2014年11月06日

ラストレター さだまさし 

ラストレター さだまさし 朝日新聞出版

 「昭和時代」への回帰を願望する内容です。だからタイトルは、“メール”ではなく、“レター(紙手紙)”なのです。
 以前読んだことがある同作者「解夏(げげ)」とは異なる筆致です。時代の変化に合わせて(現代人は小説を読まない)、短時間で読めるように小説型筆記から落語・脚本スタイル筆記に変更したのでしょう。その点、味わいが抜けたのが残念です。
 だれのために書いたのか。最初は自分のために書いていた。それがじわじわと周囲に広がっていった。ラジオ放送局の番組制作にまつわるお話です。※番組(コメ番組。聴取率が低い番組)対策です。主人公は入社4年目27歳アナウンサー寺島尚人で、まわりの人からボクちゃんとかボウズと呼ばれています。彼のまわりにいるのが、ディレクターや、プロデューサー、次長などです。異次元の生きた伝説の人として、大越大五郎という社員さんがいます。全編に渡って大越氏が叫ぶ「オ○○○ヤロー!」が随所に登場します。作者の映像化させてたまるかという意気が伝わってきました。そこに、「昭和」へのこだわりが感じられました。
 ラストレターは、死の直前に書かれた手紙だと読み始める前に予測しました。違いました。番組の最後に紹介される手紙です。もちろん、紙に書かれた手紙やはがきであり、メールではないのです。いずれにしても、しみじみする内容です。
 テレビは見なくなりました。見るのは、ニュースと天気予報ぐらいです。何かをしながら聞くにはラジオです。ラジオ世代は、50代以上でしょう。あと、小説にもありますが受験生。小説の中では、「昔の深夜放送には体温があった」と紹介されています。
 ひな壇に芸能人を集めてのお笑い話への批判があります。ひとりで歌えない、演じられない芸能人に対する批判めいたものもあります。直接利害関係があるわけではないので、そこまで責めなくてもという無関心さが自分にあります。思いつつ、もうこの国には文化は育たないというあきらめがあります。
 前半の記述内容は非常に古い。50年以上前のことです。対して、後半は、最近のことです。雑誌に掲載しながら時代が流れています。昔のことの記述は今の若い人にはわからないでしょう。
 漢字を中心とした言葉遊び、家庭を二の次にする仕事人間たちの話、サイレント・リスナー、ヤクルトスワローズのファンらしき作者、ラジオの定義として、十人聴けば、十人違う映像が浮かぶ。パロディ、欽どん風のやりとり、そして、わびさび、この作者さんらしい記述が続いていきます。
 登場人物たちは生き生きとしています。ラストレターの内容は、中島みゆきさんの世界です。曲「時代」今はこんなにつらくても、笑える日がきっとくる。
 テレビを否定して、ラジオを讃える。読み終えるころ、ふと、先日の光景が目に浮かびました。イベント会場で、母親が、5歳ぐらいの男の子の頭をいうことをきかないからと、平手でバチバチ叩いていました。ふつう、そんなところは、他人に見られたくないものですが、昭和時代には、よく見た光景です。いまは、他人の目がない自宅の個室で虐待する時代です。

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