2015年04月18日

その時までサヨナラ 山田悠介

その時までサヨナラ 山田悠介 文芸社文庫

 憑依話です。ひょうい。魂がのりうつる。物語の途中から読み手は気づけるので、隠すこともないでしょう。たとえば、東野圭吾氏のなんとかという小説(思い出せません)、アメリカ映画「ゴースト」があります。ラストは、再び一緒に暮らせない分、悲しみと感動が深まります。
 4歳の息子裕太を残して、29歳の母親亜紀が鉄道事故で死亡します。仕事人間の夫34歳森聡、出版社副編集長は、育児能力ゼロです。仕事をとるのか、家族をとるのか。前半の森聡はダメ人間です。
 福島県に地震がからめてあります。東日本大震災が発災する前の作品ですから、その点で、この小説は予言書になっています。ただ、ラスト付近を読むと、鉄道会社の運行ルール違反を問う展開になっていることから、結局、地震の記述は必要なかったということになってしまいます。
 心理とか情景を描写するにあたっての文字表現の力量が不足しているのですが、それはそれで、個性として受けとめることはできます。「 」かっこのセリフで物語を引っ張る形式です。説明のような文章運びです。つくり話の雰囲気が強いのですが、それでもいい。男がつくった家族物語です。
 男女の会話、とくに後半の夫婦間の会話が形式的でした。夫婦は、そのように会話をしません。
 伏線もからめて「指輪物語」です。
 タイトル「そのときまで」のそのときの意味がわかないと考え続けました。森聡も子どもの裕太も亡くなって、天国で家族3人がそろうときをいうのだろうと思っていました。どうも違うようです。わかりにくい。
 以下、印象に残った表現です。
・(森聡は)仕事しか知らない人間だった。
・(妻の言葉)わたしはあなたのお手伝いさんではない。
・(森聡)会社に裏切られた。

 60年ぐらい前の日本で暮らす庶民にとっては、仕事と家庭は連続性のある一体のものでした。それが、分離されるようになり今回の小説のような設定に変化しました。みんな、お金が欲しかった。失ったものも大きい。

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