2015年12月22日

地の底の記憶 畠山丑雄

地の底の記憶 畠山丑雄(はたけやま・うしお) 河出書房新社

 1ページ目を読んだだけで、圧倒的な魅力を感じました。楽しみです。

(つづく)

 小学生時の思い出をベースにして、旧鉱山という舞台設定で、何かを描こうとしている。今、77ページ付近です。
 こどもたちの行動は、基地遊びのようでもある。小学生の冒険行動がからめてある。
 宇津茂平(うずもひら)というのが、最初、地名とは思えない。日本海側の平野、1902年ころ、1947年には閉山した鉱山がある。架空の土地設定だ。

 山の中で、地底湖があって、小学校6年生岩倉春男と井内というやせた女子が、精神病を疑われる青田守と彼の所有する小屋で出会う。彼の妻だという里佳子は、西洋人の顔をした人形だ。

 第二次世界大戦当時のシベリア抑留兵とか、黒森山の地底湖にあるラピス・ラズリという名称の輝く石とか、電波を鉱石ラジオでつかまえる。そう、気が変な人は電波がどうのこうのと言う。1920年ころ、極東無線電信局宇津茂平町送信所が完成している。
 森の中には、こじんまりとした精神科の病院があった。シベリア抑留から帰還して心を患った日本兵が収容されていた。

(さらに読み続けてみます)

 読み終えました。
 いや、おもしろかった。途中、しあわせのない小説だという感想をもちましたが、終盤には「美」がありました。「愛」もありました。
 この感覚を理解できない人もいるのでしょうが、体感できる人にとっては、すごい新人作家が出てきたとうれしさが湧くでしょう。実力をもったストーリー・テラー(語りべ)です。創作話(つくり話)が、うまい。
 
 補足として、わからなかった単語「スケープゴート」は、身代わり、いけにえ、いじめの対象とありました。もうひとつが「従兄:じゅうけいは、いとこのこと」、あとは「マシュ:調べましたがわかりません。麻薬、覚せい剤のたぐいのようです」
 時代は、1910年(明治43年)から、1915年(大正4年)、1920年(大正9年)、1923年(大正12年)がベースにあります。その後、1945年終戦の第二次世界大戦、舞台の鉱山町は、東北日本海側のようです。
 ロシア人もからんできます。海難遭難が、鉱山経営、日本人女性との結婚、神秘的な材料がたくさんあります。
 現実と妄想、そして、物語の中に入りこんでいく。電波がからんできますが、電波に脳が支配されるまでに至っているというところまでは、読んでいて実感できませんでした。ただし、現代のスマホとか、携帯電話が、電話番号を押すだけで、どうして声がつながるのかという単純な疑問がわきました。
 言葉の表現、文章の置き方に、バランス感覚があります。ときに、くどいかなと思わせる部分もありましたが、それは少なかった。なかなかの文章名人です。芥川賞候補作ぽい作品でした。

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