅で過ごします。父は単身赴任、母は父のところへ行きました。
 途中、じいちゃんの葬式話が出ます。棺桶の中で、じいちゃんの手は冷たかったとあります。癌による病死ですが、身につまされます。自分はもうじいちゃんの立場なので、しんみりしました。
 「菜箸:さいばし。よく聞くけれど、意味は知らないので調べました。料理をつくるとき、盛り付けるとき、取り分けるときに使用する箸。食べる時には使わない。」
 江の島あたりの海の水は、泥水という表現に、そうなのかと思いました。きれいな海水を想像していました。
 同級生、それから、年上女性とのほろにがい恋話があります。女性から見た男性心理です。良作なれど、装飾されています。

「朧月夜のスーヴェニア(おぼろ月夜のおみやげという意味だろうか)」
 うーむ。なんと書いていいのかわかりません。
 かなりトゲがある認知症高齢者女性のセリフから始まります。祖母の視点で、甘やかされて育った30歳過ぎの未婚孫娘のだらしなさ、息子夫婦への批判から始まります。
 世代間というものは、対立しかなく、協調することもなく、年功序列で、上の世代が消えていく。そんな、感慨しかもてませんでした。

「猫と春」
 猫がついてくる。やがて、男は猫を飼う。同時に、女との共同生活(同棲)が始まる。猫と女が家を出ていく。ラストのオチはお見事でした。
 よかった文章として、「ふたりとも就職活動に失敗した。」、「仕事行きたくないな」


 全体をとおしての感想です。
 人間のしぶとさがありました。悲しみに耐えていく。
 それぞれ、短文なれど、長期間の時の流れが描かれています。うらみつらみやら、愛憎やら、性がらみの記述やらです。人間らしい。
 生きていてもいいことはないと思うのか、そうでもないとかわすのか、それは、人それぞれです。
 自分で選択して決める。それができたら最高なのに、そうはいかない。


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