2014年08月27日

「うつ」を治す 大野裕

「うつ」を治す 大野裕(おおの・ゆたか) PHP新書

 内容は誠実です。病気の説明、治療の手法の記述が続きます。うつ状態の説明から入ります。うつになりやすい人は非常にまじめできちょうめんな人、完ぺき主義が多い。まじめな人はよく見かけますが、きちょうめんな人はそれほどみかけません。きちょうめんイコール神経質と感じます。だから、うまくいかないと自責の念が生じる(原因を自分のせいにする)。うつ病の人に近づこうとすると、逃げるように離れていく体験があります。こちらは気にしていないのに、本人はとても気にしている。親しく話したいのに本人には負い目があるようです。こちらが年下だとなおさら恥ずかしいのでしょう。
 著者は自分の性格を大切にしながら、問題点をていねいに解決していくことを助言してくれます。背伸びしないように自分をコントロールしていく。無理をしない。
 病気の専門的なこととか、お薬のお話はむずかしくてわかりません。しろうとは、学術知識はなく、自らの過去の体験を思い出しながら対象者と接していくことが多くなります。
 死への思いは深刻です。残されるものの苦悩・苦痛はなみたいていのものではありません。避けてほしい。
 体の病気が原因でうつ病になる。がんの宣告を受けてうつ病になる。二重苦です。著者は冒頭で、今、うつ病の人は、後半から読んでくださいと呼びかけています。後半はうつ病の心理的治療という項目から始まっています。「認知」、「コントロール感覚」、「コミュニケーション」の3本柱です。
 「認知」ストレスが原因で、ひとつのマイナス思考結果にとらわれてしまう。本来は複数選択枝がアイデアとして出てきて、そのうちのひとつを選択する。あるいは、ひとつがだめなら次のアイデアを試す柔軟性がある。5つのコラムという手法が紹介されています。わたしは、コラム(枠)のなかのひとつである「合理的反応」の欄にある記述が気に入りました。
 「コントロール感覚」分量・質として仕事での要求(ディマンド)に応えられない。(こたえられない)。仕事の成果が見えず虚無感が残る。なにもしたくなくなる。解決策として、五段階のサイクルが紹介されています。問題点の明確化→ブレインストーミング(脳の嵐、アイデア出し)→手法の選択→予行演習後の実行→結果検証。そして再びサイクルの最初に戻るのです。そのほか、楽しみの時間をつくる。睡眠のリズムを整えることなどが紹介されています。
 「コミュニケーション」人に話を聞いてもらう。閉じこもらない。他者を認める。期待しすぎない。それらを含めて10項目が紹介されています。
 薬物療法解説部分はよくわかりませんでした。ただ、とても長い期間、服薬をしなければならないのだなあと、ため息がでました。
 最後半には、周囲のサポートに関する記述があります。親しい人がうつ病になることはあります。著者はうつの人をガソリンが切れてしまった自動車と表現します。ガソリンを給油しなければなりません。うまい表現です。
 人事異動で治るものなら人事異動の対象にします。そもそも社員は組織からの大事な預かりものです。適材適所で能力を生かせるならそうします。
 2000年の発行後、ロングセラーになっている本です。良書でした。

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