2013年10月13日

夢を売る男 百田尚樹

夢を売る男 百田尚樹 太田出版

 あと数ページで読み終えるところで、感想を書き始めてみます。ひと昔前、社会問題ともなった詐欺的自費出版を素材にした小説です。小説ですが、脚本のようにセリフが続きます。
 もうひとつの特徴として同作者の作品「錨を上げよ(いかりをあげよ)」で登場した人物が出版社の社長です。社長の名前は「作田」です。「錨を上げよ」の主人公作田又三でしょう。
 出版社編集部長牛河原勘治45歳、身長180cm体重90kgが引っ張る物語です。出版社と著者との費用折半による共同出版という名のもとの自費出版です。実際は、出版社は費用の負担をしていません。全額、著者の負担です。著者の個性のパターンが順次、牛河原とのやりとりとして紹介されていきます。人を信じやすい人たちをだましてお金を手に入れる個人と組織が描かれています。思うところはいろいろありましたが、出版社も著者もお互いにメリットもあればデメリットもあるシステムでした。だれが発案して構築したシステムなのかについて作中でも少し触れてあります。なにゆえそこに至ったのかは、日本人が本を読まなくなった。本は読まないけれど自分の本は出したい。後半部まで読み続けてきましたが、作者がどちらの味方なのかはわかりません。牛河原は批判を続けるのですが、本作の作者自身に対する低評価も文中に出てきます。
 小説とは何か。本が売れるとは何か。見栄っ張りな凡人の愚かさが書いてあります。読んでいて気持ちのよい内容ではありません。少し視野を広めてみると、なにも小説を扱う社会の話だけではなくて、日本中の法人組織が同じようなクレームを受けて、悩みをかかえていると気づきます。
 印象に残った部分です。
 『バニティ・プレス』虚栄出版
 毎日ブログを更新するような人間は最高のカモになる。
 素人の本が売れるわけがない。
 ここまで読んで、もう終わった過去の一事例としてとらえるしかありませんでした。ひとりの人間でも被害者になることもあれば加害者になることもあります。商行為のなかで、夢をもつこともあれば、夢を失うこともあります。肯定も否定もできない。あいまいなご時勢です。
 
(読み終えました)
 目立ちたい。スターになりたい。欲求を満たしてあげることが「夢」をかなえることなのか。
 組織の維持をしていくために策略をもって、他の組織を叩く様子は、戦国時代のようです。
 ラストシーンは、さわやかでした。こうあってほしい。

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