2014年10月24日

「自分」の壁 養老孟司

「自分」の壁 養老孟司(ようろうたけし) 新潮新書

 自分の体外に出たものを嫌悪する。自分以外のものに嫌悪感を抱く。「自分」という存在意識を解明するお話です。自分は、自分を取り巻く世界と同化していることに気づけば、自分に関する苦しみから解放される。この世にあるすべてのものと自分は一体であるから悩むことはない。そんな内容だと受けとめました。
 著者は医者になりたくなかった。なりたくなかったけれど、自分は、まわりにいる人たちと溶け込めない性質をもっていたから、サラリーマン的職業を選択することができず、医者を選択するしか道がなかった。冒頭付近でそう語っておられます。
 著者個人のもつ思考内容の紹介です。それを読んで鵜呑みにはしないぞと言う自分がいます。読書の途中で、最終ページを見て、なぜそうなるのかがわかりました。インタビュー形式で記録された著者の言葉を編集者が文章化しています。
 三途の川の手前から帰還した人のそのときの意識、記憶の記述があります。脳の病気から回復した人たちの言葉です。自分の体が液体になったようだった。自分の体の端と端がわからなかった。世界にあるものと一体化していた。そしてその感想は心地良かったというものです。先日読んだ自閉症患者である東田直樹さんの「跳びはねる思考」に似たようなことが書いてあったことを思い出しました。
 人間は自分をえこひいきしている。自分という存在を周囲と一体化させるとえこひいきという意識が消える。「個性」という本当の自分だけが残る。著者は「矢印」と考えます。
 人間界の対立について解説があります。東洋人がもつ中庸(ちゅうよう、かたよらない、調和)と欧米人がもつ絶対君主制の比較があります。日本国の主役は常に民衆であった。庶民がルールをつくって地域を治めていた。徳川幕府が治めていたわけではない。政治の影響力は小さかった。
 ところが、時代は変化している。今は、極端と極端が対立する。庶民同士の交流が希薄になってきている。「個」を強烈に主張する時代に憂いをもっておられます。後半にあるメタメッセージは面白かった。意識の操作です。勘違いでもあります。著者は最後に、昔のような自然とのふれあいがある暮らしぶりを勧められています。
 日本という、世界の中では、なにかしら別個性をもつ国に生まれて、他の国家の人たちとは違う生活を送って、そして日本で死んでいく。それは、悪いことではない。自信をもて。そんなメッセージを受け取りました。

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