2016年02月23日

天才 石原慎太郎

天才 石原慎太郎 幻冬舎

 田中角栄元総理大臣を知る世代は、だんだん減ってきています。わたしが、中学2年生ぐらいの頃、日本列島改造論がぶちあげられていた記憶です。
 子どもの頃のことなので、違っているかもしれませんが、日本列島全体に高速道路網をつくるとか、全国に新幹線を走らせる。新潟県から東京都へ新幹線を使って通勤する。交通費は会社が支給して負担してくれる。
 すごい話だなと中学生ながらに感動、感激しました。
 学歴は、中卒なのに(正確には小学校高等科卒)、並み居るエリート国立・私立大学卒の議員さんたちを抑えて、首相になられました。土方(どかた。工事現場の肉体単純労働者)をした経験ありです。だから、人の気持ちがよくわかる。人の気持ちの扱いがうまい。やる気を出させてくれる。そういう人はなかなかいません。まさしく大多数の国民にとってヒーロー(英雄)でした。
 彼の予言どおり、日本はコンパクトで濃密な活動が可能な都市づくりを達成しました。先日観た映画の監督インタビューでは、アメリカの映画監督が、日本は短時間で1日のうちにたくさんの場所に行けて、たくさんの人と会えて、たくさんの世界を体験することができるのでとても驚いたとおっしゃっていました。
 ただ、その後がいけなかった。やっぱりお金かとがっかりしました。

 日中国交正常化は、すばらしい偉業でした。

 本の感想からはずれてしまいました。
 最初、80歳を過ぎた高齢の著者が、緻密な小説を書けたのだろうかと、不思議な気持ちで書店にて本を開きました。
 大きな文字です。びっくりしました。18ポイントぐらいはありそうです。200ページと少しありますが、普通サイズの文字でしたら、100ページちょっとの文章量でしょう。がてんがいきました。
 書き方は、のりうつり方式です。著者が、田中角栄氏になりきって、一人称で文章を書いています。読みやすい。

 まだ、30ページまでしか読んでいませんが、感想を書き始めます。
 こどもの頃のどもりの記事がよかった。後半部にある年表を何度もめくりながら読み進めます。大正時代の生まれの方です。
 さっそくお金に関する哲学っぽい考えが彼の身についています。金遣いが荒かった父親がらみです。
 実像を重ねながら読む読書です。母親への思いは、熱くて重い。日本人男性はマザーコンプレックスです。お母さんは苦労されています。

 わかりにくい言葉として、「戦時中の酒保:兵舎内で日用品・飲食物を扱う店」、「疑獄事件:有罪か無罪かはっきりしない事件。収賄事件が多い」、「主税局:税金の見積もり・割り当てを担当する部署」、「税制:租税の制度、税金の仕組みを計画・調査する」、「おんば日傘:過保護。こどもがおんぶされて、日傘もさしてもらっている」、「建言(けんげん):上の者・組織に意見を申し立てる」、「サンクレメンテ:アメリカの都市」、「領袖(りょうしゅう):人を率いてそのリーダーとなる人、えりとそで、人目に立つ」、「エスタブリッシュメント:既存体制」、「傍ら(かたわら):たんに読めなかった」、「不条理:筋道が通らない」、「見得を切る(みえをきる):自分の力を誇示する態度」、

 凄味(すごみ)、ごつい体格、短文は読みやすく、人柄がよく伝わってきます。おそらく著者自身の個性なのでしょう。独特の言い回しがあります。

(つづく)

 29歳、新潟3区から立候補して衆議院議員に当選。昭和22年、戦後2年目のことです。今とは時代が違いますが、たいしたものです。
 国会議員であった、作家でもある著者だから書けることが書いてあります。自ら議員として登壇したことがある人でなければ、ここまでリアルに詳しいことを書くのはむずかしい。
 
 昭和47年7月6日、総理大臣に指名された。54歳。若い。
 政治家は、国の将来を考えて施策を考えて実行する。役人は目先の仕事を実直にやる。政治家と役人の違いに関するコメントがいい。
 日中国交化での台湾の扱いは、心の叫びととれました。その他のどの項目も本音で書かれているので読んでいておもしろい。この本は、政治が好きな人向きです。政治家向きです。言いたいことを言って、書きたいことを書いてある本です。今だから言える田中首相から見た人事のミスもあります。
 ストレスはどうやって消化していたのだろう。
 昭和49年12月9日、内閣総辞職。
 昭和51年7月27日逮捕、58歳。翌8月17日保釈。

 著者自身も作品中に今のところ(124ページ付近)、2回登場しました。

 「出る杭は打たれる」ということだったのかもしれない。
 最後は、捨てられる権力者のありさまです。
 権力を「水」にたとえてあります。
 脳梗塞後の記述は、冒頭の記述に戻ります。どもりです。
 家族への回帰があります。ふたつの家族をもっていたことで混乱してしまいましたが、どちらも家族です。

 読み応えのある本でした。

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