2016年05月21日

海の見える理髪店 荻原浩

海の見える理髪店 荻原浩(おぎわら・ひろし) 集英社

短編6本です。
「海の見える理髪店」
 亡くなった高名な男優さんが通っていた理髪店を思い出します。理髪店がらみの作品として、奥田英朗(おくだ・ひでお)作「向田理髪店」のあとに読みました。
 わからなかった言葉として、「モビールチャイム:針金や糸で吊るされた素材がぶつかりあって鳴るチャイム」
 うまいなあ。毎日文章を書き慣れている人が書く文章です。
 店主は85歳、お客は、男性、グラフィックデザイナー。店主のおしゃべりが続きます。おしゃべりは続きますが、雰囲気は静かです。デザイナーは黙って店主の話を聞いています。デザイナーは、30歳前後でしょう。推理小説の一面をもった作品です。最後に、そういうことかと腑(ふ)に落ちました。

「いつか来た道」
 42歳女性の物語です。画家の母親と対立して家を出て16年ぶりの実家戻りです。73歳になった母親は認知症で、相手がだれだかわかっているよないないような状態です。
 この本は、過去を振り返って、しみじみとする短編集のようです。幻想的です。認知症になった過去に対立した母親と少女の頃に交通事故死した姉の幽霊だと思いますが、後ろからついてきます。後悔とか慈しみの味わいがある小説です。

「遠くから来た手紙」
 夫婦喧嘩をした江藤祥子さんが1歳2か月の遥香ちゃんを連れて静岡の実家へ帰ってきます。だけど、弟夫婦がいて、居場所がありません。
 不審なメールがスマホに届きます。
 なんというか、サラリーマン男子には、どうしても長時間労働の時期が40年間ぐらいのサラリーマン生活の中で、10年間ぐらいはあります。早朝に出て、深夜に帰宅。土・日もサービス出勤。単身赴任。そうやって努力しないと収入確保が大変だしある程度の出世もむずかしい。奥さん、家庭の世話ができないことをわかってあげてください。
 ラストはほろりときました。亡くなった祖父母が助けてくれました。

「空は今日もスカイ」
 途中、何が起こっているのだろう。
 小学校3年生女児が何でも英単語に言い変えるところがおもしろい。
 意味不明だった言葉として、「パラサイト:結婚適齢期を過ぎても結婚せずに実家で暮らす人」
 児童虐待、ホームレス、父親の酒乱、両親の離婚、障害児、社会福祉のお話でした。
 途中、作品依頼の話がなくなったような小説家の仕事話があったような。サラリーマンと違って、収入不安定な小説家の一面が出ていました。

「時のない時計」
 針が動かなくなった父親の形見の腕時計のお話です。街の時計屋さんがからんできます。自分にも類似体験があります。
 古臭い話ではあるけれど、胸にじんとくるものがありました。
 わからなかた単語として、「DIY用品:自分でつくって。Do it yourself.」
 ここでも知的障害をもって生まれたこどもさん、そして、早くに亡くなったお話が登場します。そのことに作者はなにかこだわりをもっておられます。

「成人式」
 泣けました。ぜひ、読んでほしい。
 思春期、父親と対立していた中学3年生の娘さんが、高校入学前の3月に交通事故死します。両親の苦悩は深い。そして、重い。「生きていてこそ」、思ったことです。作品の出来はすばらしい。

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