2015年12月08日

教団X 中村文則

教団X 中村文則 集英社

 567ページのうちの約半分、250ページまで読んだところで、感想を書き始めます。この小説はここまでが、第一部、ラストのページまでが第二部という構成です。ここまで読んで、「不幸を扱った小説」という印象をもちました。また、空間を意識しながら読むと、「空間」が見えてきます。

 本は、百科事典のように分厚い。色は黒です。読むのは大変です。きちんと読んだら、いつ読み終えることができるのかわかりません。3~4行を束にしながら読み進めました。とくに、脳内考察とか性描写の長文は読みづらく、斜め読みになりました。対して、ストーリー性の高い部分はゆっくり文字を追いました。

 教祖様として登場する松尾正太郎・年齢70代の人格は壊れています。
DVDに残る過去の彼の言葉は難解です。
「脳」のつくりと「意識」の活動根拠に関して、わからないことをわかろうとする哲学のような語りがあります。脳に関する辞典を読んでいるみたいです。
彼は、第二次世界大戦、戦地での生き残りです。そこでの体験が、思考の起源となっています。
 いっぽう、現在の彼(脳梗塞後の70代)は、ほとんど、エロじじいです。セリフはアニメのキャラクターのものです。「多重人格(今は、解離性同一性障害)」、書中ではそう説明されています。
 ちょっと詐欺的な部分もあります。

 宗教団体を設立する意思がなかったのに、人が集まった。やがて団体は分裂した。分裂後の団体に問題があるようです。都心のビルをひそかに団体のビルに仕立て上げています。
 過去にあった宗教団体が起こした大規模な事件の発生と重なるような部分も見受けられます。
 憑依(ひょうい。のりうつり)からつながる愛知県出身の教祖様に作者が憑依しているようです。

 ときおり、文章の筆致が変化します。閉所恐怖症のような、1ページ全体を文字が埋め尽くす。この作家さんの特徴なのでしょう。不気味でもある。病的でもある。かと思えば、教祖様松尾正太郎が発する言葉が、昔、芥川賞受賞した「アサッテの人」諏訪哲史作で、「ポンパ」と叫ぶ小父さん風のセリフまわしに似て面白い。

 人間は「在る(ある。存在する)」、ないと思えばない。ないと思えば悲しみもない。存在を消して苦しみを克服する。あるいは、かわす。読んでいる今は、そういう思想かと理解しています。「意識」があるから存在がある。意識はどこからくるのか。

わからなかった言葉の調査結果として、
「エキセントリック」普通ではない。風変り。奇妙
「サルトル」フランス人哲学者・小説家・劇作家。神が人間をつくったのなら、神はだれがつくったのか。(よくわからない。考えたくもない)
あとは、原子にはもともと、意識を造り出す能力があった。

これからの展開として、
・SPPh-41の引き渡しが、来週の火曜日に決まった。(機関銃らしい。テロか。)
・ここにリストがある。来週水曜午前1時。東京駅へ行け。

 単純なお話をすると、読み手によっては、ここまでは、脳を中心とした精神の分析、性小説の部分が多いと感じるでしょう。好みが分かれる小説です。
 教祖が松尾正太郎、探偵が小林、進行役が楢崎透(30歳すぎ)、楢崎の失踪した恋人が立花涼子(長崎出身、立教大学卒、教団ではリナの呼び名)、それから、教団員として、吉田、峰野、教祖松尾の妻芳子、分裂した団体の代表沢渡(50代ぐらい。詐欺師らしい)、高原、吉岡(自衛隊出身)がいます。ここには、書けませんが、もうふたり重要人物がいます。


(つづく)

 「悪」(教団)の存在を「悪」(教団以外の組織)で消す。秩序も道徳もなく、めちゃくちゃです。至る所にエッチシーンが置いてあります。本能の追求でしょうか。
 仏教の教えである「呼吸法」、仏教ではないだろうけれど、invocation(神への祈り)、精神世界のありようを描きながら、国家権力(とくに公安公務員(団体の調査等が仕事))に対する不信感を攻撃的に表現してあります。
 
 404ページあたりから展開はおもしろくなります。
 読みながらいろんな過去作品が頭を巡りました。村上龍「半島を出よ」みたいなタイトルの小説、村上春樹の「1Q84」、靖国神社が登場する先日読んだ同じくテロの小説(タイトルを忘れました)。

 ベースに「貧困」、売春をしていた母親、怒号の浴びせあいをしていた両親の夫婦喧嘩があります。昨日DVDで観た洋画「しあわせの隠れ場所」を思い出しました。ホームレス同然の黒人少年が努力と周囲の助けで、アメリカンフットボールの選手になる実話をもとにしたヒューマンな映画でした。

 わかりにくい部分も多い。後半の展開はしりすぼみ感あり。

(その後)
 気になるところがいくつかあって、なんどもページをめくりなおしながら探しました。
・ユダ:キリストを裏切ったユダを作品に重ねてある。
・「松尾→沢渡→高原と篠原」の構図でいいのか。それを組織にあるふたりが支配して動かしていた。
・50代の男、30代の男
・小林の情報が少ない。
・自衛隊機の中国に向けての飛行は、あまりにも非現実的
・キュプラの人というのは、性的サービスをする人という単純な意味ではなく、人間の本能を満たしてくれる人という哲学的意味があるらしい。
・「子育て侍」
・松尾さんの言いたいことは、「他人と比べるな。自分の道(人生)をゆけ。」

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