2015年05月03日

うなぎ 一億年の謎を追う 塚本勝巳 2015課題図書

うなぎ 一億年の謎を追う 塚本勝巳 Gakken 2015課題図書


 うなぎの調査航海のお話です。おおきな研究船で、広い海を何日もかけて、うなぎのあかちゃんがどこにいるのかを調べます。北太平洋、南太平洋、そしてインド洋、遠くは大西洋まで行きます。

 副題にある「一億年」とうなぎとの関連は何でしょうか。興味が湧きます。人類が誕生してから5000年から7000年が経つと以前本で読んだことがあります。うなぎは一億年前から地球の海や川にいるのかもしれません。今は、西暦2015年ですから、うなぎの歴史はなかなか古そうです。

 うなぎは魚です。魚ですが、ずっと川にいるわけではありません。海にいるわけでもありません。海で生まれて、川をのぼって、やがて再び、海に帰っていきます。産卵のためです。
 ということは、うなぎの祖先は、大昔、海、川、陸で暮らしていた恐竜かもしれません。(本の中では、深海魚という説明がありました。)
 
 物語は、グアム島西部の大海原で、うなぎの卵を探すところから始まります。卵は、真珠の粒よりずっと小さい。直径は、1.6ミリメートルと書いてあります。まんまるで透明な卵です。
 何のためにうなぎの卵を探すのだろうか。探すことが人類にとって、何の役にたつのか。読み手はまだわかりません。そして、この本を書いた人は学者さんです。これを読んでいる小学生のうちの何人かは、将来、大学に籍を置く学者さんになるかもしれません。こどもたちもうなぎ同様、今は、卵から生まれたばかりの赤ちゃんです。

 うなぎの卵の中には、目玉のついた魚のあかちゃんが見えます。あかちゃんは、わずか2日で、卵から誕生するとあります。人間の場合は、とつきとおか(十月十日)と言われています。

(つづく)

 14ページから再び読み始めました。44ページまで読んで、うなぎの生態は神秘的でした。
 超能力をもつ魚らしくない魚が、「うなぎ」です。本の中では、うなぎのぼりの語源から始まって、粘液、エラ呼吸、存在するうろこ、そしてひれの話へと続きます。その後、うなぎを捕まえるための手法として、手づかみ、かい掘り、穴釣り、うなぎ筒、突き、石倉漁、やなが紹介されていました。
 うなぎをとる絵として、南半球、ニュージーランドマオリ族の手づかみ漁、北アメリカ大陸インディアンの足でひっかけて陸に跳ね上げる方法のところでは、うなぎという魚は地球のあちこちで出没するのだと驚きました。フランスでは、かい掘り(石で流れをせき止めて、中の水をかきだす)漁をしているとも書いてありました。
 
 性別の話が書いてありました。うなぎは、男と女の区別が、最初のうちはつかないそうです。生物において、性は絶対的なものではないと記してあります。性は時と場合で変化する。ゆらぎのあるものが性とあります。

 うなぎは体の色を変えながら成長していく生き物と受け取りました。最初は透き通った体をしています。海底で受精して卵から誕生します。プレレプトという名前です。自力で餌をとり始めると(くさったプランクトンを食べる)、名前がレプトセファルスに変わります。次にシラスウナギ、そして、クロコ(体色が黒い)、クロコは川をのぼりはじめます。泳いでのぼれないところは、えっちらおっちら岩場をよじのぼるそうです。
クロコは、黄ウナギになり黄色に輝きます。養殖ウナギは黄色にはならないそうです。黄ウナギは5年から10年川で暮らすと銀ウナギになります。脂肪をためこんで、海へと旅立つ準備をするのです。産卵回遊(生まれた海へ帰って、今度は自分が次の生命を産む行動)です。本には秋の大雨とあるので、台風シーズンになると、そのどさくさにまぎれて、ウナギは海を目指すようです。
 ここまで読んでおもしろかったことです。うなぎは、目は悪いが、鼻は犬並みにいい。
 体の横にある側線で、他の魚の気配を感じることができる。人間で言うところの第六感でしょう。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚、そして第六感は、オカルトやホラー(恐怖映画や物語、スリラー)でも出てきます。
 
(つづく)

 46ページから、作者がなぜうなぎに興味をもつようになったのかを中心にして、小学生ぐらいからの生い立ちが記されています。岡山県育ちのようです。
 天体望遠鏡に興味をもつ時期があります。「宇宙」への探索です。小学生男子は科学に関心を寄せるのですが、たいていは、勉強がむずかしくなって挫折します。

 作者は大学で、文化人類学で、「タブー」を学びます。タブーとは、してはいけないこと。これをするとばちがあたります。タブーとはもともと南海にあるポリネシアの言葉だそうです。関連はよくわかりませんが、作者は、大学で、「水産学」を学ぶようになりました。そして、日本のウナギ産卵場調査に参加するようになりました。

 デンマークの海洋生物学者ヨハネス・シュミットという人が登場します。アメリカ大陸、キューバとか、ジャマイカの東にあるサルガッソ海が、ヨーロッパウナギとアメリカウナギの産卵場所であることを調査して証明しました。1922年と1925年のことでしたから今から100年ぐらい前の出来事です。産卵場所は同じですが、種類は異なります。

 大英博物館学芸員デニス・タッカーの仮説をとおして、学術界の研究発表手法が説明されています。仮説が提案されると、学者たちは、賛否両論で話し合う。やがて大論争になる。仮説はたとえば間違いであったとしても、科学の進歩には大きく貢献することがある。仮説を実験や観察で検証していく。論理的に説明できれば、仮説は定説になっていくとあります。

 作者は、東京大学海洋研究所の研究室で研究員になったのでしょう。1967年にできた大型研究船・初代白鳳丸で、1973年にウナギ産卵場調査に参加しました。沖縄の南東海域、台湾沖を調査しました。
 1986年の調査では、作者は、「番頭」を務めました。番頭とは、航海の世話係です。航海の準備、スケジュール調整、航海後の後片付け、トラブル・苦情処理、それらを切り盛りする役目の人です。「番頭」というのは、昔は、どの職場にもいました。役職者ではないけれど、チームのリーダー、ムードメーカーを務める役割の人です。今は、番頭役の人が減りました。労多くして、メリットが少ないからでしょうが、昔はあった、仕事仲間イコールみな家族という考え方がなくなりました。

 1989年、白鳳丸は、世界一周の航海を果たしています。東京→アメリカ合衆国サンディエゴ、パナマ運河を通過して、マイアミ(作者はここで乗船)、話題のサルガッソ海で、アメリカウナギのレプトを捕獲しています。ポルトガルの首都リスボンに寄り、ジブラルタル海峡を経て、地中海、モナコ(作者下船)、船はその後、インド、フィリピンを経て帰国しています。
 
 1991年6月14日、新型白鳳丸は、主席研究員を務めることになった作者を乗せて、東京晴海ふ頭を出発し、7月1日未明、最少記録7.7mmのレプトを採取しました。航海の範囲は、グアム島のあるマリアナ諸島のすぐ西の海です。

 それでも、研究は行き詰まります。もっと小さなレプトを見つけることができません。作者のチームは、東西南北に100km間隔でグリッド線を引いて、より、綿密に採取を試みます。
 
 ウナギの耳石(じせき)に関する説明が登場します。樹木の年輪と同様に、耳石で、ウナギの年齢がわかります。樹木の場合は、1年に1本できるから「年輪」何年ですが、ウナギの場合は、1日1本できるので、「日輪」日数です。ウナギもアユも、イワシもタイも耳石に日輪ができるのです。これで、魚の誕生日を推測することができます。魔法の石です。

 1997年、作者は静岡県水産試験場の駿河丸でマリアナの海に出かけました。ウナギの産卵場ではないかと目を付けた「西マリアナ海嶺」の調査です。船は静岡県焼津港を出て、グアム島を目指します。わたしは、焼津にもグアム島のアプラ港にも行ったことがあるので、読んでいて、実感が湧きました。

 海嶺には、海山があります。海底からの高さが4000mぐらいのもの。富士山ぐらいの山が海に沈んでいます。山の名前は自分たちでつけるのです。「スルガ海山」としました。そばには、もうふたつ海山がありました。「アラカネ海山」と「パスファインダー海山」です。
 ウナギの産卵場所は、その海山のあたりとして、次は、産卵の時期について書いてあります。誕生日は、5月と6月の新月の日に絞られていきます。新月とは、月が出ない暗闇の日です。太陽と月と地球の位置で決まります。太陽と地球の間に月が入って、地球から見ると、月の輪郭しか見えないのが新月だと理解しています。逆に、太陽光線が月全体に当たったときに地球から見えるのが満月でしょう。
 作者は、場所を特定する「海山仮説」と時間を特定する「新月仮説」をとなえ始めます。

 1998年6月、作者は、マリアナの海で、ドイツ人スタッフとともに、潜水艇ヤーゴに乗ります。日独共同ウナギ調査です。でも、調査は失敗に終わります。

 ウナギの種類は19種類。どの種類が最古なのか。作者は、インドネシアの島、タイ、ニューカレドニア、ボルネオ島などを巡り、標本や遺伝子を集めました。驚異的な粘りと努力がありました。
 
 以前、北極の氷が解ける話がかかれた本を読んだことがあることを思い出しました。溶けた水は、海流となって、地球の海底深くを流れ、おそらく何百、何千年とかけて、赤道付近から再び、北極付近へと海流となって戻ってくる。そんな内容でした。ウナギの稚魚である透明で小さなレプトと呼ばれるものは、海底にある水の流れにのって移動しているのではないかと自分なりに考えました。
 
(読み終えました。)

 かなり、読みごたえがありました。1週間とちょっとかかったと思います。
 後半にうなぎの研究目的とか保護について書いてある部分があります。研究目的は、自分自身が興味をもったから。知りたいことを知る努力を継続することが研究と読み取りました。企業や大学の利益追求とは書いてありませんでした。うなぎの保護については、ここまで、自然環境が変化していて、人類の悪影響もあって、なかなかむずかしいと感じました。

 チャップリンの言葉、最高傑作は、「ネクスト・ワン(次回作品)」は、なかなかインパクト(衝撃)あります。未来がある小学生向けにはいい言葉です。老人向けにはつらい。

 137ページあたりから、生まれて10年ぐらいたったメスのウナギ「イブ」ちゃんのお話があります。イブは、南洋の産卵場所を目指して旅立ちます。すべてのうなぎがそうすると最初は思いこんでいましたが、これを読んでいたら、回遊しないウナギの雌もいることがわかりました。回遊しないと元気・体力がなく、おいしくなさそうです。

 「はらぺこ犬大作戦」なる、卵からかえったあとのウナギのプレレプトさがしです。まず、「フロント」と呼ぶ、塩水の境界線をさがします。北側は塩分濃度が高く、南側は塩分濃度が低い。「塩分フロント」です。2005年5月の新月の日に、そうして、白い半透明の糸クズ(孵化後の体長5mmプレレプトセファルス)が発見されました。
 作者と作者のチームメンバーは大喜びです。14年間の探索でようやく見つけることができました。
 作者はその喜びを、仮説が正しいと証明できたからと語っています。ウナギは、「新月の日に」、「海山のあるところで」産卵するが仮説でした。新月の夜には、光がなく、卵を狙う生物から卵を守れる確率が高くなる。
 その後、数ページをへて、作者は、「海山仮説」ではなく、むしろ、「海底山脈仮説」が適切であると言い換えたほうがよいと説明しています。
 
 「潜水艇しんかい6500」は、海底6500mまで潜ることができますが、よく考えたら、危険で怖いことです。海底6500mで事故が起こったら、生きて帰ることができません。
 研究は好きな人にとってはおもしろいものですが「、研究に興味がない人から見れば、苦痛でなりません。
 しんかいに乗船するときは、8時間から9時間トイレに行けないのは、わたしには無理です。
 勤務時間はサラリーマンと違って、研究者の場合、24時間全部が研究のために試行錯誤しているようにとれます。他者から見れば、遊んでいる、休んでいるようでも、本人にとっては、生活のすべてが仕事なのでしょう。だれでもができることではありません。

 日本で最初にウナギを食べた人は偉いなあと思ったのです。もっともヘビを食べた人だっていたことでしょうから、ウナギはその延長上で食べたのかもしれません。

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