2015年12月07日

我が家のヒミツ 奥田英朗

我が家のヒミツ 奥田英朗 集英社

短編6本です。

「虫歯とピアニスト」自然体で生きるということです。クラシックの知識がある人が読んだほうが、実感が湧きます。こどもができるかできないかの葛藤があります。結婚したから必ず子どもが生まれるわけはありません。「ぼくの30代は寝ていた」という表現がいい。

「正雄の秋」読み始めから後半近くまではわびしく、最後にほんわかとした気持ちになれた小説でした。出世競争の最後で転落した河島義男53歳夫婦の物語でした。心に残った言葉のいくつかとして、「堪えてくれ(こらえてくれ)」、「もう昔日(せきじつ)」。「河島の家来」。「船を乗り換える」。「こどもができてから夫婦二人の旅行はしたことがない」というあたりは、身に覚えのある夫婦が多いのではないか。日常生活の仔細を味わい深く描くことがこの作家さんの得意なところです。愛知県での葬式のシーンでは、先日その近くで通夜に出席したので身近でした。今読んでいるのが、この本、作者は岐阜県出身、それから「教団X」中村文則・愛知県生まれ。「うずら大名」畠中恵・高知県生まれ名古屋育ちで、この地域の人材の豊富さに親しみを感じます。

「アンナの十二月」この本は、20分で1本、楽しめる短編集です。この短編は、影は薄いけれど大きな存在である実(じつ)の父親を讃えるお話でした。素敵でした。お金はすべてではないし、お金は「手段」であっても「目標」ではありません。江口アンナ16歳高校生の父親は実父ではありません。彼女が2歳の時に実父と実母は離婚。その後、母親が再婚しています。実父がだれなのか知りたい。実父に会いたいから始まります。よかったセリフとして、『だれのおかげで食べていけていると思っているの!』という趣旨の実母の発言がありました。

「手紙にのせて」53歳の妻を脳梗塞で突然亡くした若林亨(とおる)の息子24歳ぐらいから見たオジサン世代の支え合いと伴侶の死に無関心な世代の描写です。石田部長の存在が極めて善人で、周囲から浮いていて現実離れしているのですが、それは小説だからいい。「大きな喪失感」とうフレーズがよかった。「お母さんが死んでいろいろ学んだ」もよかった。

「妊婦と隣人」おもしろかった。ひきこもり状態にある引っ越ししてきた隣人夫婦の職業とか暮らしぶりに不信感をもつ松坂葉子32歳会社員、産休中です。自分の推理では、隣人は障害者で、障害年金で暮らしている人たちでしたが、結果は、違っていました。結末について、自分は、小説の設定とは違うふうに理解しました。

「妻と選挙」最後の短編まで読んで、この本は、今年読んでよかった1冊になりました。歳をとると涙もろくなります。いい本でした。お勧めします。売れなくなってきた小説家が、市議会議員選挙に立候補した妻を応援します。最初は、暗いけれど、だんだん明るい光がさしてくる展開です。大学生になった息子たちも久しぶりに集まって、ばらばらになっていた「家族」が集結します。ベストセラー作家も数年で名前を聞かなくなるのがこの世界という表現がよかった。それから、小説家ご主人の応援演説がよかった。笑いました。


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