2016年10月02日

玉依姫(たまよりひめ) 阿部智里

玉依姫(たまよりひめ) 阿部智里(あべ・ちさと) 文藝春秋

 ファンタジー(空想、幻想)小説です。
 高校1年生女子、葛野志帆(かどの・しほ)が、山内村(さんだいむら)で、山神(やまがみ)を育てる母親になるようです。彼女の家族構成、生い立ちは現実味があります。
第一章61ページまでを読み終えました。読みやすい文章です。描写はグロテスクなところもあります。「クロウテヤル」は、不気味でした。

高1志帆の祖母久乃は、夫と息子修一を捨てた。
志帆の両親は10年前に事故死。母は、修一の妹で裕美子
修一は、志帆の母の兄にあたる(叔父)
現在47歳修一の子は、彩香と修吾で、志帆のいとこにあたる。
修一ファミリーは、山内村(さんだいむら)に住んでいる。
志帆は、東京で母方祖母久乃と住んでいる。母の故郷は山内村(さんだいむら)
 なかなかむずかしい。祖母の久乃がなにか物語の展開の鍵を握っていそうです。
 つまり、おばあさんがいて、そのおばあさんは、夫と息子を残して、娘とふたりで山内村から逃げ出したと。
 息子は、母親である志帆のおばあさんをうらんでいる。息子は、姪の志帆を山の神へのいけにえにしようとしている。そうやって、母と妹ファミリーに仕返しをしようとしている。そんなふうに受け取りました。

 異界とは「山内やまうち」を指す。大きな黒い鳥が飛んでいる。巨大なカラスである。「八咫烏やたがらす:人間ではない。烏である。日本神話に登場する導くカラス」
 神域で人間の言葉を知るのは、山神、大猿、そして奈月彦なづきひこ

 ただ、読んでいて、志帆はタイトルにある「玉依姫(たまよりひめ)」の扱いではありません。読み手は、志帆が玉依姫になるという先入観をもっているので、クエスチョン(?)です。

気に入った表現の趣旨などです。「空きかんのそこを打つ雨だれの音として、てんてんという音の表現」、「烏(カラス)。登場人物として、10歳に満たないやせっぽちの少年はカラスなのかもしれない(違う動物でした)」、「線香花火を閉じ込めたような輝き」、「1年たっても成長がみられない山神やまがみ(成長に愛情が必要)」、「人間の味方ではない。(自分なりに転じて、日米安保で)アメリカ人は、日本人の味方ではない」、「脳を揺らすような響き」、「最初に戻ったのは、嗅覚だった」、「卵をおとしたカップラーメンはおいしい」、「身寄りがなく、いなくなっても騒がれない少女をいけにえにする」、「いじめられているのに、いじめられていることに気づかない性格」、「行き過ぎたお人よしは病気」、「天狗であるという自覚があって、他者からの認識がある」、「卵とニワトリが存在している事実がある」、「志帆はからっぽ。意志がない」、「神のいない土地はない」、「時代の流れとか動きは:人間にはどうすることもできない力」

以下大量のむずかしい国語勉強です。重複もあります。「唐櫃:からびつ。長方形の箱、足つき」、「ゴク:御供物(おくもつ)、人見御供(ひとみごくう)。山神へのいけにえ」、「禁足地:足を踏み入れてはならぬ土地」、「鬱金色うこんいろ:鮮やかな黄色。ウコンという植物の根で染める」、「みそぎ:水で体を洗い清める」、「茣蓙:ござ」、「体を乗り換える:のりうつる体を変えるという意味にとりました」、「岩を穿つた:いわをうがつたとは、岩に穴をあけるという意味」、むずかしい漢字がとても多い。受験したことはありませんが、漢字検定みたいです。「太陽の眷属けんぞく:太陽の従者。八咫烏やたがらすのこと」、「さめざめと泣く:しきりに涙を流して泣く」、「洞穴:あまり目にすることがない単語なので、最初はどうくつとかどうけつ?と読んでしまいました」、「酷い:ひどい、なのですが、いつも、みにくいと読んでしまいます」、「囁く:ささやく。みんな読めるのだろうか」、「傍ら:かたわら、これも、みんな読めるのだろうか。そばにと読んでしまいがち」、「顧みた、かえりみた:意味は、過去をふりかえる」、「自明じめい:わかりきっているほど明らか」、「窺う:うかがう。すきまなどからひそかに見る」、「思しき:おぼしき。めどをつける」、「焦れた:じれた。じれったく思う」、「怨嗟:えんさ。恨み嘆く」、「嘆声:たんせい。なげき。ため息」、「閃く:ひらめく。一瞬鋭く光る(例として雷)」、「衝立:ついたて。仕切る家具」、「隧道:ずいどう。トンネル」、「迸る:ほとばしる。飛び散る」、「靄:もや。たなびく雲やかすみ」、「哄笑:こうしょう。どっと大声で笑う」、「静謐:せいひつ。静かで落ち着いている」、「些細:ささい。あまり重要ではない」、「温まった:ぬくまった。ほどよい温かさになる」、「シーリングファン:天井に取り付けられた扇風機風のプロペラでしょう」、「肩を竦めた:かたをすくめた」、「和魂にぎみたま:やまとだましい。日本人の魂」、「荒魂あらみたま:戦闘的な神の霊、和魂の対照の位置にある」、「拙速せっそく:できはよくないが仕事は早い」、「顕わとなった右腕:あらわとなった」、「庇った:かばった」、「身を挺して:みをていして。率先して事にあたる」、「得心した:とくしんした。納得した」、「神使しんし:神の使い。鳥獣虫魚」、「あれなせた:孕んだはらんだ。山神を腹におさめたという意味にとりました」、「襅をまとう:ちはやをまとう。巫女が着る白地の衣」、「嫉心:しっしん。人をねたむ気持ち」、「傍らを離れた:かたわらをはなれた」、「祭祀:さいし。神や祖先をまつること」、「憐憫の情:れんびんのじょう。相手をふびんに思う気持ち」、「怨嗟:えんさ。恨み嘆くこと」、「酷い:ひどい。醜い。みにくいに字が似ているけれど違う」、「窺っていた:うかがっていた。ひそかに様子をみていた」、「蠢いて:うごめいて。もぞもぞ怪しい動きをする」、「いとけない小娘:幼い、あどけない」、「お相伴:おしょうばん。もてなしをうける」、「糺す:ただす。物事のいいわるいを明らかにする」、「朱雀門:すざくもん。妖怪たちと人間界との間にある門」、「結界:けっかい。仏教における一定の場所。悪魔が入れない場所」、「頭屋:とうや。神事を世話する人。年で回る」、「鬱憤:うっぷん。心の中に抑えている怒りやうらみ」、「ラベリング:レッテル(分類、評価)をはる」、「分霊:神は無限に分裂することができる」、「弑し:しいし。目上の者を殺す」、「讒言:ざんげん。目上の人にこの人はこうだとうそをつくこと」、「訝しそう:いぶかしそう。物事不明をあやしく思う」、「思しき:おぼしき。めどをつける」、「飛沫:ひまつ。細かく飛び散る水」、「閃く:ひらめく。雷が一瞬まぶしく、するどく光る」、「御帳台:みちょうだい。平安時代、屋内に置かれたもの。四方を垂らした布(帳とばり)で囲ってある。貴族が座ったり寝たりするところ」、「敷布:シーツ」、「蹲る:うずくまる」、「覇気:はき。積極的に取り組む意気込み」、「怒気:どき。怒った気持ち」、「嘆息:たんそく。悲しんだり、がっかりしたりのため息」、「瞬く:またたく。まぶたがまばたく。開いたり閉じたりする」、「覚えず:おぼえず。無意識のうちに。知らず知らず」、「閃光:せんこう。瞬間的に強く光る光」、「禁門:きんもん。容易に出入りできない門」、「神人:じにん。社殿、社領を管理する人」、「金烏:きんう。金色のカラス」、「幣帛:へいはく。神前に供えるもの」、「骸:むくろ。遺体、遺骸いがい」、「怯える:おびえる」、「小袿:こうちぎ。公家女子の衣装」、「バイタル:生命徴候。生きていることの状態、確認」、「屠ってきた:ほふってきた。葬る。倒す」

(つづく)

 77ページに至って「ほう」という声を出した。そういうことか。

 内容が、人のあるべき道を説く道徳の本みたいになってきました。悪いことをしたら謝罪するのです。
 メッセージとして、「彼らは(カラスは)道具ではない。心がある。意志がある。」、「母親は、こどもを見捨てない。」
 なんだか、会社組織の話を聞いているような気分になってきました。

 少年とは、玉依姫の化身なのか。

(つづく)

 「英雄」とはなにか。
谷村(大天狗)と奈月彦(八咫烏やたがらす)が、志帆の祖母久乃を訪ねている。
志帆は神域にいる。
久乃の娘裕美子(当時5歳)は、山神への生贄候補だった。
だから、ふたりは、山内村(さんだいむら)から逃げた。
父と、残された久乃の長男修一(当時10歳)は、久乃を怨んだ。
英雄は、犬を連れてくる。英雄は、人食いの化け物(山神)を止めることができる。
英雄は、少年の姿をしていて、少しずつ成長している。208ページ付近で、15歳ぐらいに見える。彼は、志帆を神域から連れ出せと、谷村と奈月彦に指示する。
英雄が英雄として君臨するためには、山神が悪の祟り神(たたりかみ)にならなければならない。山神が神になったら、英雄は神を攻撃できない。志帆が山神を育てて神にすることは、英雄にとって望むところではない。だから、英雄は、志帆を山神から離したい。

 志帆は、外国に拉致されて、その国で洗脳(せんのう。圧力によって思想の改造をされた)された人のようだ。
 志帆と彼女の祖母久乃とのいさかいは、見ていてつらい。ふたりは、一生、わかりあえないとあります。志帆は祖母に、(自分は)死んだと思ってくださいと言います。現実社会でも、親子関係などで絶縁するためにそういう考えをもつこどもっていると思う。ほかにも、祖母と息子修一とのいさかいが出てきます。

 「頑固がんこ」は不幸を招く。

 「タマヨリヒメ(玉依姫尊たまよりひめのみこと初代天皇である神武天皇の母)」とは、歴代のゴク(人見御供、生贄いけにえ。いけにえは、神になる人物を育てて神にする(巫女みこ)、神にすることができなかったとき、その人物は悪霊になっていけにえの女性を食う)になった女性をいう。
 以前、奈良を幾度も訪れていた時期があるのですが、飛鳥地方の古代時代のことを思い出しながら読む読書になってきました。

 カラスとサルのとりあわせは、イヌ、サル、キジの桃太郎のようです。

 神と化け物は同一のものという発想が珍しく感じます。

 謎解きを含んだ、宗教もの、歴史ものの小説でした。
 でんでん返しがありますが、自分には、ピンときません。独特な世界観(見解)です。

(その後)
 ほかの人たちの感想を読みました。
 シリーズものなので、これまでの作品を読んでいると、楽しみが湧くような感想でした。
 何冊かの途中の1冊を読んでも全体を把握したことにはならないことがわかりました。

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