2016年06月13日

WONDER ワンダー 2016課題図書

WONDER ワンダー R・Jパラシオ作 中井はるの訳 ほるぷ出版 2016課題図書


 「ワンダー」という英語には、驚きとか、発見した瞬間の感激という意味を思い浮かべます。3ページに「ワンダー」の意味が書いてあります。驚異、驚嘆、驚き、不思議、奇観、奇跡とあります。

 翻訳本です。このアメリカ人作家による初めての出版本とあります。

 冒頭付近を読みながら、思ったことです。むかし、「1リットルの涙」木藤亜矢著を読みました。このワンダーと似たようなお話ですが、1リットルのほうは実話で、著者は若くして病気で亡くなっています。彼女の筆記で、記憶に残っている部分があります。たしか、修学旅行に行って、周囲の人たちから気持ちの悪いものを見るような目で見られたとありました。そのときもしかしたら車いすにのっていたかもしれません。また、別のページには、「頭が悪くてもいいから、健康な体がほしい」と書いてありました。今読み始めたこの本ワンダーでは、主人公オーガスト10歳(愛称オギー)がさきほどの木藤亜矢さんと重なります。生まれつき病気で、これまでに27回手術をした。顔は、まるで火事にあったあとのようだとありますので、火傷(やけど)の跡のように、手術の跡が残っているのでしょう。でも、頭脳は正常です。周囲の差別的な目を気にしない精神力をもたねばなりません。そして、誤解を解いて、自分にとって快適な空間をつくらねばなりません。

わからなかった単語です。「クロックス:アメリカ発祥のカラフルなサンダル。穴がいっぱい開いている」、「ベーグル:ドーナツみたいな形をしたパン。東欧系ユダヤ人の食べ物」、「モットー:書中では格言とありますが、辞書では、行動目標、指針とあります。」、「ハロウィーン:10月31日ヨーロッパの祭り。もともとは秋の収穫祭。仮装パーティ風なので、オーガストは全員仮面だと安心して喜ぶのですが、それまで親友だと思っていた友達のオーガストのみにくい顔に対する本音を聞いてしまい学校へ行きたくなくなります。病人に同情はしてはいけないといいますが、悪意があるわけではありません。」、「イパネマの娘:ブラジル・ボサノバの歌曲。ブラジルリオデジャネイロにあるイパネマ海岸」、「フォー・スクエア:4人でやるボール遊び」、「バイレイシャル:登場人物女子サマーのようなふたつの人種の親から生まれたこども。彼女の父は軍人だったが死亡した。」、「インクルーシブ教育:障害があってもなくても地域の小学校で学ぶ(オーガストは障害者とは思いません。病気手術後の傷が残っているだけです。)」、「クレオール音楽:黒人と混血のヨーロッパ以外で産まれたヨーロッパ人の音楽。ジャズの初期。ちょっと違うかもしれません。」

印象に残った文節です。「ひとつだけ願いがかなうなら、めだたないありきたりの顔になりたい」、「(主人公オーガストの)外見はきみがどう想像してもそれよりひどい」、
「神さまから生まれた者はみな、世に打ち勝つ」、「屠殺場に引かれていく子羊(とさつじょうは家畜がお肉にされるところ。この部分は、オーガストが学校へ行って、その醜い(みにくい)手術後の顔をさらして、さらしものになること。フランケンシュタインみたいな傷口だらけの顔なのでしょう)。62ページに説明があります。不幸がふりかかることも知らずに、従順にある場所へ行く人のたとえとあります。」、「(オーガストは)読書が好きで、美術が得意。理科が特に好き」、「この学校は病院みたいなにおいがする」、オーガストが冷やかされます。「整形手術は受けないのか」これに対して「整形手術後なんだよ」、これに対して「医者を訴えろよ」。笑いました。「テントウムシに願い事をすると願いがかなう」、「この世界は巨大なくじ引き(奇形で生まれる確率として)」

 オーガストは10歳になって初めて学校へ通い始めます。それまでは自宅で先生はブラジル系でおしゃれでかわいいお母さんでした。(母は教師ではない)
 彼の父親の両親は、ロシア系とポーランド系のユダヤ人でした。家族は今、ニューヨークマンハッタン島の北端に住んでいるそうです。
 学校といっても普通の学校ではないようですが、まだ、60ページぐらいまでしか読んでいないのでよくわかりません。病院の中にある院内学級とも違います。学校名は、ビーチャー学園です。
 オーガストには姉がいて、この秋からフォークナー高校に通います。(アメリカでは秋が新学期です。春が新学期の日本は、世界では少数派です。)
 オーガストは、みにくい顔を見られたくないので、前髪を伸ばしています。後ろ髪も長くて、三つ編みにしていましたが(スター・ウォーズの登場人物の真似)、学校で冷やかされて、三つ編みを切りました。そのほうがいい。
 遺伝子異常の病名らしく、うしろのほうのページに「未知のタイプの下顎顔面異骨症(かがくがんめんいこつしょう)で、原因は第五染色体のTCOF1遺伝子の常染色体劣勢(じょうせんしょくたいれっせい)の変異、OAVスペクトラムに特徴的な変則顔面小人症(こびとしょう)との合併」とあります。なんだかむずかしくてわかりません。「医学的には解明できない奇跡」とも呼ばれているそうです。

 最初に先生から紹介された同級生たちが、ジャック・ウィル(優しい男子)、ジュリアン(少し意地悪な男子)、シャーロット(女子、姉あり)です。

(つづく)

 冒頭から気づいていたのですが、主人公の名前オーガストは、英語で8月という意味です。誕生日も8月と思っていたら、10月10日生まれの10歳でした。しばらく読んでいくと、サマー(英語で夏)という女子がオーガストに話しかけてきて、夏にちなんだ名前遊びが始まります。ちなみにオーガストはデイジーという名の犬を飼っています。それから、わたしはスター・ウォーズというアメリカ映画のことは知りませんが、登場人物たちは、オーガストを始めとしてスター・ウォーズのファンです。作者自身がそうなのでしょう。

 ペトーサ先生から、大事なこととして、「自分」というテーマが提示されます。学校の入口にあるプレートに『汝自身を知れ(なんじじしんをしれ)』と書いてあるそうです。自分がなんなのかを学ぶ。ずいぶんむずかしい問いです。
 
 学校の授業は、教科ごとに教室とメンバーが入れ替わります。単位制なんのでしょう。大学みたいですが、中学でもあるでしょう。

 part1パートワン、オーガストの章が終わったところで気づきました。この本の構成は、パートごとにひとりの人物に光を当てる方式です。
 パート2は、オーガストの姉のヴィアです。パート3が、少女同級生サマー、パート4が、ジャック(優しい)、パート5が、ジャスティン、パート6が、オーガストに戻って、パート7が、ミランダ、パート8が、オーガストでおしましです。

(つづく)

 パート2では、顔面奇形児の姉ヴィア(正確には、オリヴィア・プルマン)がひとり語りをしてくれます。(この本はパートごとに登場人物がその心情を語る一人称形式です。)
 両親からの愛情を病気である弟にもっていかれて淋しい思いをしてきた姉です。姉は両親に文句を言わずにひとりで絶えてがんばってきました。途中、ふびんに思ってくれた祖母が姉をかまってくれますが、その祖母も老齢で突然亡くなったそうです。なんだか、暗い話が続きます。高校に入学して、それまで親友だと思っていたミランダとエラに夏休み明け、仲間外れにされます。ふたりは、おとなへの成長期を迎えて変化したのです。でも、ヴィアには頭のいいエレノアという新しい友人ができました。

 パート3では、オーガストの同級生女子サマーが語ります。この部分、読み終えて、心があたたまりました。いろいろな人がいる。奇形のオーガストを見て、天使だという人もいる(本音は違うかもしれない)、ゾンビだという人もいる(正直者です。)。サマーは、オーガストを見て最初はびっくりします。でも、オーガストと話して、普通の人と判断します。見るだけじゃなくて、話してみる。真実を解明する。

 パート4は、いっけん親切と思われていたけれど、実は先生のいいつけでオーガストのめんどうをみていたジャックの言い分です。
 オーガストのいいところが列挙されています。①オーガストの奇形の顔つきには慣れる。1週間で、大丈夫という気持ちになれる。②オーガストの性格がいい。おもしろいことを言う。ばかうけだ。本当にいい奴だ。一緒にいて気が楽になれる。③とても頭がいい。カンニングさせてくれる。④ずっとこれからも友達でいたい。
 そんなジャックですが、ふとしたことで、オーガストに絶対拒否されます。(その後、仲直りがあります。)

 パート5は、ジャスティンです。オーガストの姉の高校1年生ヴィアの彼氏という設定です。
 ヴィア(オリヴィア)は相当の美人らしい。その弟は奇形の顔なので、ジャスティンは相当ショックを受けます。
 ジャスティンの家庭は家族に恵まれていません。両親は彼が4歳のときに離婚。今もお互いに憎しみ合っている。彼は、半分半分を父親と母親の家で暮らしている。育児放棄を受けていると書いてあります。いっぽう、ヴィアの家庭はあたたかい。犬のデイジーまでが幸せそうにしている。

 パート6は、オーガストの語り。補聴器の話です。それから、演劇公演で、オーガストがさらしものになることを姉ヴィアは苦にしています。残念でしたが、愛犬デイジーが天国に召されました。

 パート7は、オーガストの姉ヴィア(オリヴィア)の中学までの親友ミランダです。高校に入学してからミランダは不良化してヴィアから離れていきました。
 高校入学前に両親が離婚したとあります。(50年ぐらい前と比較して日本も離婚する夫婦が増えました。生き別れの片親家庭ばかりです。片親家庭のこどもはとくに経済的に大変です。)
 エレファントマンという昔の映画が出てきます。顔が象のように醜い人がいて、たしか実在した人で、でも、偉い人になったということでした。
 ミランダは、演劇主役女優の役をミランダに譲ります。理由は、自分を見に来てくれる家族がひとりもいなかったからです。
 ミランダは本当にいい奴で、332ページの1行目で、オーガストに「よっ、トム少佐!」と声をかけてくれます。涙がにじみました。いちばん不安でつらいときに声をかけてくれる人は大切にしたい。(トム少佐の由来は126ページにあります。デヴィド・ボウイという人の歌に出てくるそうです。)

 パート8は、オーガストです。差別する者たちとそうでない者たちとのバトル(殴り合い)があります。痛快です。オーガストの顔が変なことでからまれた。オーガストを守ってくれた4人とオーガストは仲間になった。相棒となった。廊下ですれ違うときにグータッチをするようになった。5年B組の仲間たちです。オーガストに自信がつきました。成長があります。
 ナルニア国物語を読むシーンがあります。なつかしい。記録を調べたら、2012年の8月に感想文が残っていました。もう4年ぐらい前のことです。

 読み終えました。小学校高学年が読むには長い。時間がかかることでしょう。
 277ページから278ページ、物語の途中にあったジャスティン(オーガストの姉ヴィアの彼氏)の言葉に賛成です。その趣旨は次のことでした。人生は、プラスマイナス0(ゼロ)にできている。いいこともあれば、よくないこともある。オギーは病気治療の手術で醜い顔になってしまった。しかし、試練をくぐりぬけて、真の友情を手にした。プラスマイナスゼロです。本のなかでは、「公平」と書かれています。

スター・ウォーズの登場人物がたくさん出てきました。拾えるだけ拾ってみます。見た目とか衣装にこだわりがあります。
ゴーストフェイスの衣装:長い黒いマントに大きなマスクだけ。映画スクリームシリーズのゴーストフェイスとあります。
ダース・シディアス:黒い布をかぶっている。老人の横方向のしわだらけの顔をしている。
ジャンゴ・フェット:外見はロボットですが、ヒューマノイドとあるので、人間味もある最ボークみたいなものかと思います。
ボバ・フェット:ジャンゴ・フェットみたいな外見ですが、ジャンゴより人間ぽい。
ダーズ・ベイダー:見た目は、真っ黒な騎士で、武将のような仮面をすっぽりかぶっている。
ジャー・ジャー・ビンクス:なんか、恐竜みたいな顔をしている人間みたいなやつ。目玉が飛び出した馬にも見える。
パダ・ワン:ジェダイの弟子。後ろ髪を三つ編みしている。

ロード・オブ・ザ・リングのオーク:(オーガストの風貌を指して)。怖い顔の男。奈良市内の博物館やお寺さんで見かける仏像や彫刻のような表情をもった顔です。

 人々は、オーガストに試されている。オーガストの奇怪な顔を見てあとずさりして存在否定の知らん顔をとおすのが、あるいは、ジャックのようにオーガストと話しをして、見た目と中身は違うと理解して友情を深めるのか。あなたは、人間としてどうなんだとうことを判定するリトマス試験紙の役割を担っている。(になっている)。ただし、正解はない。どちらの生き方も許される。
 
 オーガストたちが通うビーチャー学園が生徒に与える賞の趣旨です。「もっとも偉大な人とは、自分自身の魅力で多くの心を動かす力を持っている人です。」


 障害者の本で、「跳びはねる思考」東田直樹著(1992年生まれ)があります。自閉症でぴょんぴょん跳びはねることが病気なのですが、内面的には、正常な意識をもっておられます。本を読むと驚かされます。

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t116901
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい