2016年03月26日

終わった人 内館牧子

終わった人 内館牧子 講談社

 定年退職による送別会シーズンの今、退職者が読むのにぴったりの作品です。第三章まで読んだところで感想文を書き始めます。

 定年退職したのは、田代壮介さん63歳です。人生の途中までの経歴は華やかです。岩手県盛岡市出身、東京大学法学部卒、メガバンクで出世して地位が上昇しますが、出世競争に敗れて、49歳で出向、51歳で転籍(バンクを辞めて下請け会社へ)。従業員30名ほどの会社の取締役総務部長の肩書で、サラリーマン生活を終了しました。

 主人公の第一印象は嫌な奴です。負けず嫌い、強引、協調性なし。学歴自慢、優劣にこだわる。格差をつくりたがる。
 出世レースの落伍者であることに劣等感をもっています。だから、自分は、出向になった49才、そして転籍した51歳で人生は終わった。定年退職は、生前葬と位置付けています。
 定年退職後、何もすることがない毎日です。妻57歳田代千草は50代で資格を取得した美容師で、毎日家に居る夫がわずらわしい。昼食、夕食の支度、愚痴の聞き役、最後には夫にあなたはじゃま者だと怒りをぶちまけます。
 なにより、田代壮介は、自分同様の年齢層の活動をばかにします。見下します。自分も同じと気づけません。だから、彼は、孤独です。とうぜん、友達はいません。

 自営業イラストレーターをしている妻のいとこの青山敏彦さん55才とか、IT会社経営鈴木さん38才、サラリーマン生活の途中で退職・転職した高校・大学の同級生二宮勇さんとの出会いがありました。

 作者は、女性なのに、おっさんの気持ちを文章で描くことがうまい。

 自治体の講座は失業対策、高齢者対策のようです。参加者はやることがないので、しかたなく参加している人が多い。
 夫が定年になると夫婦喧嘩が増えるはあたりでしょう。

意味がしっかりわからなかったので調べた単語などです。「忸怩(じくじ):自分の言動を恥じる」、「ベントレー(鈴木さんの車。お抱え運転手付き):イギリスのスポーツカー、高級車。2000万円を超える。6000cc。すごい。4人乗り」、「かこつけて:関連しないふたつのことを無理に意味づける。口実にする。」、「無下に(むげに):冷淡に、そっけなく」、「ローストビーフ:イギリスの伝統料理。牛肉のかたまりの蒸し焼き。」、「足尾銅山(あしおどうざん):日本最初の公害発生の地。栃木県の山奥にありました。小学生の頃に数年暮らしていたことがあり自分にとっては思い出の地です。ときおり、新聞、書籍、報道等でみかけて、せつなくなります。公害発祥の地ですが、自分にとっては、自然豊かな山地で、世の中の評価とは正反対です。」、「慇懃無礼(いんぎんぶれい):表面はていねいだが、心の中では、相手を見下し、ばかにしている。」、「ルーティーン:書中にはないのですが、読んでいて思い浮かびました。決められた一連の動き」、「余人(よじん):ほかの人」、「噴飯もの(ふんぱんもの):おかしくてたまらないこと」、「かかずりあう:めんどうなことに関わる」、「イーハトヴ:宮澤賢治にとっての盛岡市のこと。理想郷」、「追従(ついしょう):他人が気に入るような言動をする」、「自意識過剰:自分がどう見られるかを考えすぎる」

 読んでいたら、体が動くうちは、1日4時間ぐらいでもいいから働いた方がいいと思いました。むなしくなる時間帯をなるべくつくらない。そうしたら、主人公がハローワークに行く展開になりました。求職活動は失敗です。東大卒が採用の邪魔です。今度は、東大の大学院を目指すことにしました。また、残念賞なのでしょう。

 もう死んだ方がいいんじゃないかとさえ思わせてくれる展開です。存在していても仕方がない。仕事以外何もできない。知らない。実際、自殺したり、うつになったりする人もいるんじゃないか。いてもいなくてもいい人というのは、けっこう、しんどい。必要とされていないというのはつらい。

(つづく)

 東北岩手盛岡の方言である「いだわす」が何度も登場します。「もったいない」とか「惜しい」とかいう意味と説明があります。「えだますぅ」とか、「えだわすぅ」という発音になることもあるそうです。

 まあ、主人公は、「ねぎをしょった鴨」ですな。利用されるでしょう。
 
 石川啄木と自分を重ねる主人公でしたが、事態は急変し、なんと主人公は経営者(社長)のポストに就いてしまいました。驚きました。下の名前がなかったIT企業起業家の鈴木さんが急逝し、顧問として雇われていたその会社を退職しようとしたら若手職員たちに過去の輝くキャリアを利用させてくれと懇願されました。さらに、浮気の予感までしてきました。大丈夫だろうか。(うまくいくと、読み手は面白くない)

 健康問題の話があります。高血圧症、糖尿病。ことにタバコは良くない。肥満、短い睡眠時間、強いストレス、サラリーマンは身を粉にしても、やめればなにも残らないは実感のこもったセリフです。

(つづく)

 読み終えました。主人公は転落するわけですが、転落しても、一般庶民並みの生活です。読み手は共感できない。
 離婚にまでは至りませんが、別居結婚です(卒婚という)。夫のみのふるさとへの帰郷です。
実際そういう人がいたという話を聞いたことがありますが、やはり離婚はしていました。(医療機関等がそばにある便利な都会暮らしに慣れたら、なかなか帰郷はできない。)

 途中、勢いがあるのですが、65才にもなって、何やっているんだろう、このオヤジとみじめな姿をさらす主人公です。女にもてるオヤジは、家庭がうまくいっていない人だそうです。老害にしか見えない。周囲にとっては、迷惑です。

 2億5000万の借金(会社の)を背負う。社長だから、自分の(嫁さん込み)財産で支払う。預金等が1億3000万、売掛金が1億3000万。手元に残るのが1000万と株式500万の計1500万(それでいいではないかと読み手は思う)

 後半は、震災からの復興とか、地方再生のお話に若干移っていきます。人生は終わってみないとわからない。
 生きがいとか夢を再確認させてくれた小説でした。


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