2016年06月25日

ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯 2016課題図書

ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯 あすなろ書房 2016課題図書

(1回目の本読み)
 あまり、見かけない装丁です。大判、横書きの本です。ヴォンダー・ミショー・ネルソンという外国人が書いて、原田勝さんという方が日本語訳です。
 慣れない本を読むときは、スライス読みをすることにしています。(細かく切って、複数回の繰り返し読みをする。)。
まず、全体をゆっくり1ページずつ大きな文字を追いながら流し読みを最後までしながら、雰囲気をつかみます。全体で、180ページです。それほど多くは感じません。

 本人による人生の回想記(自費出版に多い)かと思って読み始めましたが、違いました。ご本人の親族の方が書かれているようです。
 ルイス・ミショーという方の紹介本です。本人はすでに亡くなっています。1904年、9歳のときから始まって、1976年81歳ぐらいまでです。(読み終えてみると、生誕日・年齢不詳でした。)
 父、母、ルイス自身、そして、兄とファミリーに範囲が広がります。年代を追いながら、家族の様子が書かれているようです。
 黒人に関する記述がありますから、人種差別のことが書いてあるのでしょう。宗教キリスト教に関する記事があるようです。
 1959年にルイスの妻のことが出てきました。96ページには兄嫁のことです。
 本の後半に、以前映画で観た「マルコムX(エックス)氏」が出てきました。ラストシーンは同氏が暗殺されるシーンでした。154ページには、先日亡くなったモハメド・アリ、元ヘビー級ボクサーの若かりし日の写真が載っています。

(2回目の本読み)
 4日間ほどかかって、さきほど読み終えました。日本人には、理解しにくいという感想です。奴隷、悪魔、地獄、天国、ニグロ、どれも身近ではありません。
 文章には、黒人ソングのようなリズム感があるように感じます。

 読書を推奨する内容です。黒人向けの本屋さん(黒人作家作品に限って書棚に並べてある。他にも資料あり。)です。ニューヨークマンハッタン黒人たちが暮らすハーレムにあった書店で、黒人文化の集約地であったそうです。
 感動したページは、164ページで、マルコムXとベティ・シャバズの3女イルヤサ・シャバズのコメントです。大西洋をまたぐ奴隷貿易は大規模な強制移民だった。何百万人ものアフリカ出身の人々が、北中米、南米、カリブ海の国々の礎を築いた。かれらは、何百年も精神的な深い傷に耐えてきた。本を読むことを禁じられた。人間として自分が何者なのかを理解する術を奪われた。ルイス・ミショーは、その現実を理解し、行動を起こした。ハーレムの中心に書店を開いた。人々は書店に続々と集まってきた。本を読み、知識を身に着け、歴史を知り、自信をもって、人生を生きた。

 以下、読書の経過です。

 原題は「No Crystal Stair」で、「水晶の階段ではない」です。69ページにその意味が書かれています。わたしの人生は水晶の階段ではなかった。(きれいなもの、美しいもの、楽なものとして水晶の階段というようです。)。障害物だらけの階段だった。歩いては疲れて休み、それから再び歩きを繰り返してきた。150ページにも追加の記事があります。

 10年刻みぐらいで第1部から第7部まである構成です。写真や、資料もあって、写真集のような面もある本です。事実を検証しながら、半分仮想のドキュメンタリー方式の記述です。
 ページには、人物の名前が書いてあって、その人の視点で、短い文章がページの上に置かれています。ページに白い空白が多い。日本人としては、むだのように思える。しかし、快適な空間でもある。

 主人公ルイス・ミショーの性格・人格です。幼いころは、強情で意地っ張りで、頭のいい子。だが、勉強ができるという意味ではない。若いころは、ギャンブルや薬物売買、売春などを商売としていたこともある。しかし、その後更生している。
彼には、偉大な兄がいます。ライト・フットというキリスト教会(神の教会。全米黒人地位向上記念事業-土地を取得して黒人指導者経営による農場をつくる。自給自足の黒人共同体)の主宰者でかなりの資産家にまでなっています。ふたりは、対立しながらも互いに支え合いながら老いを迎えて亡くなっていきました。お互いに若いころは、兄が光で、弟が影というように陰陽がありました。
 ルイスの母親は10人ぐらいの子だくさんの出産・育児なかで精神を病みます。寝ているか、子の世話をしているかだけの人生だったとあります。
ルイスの家は、魚屋でした。でも後継ぎはいません。
ルイスは44歳、ハーレム7番街で、本屋を始めます。屋号は「ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストアー」です。1939年のことです。(不思議なのは、第二次世界大戦突入時期なのですが、この本には戦争の記述はありません。アメリカは戦地にならなかった。ルイスはすでに兵役を課されない年齢に属していた)。

 ルイスの店は、ロックフェラー知事の支持を受けていましたが、その後知事が変わり、行政からは冷遇を受けるようになり、移転、立ち退き要求を受けます。ルイス自身も高齢者となり、黒人用書店を引き継ぐ者もなく廃業しました。しかし、書店を中心にして育った人材はこの世に残りました。

わからなかった言葉などです。「ショートニングブレッド:アメリカ南部の伝統的料理。クッキー」、「ニグロ:黒人(学術用語)」、「フィラデルフィア:ニューヨークとワシントンの間ぐらいにある」、「ハーレム:ニューヨークマンハッタン北部、アフリカ系アメリカ人が多く居住している。ハーレム(女性の居室)ではなく、オランダの都市ハールレムが地名の由来」」、「市井:しせい。まち、ちまた」、「公民権運動:50年代~60年代、アメリカ合衆国で黒人が黒人の権利保障を訴えた運動」

印象に残った表現の要旨などです。「権力はこっちからとりにいかなきゃ手に入らない」、「白人はいかにして黒人を奴隷にできたか。その答えとして、黒人に読み書きを教えたらいい奴隷にはならない」、「本を買うお金がなかったら分割払いでもいい(本は買うものです。買って、書き手や、書籍関係会社を支えるのが読者の役目です。)」、「(1952年)少年がルイスの書店に父親と入ってくる。ルイスが父親にこの子は医者になるといいと言って、『医学における黒人』という本を渡す。(1976年頃)医者になったそのときの子と再会する。」、「ハーレムでいいかげんな暮らしをしている十代の少年にルイスが、おい、きみ、本は読んでるか?」続けて、「頭に知識を入れることより大事な仕事はない(涙がこぼれてきそうな言葉です)」、「キング牧師の言葉はむずかしくて、普通の人には何を言っているのかわからない。辞書がいる。(ルイス63歳のとき。1958年)」、「(ルイスと対立していたルイスの弟ノリスがルイスの本屋に来て本の山を見て)おれがまちがっていた(兄ルイスの功績を認めた)」、「(マルコムXエックスを指して)正しいことをしていた。人々のために声を上げるとその指導者は決まって殺されてしまう(米国がかかえる銃社会という深刻な暴力による悲劇があります)」、「マルコムXの甥の話:おじは、ルイスの書店にいるときが至福の時だった。」、「ルイス71歳:書店の経営で忙しくて、映画を観に行ったのは30年間で1回しかない。(妻は、夫は仕事人間でさびしかったとあとで述べている)」、「わたしだってアメリカだ。(アフリカから奴隷として連れてこられたアフリカ人ではなく、アメリカで育ったアメリカ人だ。)」、「(ルイス2回目の結婚で、ルイス60歳のときに生まれた息子が20歳ぐらいになって)ぼくはお父さんじゃないし、お父さんのようにはなれない。でも、書店をできないかと考えている。」、「(ルイスの書店にあった本は)黒人中心のものの見方を提供してくれた。」、「読み書き教育は、かつて、奴隷の身分やスラム街から脱出するための手段だった。ルイスの書店は、文化の交差点、情報センターの役目を果たしてきた。」

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