2014年09月13日

イニシエーション・ラブ 乾くるみ

イニシエーション・ラブ 乾くるみ(いぬいくるみ) 文春文庫

 「イニシエーション」は、儀式、方法、てびきの意味と受け取りました。
 まだ、68ページ付近ですが、感想を書き始めます。目次を見ると、昔懐かしきヒット曲が項目のタイトルになっていました。短編集だろうかと思って読み始めましたが、連続小説でした。女性作家さんが、男性の鈴木夕樹22歳大学4年生になりきって、成岡繭子(なるおかまゆこ)20歳歯科衛生士と恋をします。繭子が夕樹をリードするなりゆきです。女性にとって、こうだったらいいなと思うような展開なのでしょう。(その後、作者が男性であることに気づきました。びっくりしました。)
 合コンから始まって、見た目の好みで恋が始まりました。第1話部分「揺れるまなざし」で、ほっこりした感覚が生まれ、気持ちがなごみました。
 舞台となる静岡市は、今年3月に用事があって車で訪れました。身近に感じます。第3話を読み終えた時点で、これは、現在ではなく、思い出話だとひらめきました。あたりかはずれかは、まだわかりません。

(つづく)

 読み続けて、読み終わりました。
 レコードのA面部分にあたる前半を読み終えたとき、これは、今年読んでよかった1冊になると感服しました。幻想的で幸せな気分に達しました。しかし、後半にあたるB面部分はさんざんでした。
 主人公鈴木夕樹は成岡繭子を妊娠させ、堕胎させ、彼女に暴力をふるい、彼女を捨てて、東京に住む女性と一緒になります。ひどい話です。誠実さがありません。そのことをイニシエーション・ラブ(通過儀礼)というのです。
 以下、読書の時系列経過記録です。
 時代設定は1980年代初めぐらい。自動車学校の教習者はマニュアルだけです。オートマチック車が登場するのはまだずいぶん先のことです。
 両思いで平和な時間が過ぎていきます。おとぎ話のようです。
 章「木綿のハンカチーフ(もめんのハンカチーフ)」からB面です。A面部分だけでもいい作品に仕上がっています。おそらくB面から転落していくのだろう。
 静岡県内の企業に就職した鈴木夕樹は、社内で選抜されて、将来の幹部候補生として、東京本社で2年間の就労経験を積むことになりました。遠距離恋愛の始まりです。そんな彼に東京で言いよる女性が登場しました。元女優志望者石丸美弥子です。美人らしい。姉は本物の有名女優さんです。B面では、鈴木夕樹というよりも人間の、男性の、女性もそうだけれど、欲望とか高慢な態度に結びつく「悪」の部分が強調され克明に浮き彫りにされていきます。それもまた小説の神髄です。
 ここまできて、恋人たちの親・きょうだいの姿がない。しがらみを排除したすっきりした表現手法ですが、反面、状況によっては、ぬくもりに欠ける中身になります。
 この小説のなかで一番気に入った部分です。168ページ、鈴木夕樹は東京から静岡で待つ成岡繭子のところへ毎週、車を運転して会いに行きます。お金がないから高速道路を使うことを控えます。車好きの自分としては、彼を応援する気分です。
 OHPという単語がなつかしい。発表をするときに使用していました。今では単語も道具も死んでいます。
 鈴木夕樹も成岡繭子も、ふたりともまだこどもです。ふたりの関係に石丸美弥子が関与していきます。鈴木夕樹の繭子に対する愛情はくずれていきます。残念でなりません。
 一世を風靡した小型車ホンダシティが出てきました。これまたなつかしい。まだ20歳ぐらいだった。その車で、友人たちと四国を半周した思い出がよみがえりました。
 「僕にはマユを捨てることはできない」と読者に約束するようにつぶやいた鈴木夕樹はマユを捨てました。(その後、小説の仕掛けを知りました。なんのためにそんなことをしなければならないのか理解できません。)


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