2015年05月26日

夏の朝 本田昌子 2015課題図書

夏の朝 本田昌子 福音館 2015課題図書


 本格的で良質な小説です。文章がきれいです。
 タイムトラベラーものです。時間をさかのぼって移動するのは、中学2年生の莉子(りこ)です。亡くなったおじいさんとかお母さんの少年少女時代にタイムトラベルをします。莉子には、すでに継母がいるということが、ちょっぴりせつない設定です。

 タイムトラベルものを初めて読む人には新鮮でしょう。
 他の作品として、「蒲生邸事件」宮部みゆき作、映画では、バック・トゥ・ザ・フューチャーシリーズがあります。たしか、劇団ひとりの「青天の霹靂(へきれき)」もそうです。いい小説、いい映画でした。

 悪人は出てこない小説です。親族の系図上にある人たちはみな心優しい。その点で女性たちを扱った上品な小説です。

 まず、莉子の家系図です。実父がいます。実母は幸世(ゆきよ、ゆきちゃん)ですが、莉子が小学生の時に病死しています。その後、実父は連れ子のある麻美という女性と再婚しています。莉子と麻美さんは、他人ですが、莉子は麻美ママと呼びます。(なかなかできることではありません)。麻美さんの実子として男児陸くんがいます。莉子からみればやっぱり他人です。

 次に莉子の母親の家系図があります。
 母親幸世(ゆきよ)は4人姉妹の長女です。次女が、悦代(えっちゃん、今は小学生の子どもがふたりいる)、三女が芙美(ふみちゃん)、四女が佳乃(よしの、よっちゃん)です。
 4人姉妹の父親は生きていますが、母親の姿はありません。
 家は古い。お庭に池があって、蓮(はす)の花が咲いています。以降、ハスが物語を引っ張っていきます。
 ハスのつぼみの中には、『想い』が詰まっています。

莉子の祖父の1周忌です。
莉子は、実母の実家で5日間を過ごしながら、夢をみるごとく、時空間移動をして、亡くなった実母の少女時代に立ちあったり、とくに亡くなったおじいさんの青少年期に同席したりして周囲のひとたちと交流します。それが、思い出になってゆきます。

 祖父の知り合いに富田の小夜子さんというおばちゃんが登場します。いとこ、ふたいとこと称されます。その小夜子さんの知り合いが国近のおばさんです。満州からの引き上げものです。なかなか満州が何か、現代の中学生にはわからないかもしれません。

 作者の思いが現代の中学生にどこまで伝わるかという疑問はあります。この本自体がタイムトラベラーです。自宅で牛を飼っていた話があるのですが、わたしのうちの父方実家でも飼っていました。農家でした。この小説を理解できるのは、50年から60年前、小学生低学年だった世代より上の世代でしょう。

 さて、本の最初のページに戻って、すこしずつ、ふりかえってみます。

 全体像は、作者自身の体験と作者が親族から聞いた体験を織り交ぜながら記述してある作品だと推測します。

 冒頭にある「じゃあ」だけのこの世で最後の別れは、だれにでもある経験です。考え深い人は、心の中で、これがこの世での最後の別れかもしれないと思ったりもします。

 残念なのは、ハスの種です。身近ではありません。ハス実の混ぜご飯のような料理の話が出るのですが、これもまた身近ではありません。たとえば、ヒマワリ、アサガオの種ならわかるのです。

 母を亡くした思春期の女子にとって、若い頃の生きた母に会える体験は特別に嬉しいものでしょう。
 たとえば、失意のどん底に沈んでいるとき、この小説を読むと、再び生きていこうという勢いを得られるようなこの小説です。

 全体的に植物本のような内容の本です。夏の頃に繁殖する、たとえば、半夏生(はんげしょう)という植物が出てきます。

 4人姉妹の長女だと思っていた莉子の母親の上に実はもうひとり姉がいた。人間らしい愛くるしい面立ちをしていた。莉子は、タイムトラベラーとして、時代を行き来するのですが、実は、もうひとり、タイムトラベラーがいます。さきほどの莉子の母親の姉です。

 月、火、水、木と曜日を数えながら、莉子の実母宅実家でのお泊りが続きます。

 時代によって、風景がずいぶんと変化しています。森であったり、池であったりもします。

 5日目の朝が金曜日です。莉子と祖父は、不思議な関係を続けます。祖父は、莉子をタイムトラベラーと知っているのかいないのか、あいまいなのですが、知らないはずはないのです。ハスの種が、時代の地点と地点をつなぎます。『次にここに来る時は、つぼの中の蓮の実を持ってくるように』

  最後に、カバーの装丁がきれいでした。

(上を書いた1週間後ぐらいのこと)
 たぶん、知りえていない深い部分があると思います。もう一度読めばピンとくるかもしれません。

(夏の朝 再読 27年8月12日)

 お盆のお休みです。
 ペーパーに人物相関図、絵入りのメモなどをおとし、下準備をして読み始めました。
 30ページ付近までが時間がかかる。そのあと、スピードアップして、途中、居眠りや昼食を食べて、午後2時前に読み終えました。

 祖父が会ったタイムトラベラーの莉子(りこ)を祖父は、莉子の母親が生まれる前に亡くなった長女である娘の幽霊あるいは、座敷童(ざしきわらし)と思っていたのかもしれないという先入観のもとに再読を始めましたが違っていました。祖父は、莉子は莉子であるとして、タイムトラベラーとは思わなかったけれど、幽霊みたいな存在とは思ったことでしょう。

 継母・継父との関わりを扱った名作に重松清さんの「卒業」があります。かなり泣けます。「夏の朝」の後半も同じたぐいの中身に近づきますが、最終部は、違和感が残ります。その部分だけが全体のなかで、違う「色」をしています。

 蚊帳(かや)がなつかしい。風情がありました。ゆかた、夏の終わりの日の光景、トンボ、おしろい花、山ぶどう、南天、違和感があったのは、祖父が手にしていた提灯です。現在から2年前なら、懐中電灯ではなかろうか。提灯は古すぎる。それとも「現代」の時代設定自体がかなり古いのだろうか。たとえば、昭和20年代以降とか。

トンボ柄のゆかたを巡る祖母と莉子の母親とのいさかい話では、母親の心の伝達がありました。女性の心持ちが、祖母、娘、孫娘と伝わっていきます。

 国近のおばさんのふろしきの中身が「マヨネーズ」は、再読時の今回、忘れていました。ハスの実だと思っていました。本は、何度も読まないと書いてある内容がわかりません。

 223ページにある少年期の祖父を描いた人物画がいい。気に入りました。祖父は画家を目指して夢かなわずなのですが、今も昔も、絵ではなかなか食べていけない。


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