2016年08月22日

お父さんと伊藤さん 中澤日菜子

お父さんと伊藤さん 中澤日菜子 講談社

 なかなかおもしろい。先日、芥川賞作品「コンビニ人間」を読んだのですが、その続きのような内容で始まります。
 主人公である「あたし」山中彩さんは、コンビニでのバイトをやめて、今は本屋でバイトをしている34歳未婚ですが、コンビニのバイト同士で知り合った同居の男がいます。その男が、54歳のバツイチ伊藤康明さんで、20歳年齢が離れたふたりは夫婦でも内縁関係でもありませんが、狭いアパートで、共同生活をしています。ちなみに、伊藤さんの仕事は、小学校の給食調理補助員です。ふたりは、夫婦ではありませんが、週に1回、ひにちが決めてあって、エッチはします。本能としてのSデイです。
 そんなふたりのところへ、何も知らない彩さんのおとうさん74歳元教員が長男夫婦宅を追い出されるようなかっこうで、ころがりこみます。なお、彩さんの母・おとうさんの妻は、4年前にがんで病死しています。
 もう、ここまでで、これからさきが楽しめそうな設定であることがわかります。3人それぞれの年齢差が20歳ずつです。有りえないようで、有りうる条件設定です。

 長野県の北アルプスのふもと、おとうさんの実家付近にたくさんなっていた「柿」の話が出ます。後半への伏線となっていくネタでしょう。

 お父さんは、「依怙地(いこじ)つまらないことに我を張る。」で、気難しい男です。対して、伊藤さんの口癖は、「○○は逃げない」で、鷹揚おうよう:小さなことにこだわらず、ゆったりしています。

 「老害」という言葉を思い出します。74歳元教員のお父さんが加害者です。少なくとも、周囲の者には彼の存在は喜ばれておりません。息子42歳とその嫁と双子の孫男子たち小学6年生、そして、主人公の未婚自由人の彩さん、お父さんの亡妻の妹小枝子さんです。
 書中での間接的な表現としては、「期間限定」であり、その裏にある心理は、あなたが死んだら、肩の荷が下ります。だから、期間限定で、それまでは、ひたすら我慢しようと続きます。我慢できなくなれば、共倒れもありますし、犯罪も発生します。

 映画かドラマの台本を読んでいるようで、読みやすい。映像が目に浮かびます。実際映画化されて、今秋公開されるようです。自分は、たぶん観には行けないと思います。空想するだけです。

(つづく)

難しき漢字など、「齧り:かじり」、「燕岳:つばくろだけ。長野県大町市、安曇野市あずみのし」、「フェイスブックの友達申請(やらないので、なにかわかりませんが、わかりたい気もありません)、「吃驚:きっきょう。びっくりと読むらしい」、「シンハー:タイのビール。シンハーはライオンとか獅子」、「ソースの種類:ウスター(さらとしていて軽い)、とんかつソース(どろり)、中濃ソース(両者の中くらい)」、「呪詛:じゅそ。相手に災いが及ぶように呪う」、「拝島:はいじま。東京昭島市。多摩地区」

印象的だったこと、「実の親子って遠慮がないから傷つけあう」、「東京はもうたくさんだ」

 読んでいると、人生は障害物競争に似ていると思う。次から次へと親族は障害物を我に投げつけてくる。それらを飛び越えたり、横によけたりしてかわしていくけれど、たまによけきれず、ぶつかって倒れてしまう。だけど、倒れたままではいられないので、立ち上がって、また前進していき、また障害物にぶちあたる。その繰り返しのなかで、小さな幸せを手にすると、がんばろうという気持ちになれる。

 思い当たる老害にエロがあります。すけべじじい、お色気ばあさんなんかがいます。両者ともに若い人が好きです。気をつけましょう。人は老いると本能のまま言動して制動がきかなくなります。泣き寝入りするのは若い方になってしまいます。

(つづく)

 最後まで、読み終えました。さわやかな結末です。だけど「ユメ」です。
 たとえば、「恋」ならば、こういう終わり方をするのがいい。だけど、「高齢者介護」の場合は、こういう終わり方はできない性質の違いがあります。

 「家」って、大事だなあと思いました。住める場所があることは安心です。

 登場人物、伊藤さんの個性設定はGOODでした。優しいばかりではない、突き放すこともできる常識人です。それから、頻繁に登場する「カンマニワさん(上馬庭と書く)」は、その音の響きで何か効果があると作者の策が張り巡らしてあるのではないかと推察しました。

 ソース話もおもしろかった。なにげないやりとりのなかに幸せがあったことにあとから気づくのが、「家族」です。

 人皆欠陥品(ひとみな、けっかんひん)

 疑似家族を表現した作品です。独り暮らしの増加で、人はみな孤独になりました。作品の冒頭にも記述があったのですが、近くに住んでいる兄妹でも、親の葬式・法事ぐらいしか顔を会せることがなくなりました。結果、次に会うのは7年後ぐらいになってしまいますが、それがいけないことにはつながりません。

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t118230
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい