2016年05月20日

向田理髪店 奥田英朗

向田理髪店 奥田英朗(おくだ・ひでお) 光文社

 最後は感涙でした。
 理想なのでしょう。現実には実現がむずかしい世界です。

 短編6本です。
 舞台は、北海道の旧炭鉱町で、苫沢町(とまさわちょう)としてありますが、設定内容から夕張市を連想します。自分自身も小さいころ九州の炭鉱町にいたことがありますが、それも、今となっては、大昔とも言える遠い過去のことです。エネルギー革命のなかで、おおおぜいの児童・生徒が小学校や中学校を転校していって、町が衰退していった記憶は残っています。
 本作品では、炭鉱町にこだわらず、日本各地の田舎町、高齢化著しい僻地、出身者のUターンにまつわる話を素材にしながら、失敗しても再起のチャンスを与えるという許容の極地に至るまでの気持ちの高まりを表現してあります。

「向田理髪店」
 この物語を引っ張るのが、向田康彦さん53歳床屋の店主です。彼はネガティブ(悲観的、否定的)です。現実的な視点で物事を分析します。重くて厳しい話が続くので読み手としては、そうなんだけど… と嫌気がさします。少子高齢化の田舎の状況話が多い。若い人を見ると自分も若くなれるけれど、年寄り・病人ばかりを見ていると自分も年寄りじみてくる。

「祭りのあと」
 祭りの前に82歳の高齢男性がくも膜下出血で倒れます。

「中国からの花嫁」
 中国人妻を迎えた農業を営む40歳男性の苦悩が浮き彫りにされます。中国人妻を迎える敗北感とあります。でも、気持ちのこもったいい短編でした。

「小さなスナック」
 案外、町起こしはここからなのかもしれない。

「赤い雪」
 自分の住んでいる町、故郷の町が、ドラマ化、映画化されるときというのは、殺人とか強姦の舞台になることがある。だから、素直に喜べない。昔からのことだし、これからもそうだろう。要は、ヒットすれば報われる。しなければ次回はない。

「逃亡者」
 実際にあった事件をもってきているのでしょう。後味の悪い事件でした。最近若いスポーツ選手が、賭博や大麻で選手生命を絶たれることが続いています。周囲の管理責任もあるでしょう。再起のチャンスを与えることは必須ですが、本人たちの精神力が強くないと再び同じプレイができるようにはなれないでしょう。育成する側に回ることもむずかしい。お手本になれない。近しい人たちが署名活動をするなどして、万人の力で彼らを復帰させることができるかどうかです。

印象に残った表現です。「故郷は避難場所じゃない」、「理髪店は町の井戸端会議の場」、「高齢者ドライバー(ばかり。車が杖代わり)」、「20年近く乗っているマニュアルギアのシビック」、「民生委員(民生委員も高齢者)」、「都会暮らしの息子が田舎の親を見送る苦労(葬式の世話)」、「対話の力」

意味が分からなかった言葉として、「チーママ:飲み屋のママのサポート役、No.2」、「諧謔味:かいぎゃくみ。おもしろさと共感が混じり合った状態」

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