2015年06月16日

よるのふくらみ 窪美澄 新潮社

よるのふくらみ 窪美澄 新潮社

 短編集です。互いに関連があるのかないのかは、読み始める今はまだわかりません。
「なすすべもない」
 リズム感がある読みやすく落ち着く文章です。音楽を聴くように文章を読めます。作者は筆で、日常生活をしみじみと表現していきます。
 早川みひろ27歳保育士、周囲公認の結婚相手は決まっていて、同居している。されど、セックスレス。みひろは、基礎体温をつけながら、排卵期を把握し、28日間のうちの短期間、発情するけれど、もっていきどころがない。「愛」ではなく、「哀(あい)」です。
「平熱セ氏三十六度二分」
前話とつながりました。べたべたした商店街の付き合いで、プライバシーの保護がない環境で、あからさまなやりとりが進展します。若いってうらやましい。だれしもいずれはカラカラに「枯れる」のですから、今を楽しめばいい。
作者の肩の凝らない文章運びがいい。
「星影さやかな」
 アーケード商店街の屋根ができて星空が見えなくなった。酒屋からコンビニへ転換した家族の兄弟と母親が男と駆け落ちしていなくなった文房具屋の娘との三角関係にコンビニ店の親父の浮気がからんで、星が見えなくなった。そこへさらに人工衛星への心理の重ねがある。
金魚すくいのシーンがあります。7歳の頃の出来事がよみがえりました。郷愁が湧きあがりました。
「よるのふくらみ」
 キーワードとして、<いんらんおんな>が、短編をつないでいきます。
 結婚において、夫が不能であることは厳しい。さらに妊娠しにくいということもつらい。相手がまじめなだけでは、どうしようもない。女子独特の悩みなのか、男子もそうなのか。若い時期のことだけなのか。人は悩めます。
「真夏日の薄荷糖(はっかとう。ハッカ味の菓子)」
 狭い空間の中、限られた登場人物同士の恋愛関係は重苦しい。ましてや三角関係、昔のマンガ、タッチを思い出した。
 190ページあたりは、胸が熱くなる。つらきことがあって、あたりまえ。それでも人はいきてゆく。
 よきフレーズとして、「(葬式にて)川島さんにも、泣いてくれる人がいたんだ。」
 この作家さんの作品は、いつかブームになって、火がついてブレイク(爆発)するときが来るのではないか。200ページ付近までの流れが素晴らしい。
「瞬きせよ銀星」
 ここまできて、ようやく兄弟の姓が「池内」であるという文字が出てきました。
 癒し系の文学です。
 屋根でふさがれたアーケード式商店街を否定したい作者がいますが、その理由とか、不安さとかは、読み手の自分にははっきり伝わってはきません。
 作品を象徴するセリフの趣旨として、「遠慮してはいけない、言葉にして伝えないと、幸せが逃げる」
 ぶつかって、あきらめて、無視して、またくっついて、最後の瞬間、看取られて、死んでいく。
 ぶつかって、怒って、謝って、自己主張する。
 人生は、計算して計画的に進めるものではなく、気持ちで押していくもの。


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