2024年03月15日

青空のむこう アレックス・シアラー 金原瑞人・訳

青空のむこう アレックス・シアラー 金原瑞人(かねはら・みずひと)・訳 求龍堂(きゅうりゅうどう)

 死んでしまった少年の話らしい。
 イギリスの小説家の児童文学作品です。児童冒険小説というジャンルのようです。
 日本語訳者は、先日読んだ、『アンソーシャルディスタンス』の作者金原ひとみさん(「蛇にピアス」で芥川賞を受賞された)のお父さんです。これから読む本が家のダンボール箱に入れてあるのですが、たまたま偶然、こちらのお父さんの本にあたりました。
 
ハリー・デクランド:交通事故死した少年。サッカーが好き。10歳から12歳ぐらいに見える。死ぬ前に姉のエギーとけんかをしていたことを、死んでから後悔している。とても後悔している。捨てゼリフを姉にぶつけて家を出て、そのあと交通事故にあって死んでしまった。自転車に乗っていて、10トントラックにひかれた。
 『…… お姉ちゃんなんか大嫌い! …… 帰ってくるもんか。もう二度と会いたくない』、姉のエギーが、『じゃあ帰ってこないで』と言い返したのがこの世の姉との会話の最後だった。(つらい話です。現実でも起きることです。家から出かける時は、ケンカしないほうがいい。本当に、それが最後になることがありえます)

エギー・デクランド:ハリーの姉。ハリーより3歳年上。本名は、エグランティーン・デグランド。エギーは愛称。みんなは、『ティナ』と呼んでいた。

ハリーとエギーのパパとママ

ジェリー・ドンキンス:ハリーの同級生。でかい。太い。いじめっこ。プレハブ小屋で、ハリーを殴った。(なぐった)

ピート・サルマス:ハリーの親友

オリビア・マスターソン:女子。ハリーの同級生

オルト:猫

アーサー:150年前の死者。葬儀屋だった。死んだ母親を探している。みすぼらしい服を着ている。つぎはぎだらけ。大きなシルクハットをかぶっている。死んでから歳をとっていない。<死者の国>では、人は歳をとらない。アーサーは、施設で育った。母親はアーサーを産んだときに死んでしまった。父親は不明。

スタンさん:50年前に死んだ老人。幽霊。愛犬ウィンストンを探している。

ウグ:原始人。「死者の国」をさまよっている。「うぐっ」しか言えない。

グラムリーのおばあちゃん:あの世の人。少年ハリーが生きていたころの記憶にある女性。おばあちゃんはハリーを覚えていない。ハリーがまだあかちゃんぐらの幼かったころに亡くなったらしい。

タイトル『青空のむこう』には、死後の世界があるということだろうか。(14ページにそれらしき記述があります)
読み始めます。

1 受付-The Desk
 『…… ママはまだ生きている。ぼくが先に死んじゃったんだ』(自転車に乗っていて、トラックにひかれたらしい)
 <家> <この世> <あの世> <死者の国・入り口> <現在地> <彼方の青い世界へ(かなたのあおいせかいへ)> <死者の国> <太陽は傾いているのに(かたむいているのに)、沈むことはない。>
 男児のこども言葉で、話が続きます。
 自分がまだ小学校低学年、少年だった時に読んだマンガ本のようでもあります。
 
 『…… 登録を待つ人たちの列がえんえんとつづいていた。犬や猫もいる……』

 チャールズ・ディケンズ:イギリスの小説家。1812年-1870年。58歳没。

 <彼方の青い世界(かなたのあおいせかい)>

2 死者の国-The Other Lands
 良書です。まだ途中ですが、今年読んで良かった一冊でした。

 今一度、会いたい。ハリーは、姉や家族や友人に会いたい。

3 生者の国-To The Land of The Living
 洋画『ゴースト ニューヨークの幻(まぼろし)』を思い出します。
 死んだ少年ハリーのひとり語りが続きます。児童文学ですから読みやすい。日本語訳も読みやすい。

 ノーマンおじさん、ベリル大おばさん

 ハリーが、150年前に死んだアーサーと、幽霊(ゴースト)の状態で、自分がいた現世(げんせい。人が生きている時代の空間)へ行きます。
 現世で、知っている人たちを見て、知っている人たちに話しかけて、相手は気づいてくれなくて、それなりにハリーの気持ちがへこみます。

 現世へは、崖から落ちるように転落していきます。
 『助けて! だれか、助けて! 死んじゃう!』(きみは、もう死んでいる)

 『ぼくたちは落ちているんじゃなかった。飛んでいた。』(素敵な文章です)

4 下の世界 Back Down
 トゥルーリー:死んでいる人の霊
 現世では、死んでいるのに死にきれない人の霊が複数ただよっています。
 
 『悪魔』のことが出てきます。
 わたしが思うに、まずもって、『悪魔』というものは存在しない。
 人間が勝手に、『悪魔』をつくりだした。
 自分が悪いのに、悪魔のせいにする。
 以前、外国人の殺人犯が、殺人の動機は、悪魔がそうさせたと述べていてびっくりしました。日本人にはない発想と文化です。

5 学校 School
 自殺した人の言葉に思えるセリフがあります。
 『死ぬと疲れることはないんだ。』

 ハリーのクラスメートとして、テリー、ダン、ドナ、サイモン、ジェリー・ドンキンス(いじめっこ)、ピート・サルマス
 ダイヤモンド先生:背が高く、口ひげが長い。
 
 この本は、「死んじゃだめだ」と訴えているのだろうか。
 ハリーは、さみしい思いをします。

 転校していったクラスメートとして、フラン、チャズ、トレバー
 
 ハリーには、これから死にそうな人がわかる能力があります。
 ダイヤモンド先生が、死にそうです。先生自身であるご本人は、まだ気づいていません。

6 コート掛け The Peg
 ハリーの近所の人たちで、ハリーのお葬式に来てくれた人たちとして、チャーリーおじさん、ペグおばさん。

 ハリーの教室で、ハリーのコート掛けが、ボブ・アンダーソンになっていた。ハリーはボブを知らないから、新しく来た転校生だろうとのこと。
 校長が、ハレント先生。
 ハリーのクラスは、五Bだから、ハリーは、アメリカ合衆国の小学校の学年で、5年生で、年齢は、10歳ぐらいでしょう。
 入学は9月です。

7 教室 In Class
 幽霊になったハリーが、自分がいた教室を訪れます。
 マーティーナ:図工が得意
 グレアム・ペスト:字がじょうず。
 オリビア・マスターソン:ハリーのことが好きだった。
 ティリー:オリビアの友だち
 ペトラ:クラスメート
 スロッギー先生
 
 『人が死んでも、ほかの人の人生はつづく(死んだ人の人生は終わっている。いなくなったらおしまい)』

8 ジェリー Jelly
 ハリーと仲が悪かった。J・ドンキンスの作文が紹介されます。
 ハリーは、太っているぼくを(ドンキンスを)ばかにし続けていた。ハリーにばかにされて、ぼくは、ハリーがキライになった。
 ときどきハリーと仲直りをして友だちになりたいと思うことがあった。でも、ハリーは死んでしまった。後悔している。ごめんよ、ハリー。

 洋画、『ゴースト ニューヨークの幻(まぼろし)』のように、幽霊が念力のようなものを使って、ドンキンスが持っていたボールペンを動かします。ハリーの念力です。

 人間は簡単に死んでしまいます。
 病気、事故、自然災害、事件などで命を落とします。
 わたしも長い間生きてきて、死にそうになったことが複数回あります。たぶん、だれしも口にはしないけれど、そういうことってあると思います。
 人間が生き続けていくためには、『運(うん)』が必要です。たとえば、あと5分ずれていたら、あんな事故にはあわなかったのにということはあります。めぐりあわせです。

 読みながら、志(こころざし)なかばで死んでいった、自分の人生で出会った早世(そうせい。平均寿命よりも早く亡くなった。若くして亡くなった)した人たちを思い出しました。
 突然がんの宣告をうけて、泣きながら亡くなっていった人も複数います。しかたがないのです。それが、現実です。

 アーサーがハリーに言います。『あんまり期待するな。人にあまり期待しないことだ。そうすれば、がっかりすることもない』
 
 オーク:樹木の種類。ブナ科コナラ族の木

 命を考える本です。今生きている自分のことを考える本です。そして、自分のまわりにいる人たちに思いやりをもつことを学ぶ本です。

9 映画館 The Cinema
 映画館の座席に幽霊たちがいっぱい座って映画を観ています。満席です。
 どこもいくところがないと、人間も幽霊も映画館に行くようです。
 フレイザー:ハリーのママの友だち。
 ゲームボーイ:任天堂
 ドリームキャスト:セガ。SEGA
 プレイステーション:ソニー

 ノーマン・ティール:デイブ・ティールの兄。デイブ・ティールは、ハリーの学校の上級生で、兄のノーマン・ティールは、卒業して旅行会社に就職したばかり。
 ハリーがノーマンに話しかけたら返事が返ってきたのでびっくりしました。ノーマンは最近突然高熱が出て病死したそうです。
 
 スタン:スーツを着た幽霊。70歳ぐらい。
 ウィンストン:スタンが飼っていた犬(だと思ったら、別の犬だった)
 
 <死者の国への近道>が現れました。虹のアーチ(橋)です。

10 家 Home
 ゆうれいのハリーは自宅に行って、両親と姉を見ます。三人とも、ハリーを失って気持ちが落ち込んでいます。
 
ここまで読んできて、一冊、電子書籍を思い出しました。
『週刊文春 シリーズ昭和④哀悼篇 昭和の遺書 魂の記録 生きる意味を教えてくれる91人の「最期の言葉」 文春ムック 平成29年12月11日発行 2017年11月27日電子版発行 Kindle Unlimited 電子書籍』
 胸にぐっとくるものがありました。
 キャンディーズのスーちゃんの気持ちがせつなかった。そして、川島なお美さんもがんで亡くなりました。

『田中好子』 歌手キャンディーズメンバー 2011年4月21日(平成23年) 55歳没 乳がん
 もっと生きていたかったという思いが切々と伝わってきました。

『川島なおみ』 女優 2015年9月24日(平成27年) 54歳没 胆管がん
 だんなさんに向けて、再婚はしないでねとお願いされています。
 重松清小説作品『その日の前に』では、がんで余命宣告を受けた奥さんが、『(わたしのことは)忘れてもいいよ』と言葉を遺して亡くなります。『忘れないで』ではなくて、遺される(のこされる)ご主人のこれから先の幸せのために『忘れてもいいよ』(再婚してもいいよ)と表現したとわたしは受け止めました。そして『忘れてね(再婚してください)』ではないのです。妻は、本当は、自分のことを夫に忘れてほしくないのです。

 ハリーは、自分のお墓も見に行きます。ていねいに整備されているお墓です。ご家族がお墓の世話をされています。
 ハリーの言葉で、ハリーのお墓の世話をしているパパのことが語られます。10歳ぐらいの年齢の男子で、パパが好きな息子というのはなかなかいません。もう反抗期の入口にいます。

 『それから三人は、さびしそうな顔で座っていた……』
 パパとママと三歳年上の姉です。

 モノポリー:ボードゲーム。すごろく。不動産ゲーム
 スクラブル:ボードゲーム。盤上に、アルファベットを並べて、単語をつくって得点を競う
 トリヴィア:雑学を競うゲーム

 読んでいて、涙がこぼれそうです。
 『ママ、かっこいい墓石をありがとう……』
 突然ですが、児童虐待について考えました。
 どうして自分のこどもを虐待して殺すのか。
 わけがわからない。
 こどもを虐待する親は、気が狂っています。(くるっています)

11 二階 Upstairs
 オルト:飼い猫ですが、動物は、幽霊が見えています。オルトはハリーを認識します。オルトの名前の由来は、パソコンのキーボードの『Alt(オルトキー)「どっちか」という意味』からきているそうです。パパが名付けました。

12 エギー Eggy
 ハリーの姉エギーとの再会(ハリーはゆうれいですが)は、せつない気持ちにさせてくれます。(せつない:悲しくて胸がしめつけられる)

 『(家族写真に)ぼくがいた。家族と一緒に。もう二度と四人が一緒になることはない。』

 (僕には使命がある)自分が交通事故で死ぬ直前に、口喧嘩(くちげんか)をした姉と話して、お互いを許さなくちゃいけない。
 このあと、ハリーは、困難を成し遂げます。(なしとげます)
 『文字』のありがたみが伝わってきました。

 『だけどぼくのやり残したことは、今、終わった。ごめんねって言うことができた……』
 <彼方の(かなたの)青い世界へ旅立つことができる。>
 
 メンバーが、それぞれいい人だったから、ハリーはこう思える。(思うことができる)

13 彼方の青い世界 The Great Blue Yonder(向こうという意味)
 さわやかな終わり方でした。
 良かった。

 主人公の年齢から、自分が小学二年生のころの給食の時間を思い出しました。
 給食を食べているときに、校内放送で、短い物語の朗読がされていました。彦一とんちばなしだったことを覚えています。
 当時は、給食を食べるためと、校内放送の物語を楽しみに聴く(きく)ためだけに小学校へ行っていました。勉強の成績はぼろぼろで、通知表には2と3がたくさん並んでいました。それでもなんとか生きてきて、老後を迎えることができました。この物語を読みながら、そんなことを考えました。

 物語の中で、長い間お母さんを探し続けていたゆうれいのアーサーは、ゆうれいのお母さんにようやく会うことができました。
 
 いいお話でした。  

Posted by 熊太郎 at 07:09Comments(0)TrackBack(0)読書感想文