2014年07月15日

仕事中だけうつ病になる人たち 香山リカ 

仕事中だけうつ病になる人たち 香山リカ 講談社

 まず、作者の肩書で帝塚山学院大学が目に入って気になりました。どこにあるのだろう。帝塚山から宝塚を想像して、兵庫県だろうかと思うのはわたしだけだろうか。調べました。やはり東京ではなく、大阪府でした。でも今度は、所在地の大阪狭山市が気になりました。埼玉県に狭山市があるはずです。大阪市の地図を見ました。以前、堺市に観光で行ったとき電車で大阪狭山市を通過したことがあることを確認できました。そのときは、鉄道沿線にある大きな古墳を見学しました。
 次に興味をもったのは、書かれた年です。2006年12月です。ということは、副題の「30代うつ、甘えと自己愛の心理分析の対象者であった30代は、2014年の今は、40代です。書中にあった生まれ年で言えば、昭和40年生まれから50年生まれぐらい、昭和61年から平成3年のバブル経済真っ盛りの頃に10代から20代だった世代です。団塊の世代(1947・48・49生まれ)の子どもたちです。
 そんなこんなを前知識にして本を読み始めて、読み終えました。本の帯にあるような「病苦休暇中に海外旅行、不調になったのは会社のせい、自分のうつ病をあちこちに言って回る。というような過激な記述はほとんどありませんでした。本を売るためのキャッチコピーなのでしょう。
 この本を読む読者というのは、病気であろう本人とそんな社員をかかえた会社の労務管理部門の関係者が大半でしょう。自分はうしろの立場で読みました。
 本に書いてあったことをまとめてみます。
 本が書かれたころ、うつ病に関して、それまでにはなかった現象(症状)が確認されるようになった。職業選択の場で、判断と決断を他者(たいていは親)に任せて自分で決めない。だから自己は、結果責任を負わない。匿名性の高いインターネット世代(のちの匿名性が低い携帯電話世代とは異なる)。匿名で意思表示をする。権利は主張するけれど義務を果たす気持ちは希薄。迷惑をかけて申し訳ないという気持ちの表現力はない。治療のための休息時でも、遊びという習慣は崩せない。周囲の人間に広がる現象として、うつ状態の伝染と社員や家族の共倒れ。患者の周囲にいる社員や家族が被害者になっていきます。自分に甘く、他人に厳しい態度は周囲を悩ませます。
治療法としては、症状を分類して、薬物による治療をする。カウンセリングというのは10分程度の短時間だそうです。治療期間は3か月とか6か月とか長い。
 この50年間で日本人のライフスタイルは大きな変化を遂げました。50代なかば以上の世代はその変化を体験してきましたが、その下の世代は昔の日本の暮らしを知りません。自然との共生をしていた時代、貧しくて不便な生活、会社でも家族に近いほどの濃厚な人間関係、個人情報の保護がないあからさまな生活、週休二日制はなく、倒れるまで働いていたことなど話しても激励の気持ちは伝わらないでしょう。日本人の生活能力の低下は否めません。
 組織におけるメンタル社員は増加の一途をたどってきました。数字的にどこで頭打ちになるのかはわかりませんが、フォローはしていかねばなりません。
 昔は、一定期間の休職期間を経て退職が多かった。当時は、休職期間中の人員の確保が大きな課題でしたが、現在は、アルバイトや嘱託などが配置されるようになりました。あわせて、本人の職場復帰とか、適材適所の人事配置にも気を配るようになりました。個人的には、(うつ病になるのは)明日は我が身という思いがあります。
この本を読んでいて特徴的なのは、患者さんが生活費に困っていない様子なのです。だから、休職期間中でも遊びにいけるのです。高学歴・高収入・ステータス(地位)の高い職業の人が多い。なぜ働くのかの第一の理由は、生活費を得るためです。頭の中をからっぽにして、そう思いこまないと、就労の継続はむずかしい。
 本ではこのほかに、解離性の症状(多重人格。ただし、少ない)、とか、利得(病気で得をうる行為となっているが本人にその意図はない)などが書いてありました。
 本人がその気にならなければどうしようもないという思いはあります。ことわざに、馬を水辺に連れていくことはできるけれど、馬に水を飲ませることはできないというものがありました。
 患者の周囲にいる人へのアドバイスが適切でした。まず、自分が健康でいること。無理をしてまでの援助は控える。自分のために余力を残しておく。患者に対して不満や怒りを感じるようになったら、相手と距離を置く。
 読書が薬代わりになることはないのかなあ。ちょっとやるせない。

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