2015年06月30日

ニシノユキヒコの恋と冒険 川上弘美

ニシノユキヒコの恋と冒険 川上弘美 新潮文庫

 西野幸彦という男性の年齢を前後しながら、つまり、彼の年齢に合わせてタイムトラベルしながら、小説は進んだり、後退したりします。短編が、つらなっています。
 「ぱふぇー」、「草の中で」の2作品を読み終えたところで、<いいなあ>とため息が出て、余韻にひたりました。
 「パフェー」は、喫茶店で食べるパフェを指します。みなみの母親は、西野幸彦と浮気をしているのです。浮気現場にみなみ7才を連れていくのです。そして、時は流れ、みなみは25才に成長しています。
 「草の中で」では、中学2年生の西野幸彦と同級生の山片しおり(やまがたしおり)の孤独と恋が描かれています。しおりは、父子家庭、母親は、しおりが10歳のときに男と駆け落ちをしていなくなった。しおりは、いろいろなものを空き地に埋める癖ができます。この短編は、心に響くものがあります。
 西野幸彦の姉は、結婚して、出産して、子を生後6か月で亡くして、そのショックで、自殺しています。幸彦の生育歴において、その事件は、ずっと尾を引いていきます。
 「おやすみ」、「ドキドキしちゃう」、「夏の終わりの王国」、「通天閣」まで読みました。幸彦は言います。どうして自分は女の人を愛せないのだろう。姉と重なるからです。ぼくはどうしてきちんと女性を愛せないのだろう。彼が好きになるのは年上の女性が多い。恋人ではなく、姉を求めているからです。幸彦は女性を拒否しません。流れに任せます。やがて、女性のほうから離れていきます。幸彦が遊びにいっていた間に姉は服毒自殺をした。作品「通天閣」は、ネコ2匹の擬人化した話だと思うのですが、文脈からは、そうはとれない部分もあります。中途半端でわかりにくい。
 「しんしん」なんだか、ネコの話になってきました。三毛猫ナウがいて、40歳のエリ子がいて、35歳の西野幸彦がいます。幸彦は、自殺した姉の亡霊を追い求めているようにみえます。エリ子の回想です。西野くんは、いまもどこかで、だれかを本気で好きにならないようにしているのだろうか。
 「まりも」、「ぶどう」、「水銀体温計」と読み継いできて、最後まで、読み終えました。西野幸彦は、太宰治のように、女子と心中をしたかったりしたのですが、結局は50代で事故死しています。その当時の付き合っていた女子が18歳ですから、普通ではありません。幸彦12歳のときに姉が結婚して、姉は女子を出産したけれど、女子は生後6か月で、心臓疾患で死去。姉はうつ病になり、3年後自殺。その影を背負って生きた西野幸彦の人生でした。人生って何なのだろう。哲学的な小説でした。西野幸彦を人間ととらえずに違うものとしてとらえる。「宿命」とか「運命」とか、目には見えないものとしてとらえる。とらえながら、もう一度読むと感慨深い作品になりそうです。

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