2013年08月02日

リミット 野沢尚

リミット 野沢尚(のざわひさし) 講談社文庫

 全体で514ページのうちの280ページまできました。すでに読んだ部分を忘れてしまいそうなので、感想文は書き始めてみます。
 作者は、10年ほど前にすでに亡くなっています。自殺でした。同じテーマを素材にした複数作家の連作作品づくりにおいて、他の作家と意見の対立があるインタビューシーンをテレビで観たのが、最後の姿でした。作者はなぜ「夢はあるけれど、失礼します」と書き残して死を選択したのか。何をあきらめたのかをさぐる読書でもあります。(読み終えてみると、作者は、自分が創った小説に登場する登場人物に転化したと悟るのです。)
 さて、この物語では少年少女を誘拐する事件がクローズアップされます。誘拐の主目的は、臓器移植のための内臓の売買です。附属する目的は、小児性愛者への提供です。記述内容はところどころおぞましい。読みたくない文章表現にあたったときは、読まずに先へ進みます。
 誘拐されるのは、いじめられっこチビ助の7才少年、遊園地のトイレでは、5才の少年、そのほか4歳の女児などです。犯罪の指南書になるのではないかというぐらい精密な内容で、背筋が寒くなる本です。
 誘拐犯を追いかけるのは、警視庁特殊班捜査係有働公子(うどうきみこ)34才、身長162cmで、彼女のこどもも誘拐されます。彼女は、スーパーウーマンではありません。非力です。銃の扱いも下手です。殉職した(殉職とは認められなかった)夫との間にできたひとり息子7才を誘拐犯グループから救い出すために鬼になります。夫を失い、息子を失ったら彼女は自分が生きている意味を失うのです。
 登場人物像の性格、体格、経歴をていねいに構築した小説です。文章構成能力がすばらしい。表現力も強い。人間心理の真実を刻銘に浮かび上がらせています。
 作者自身も元警察職員だったのではなかろうかという錯覚すら起こします。管轄警察署間の対立は、他の小説でもよく出てくる話題ですが、この作品が書かれたのは、1998年ですから、出典はこちらの小説のほうが早いのでしょう。(巻末近くで、各種文献から警察に関することを拾ったことが判明します。)
 犯人グループのここに至るまでの家庭環境は崩壊していました。凶悪に至るまでの性質は遺伝づけられています。犯罪社会で立身出世するとあります。異常です。
 小説に出てくる雑品・機器類は古い。今はもうなくなった電話局、見かけなくなったテレカです。トヨタカリーナも今は走っているところをみかけることはありません。ランドローパー、ウィンチェスター(銃)、コルト(銃)も出てきました。トヨタセルシオ、権威に依存する記述です。
 
(つづく)

 読み終えました。借金の返済ができなくなったときに、人は、お金を盗むことを考え始める。その行為はその者の頭脳のなかでは、正当な行為として肯定される。人は人間ではなく、物という商品化する。犯罪心理学だろうか。
 警察内部にいるスパイはだれなのか。スパイ探しはなかなかむずかしかった。序盤は軽く、中盤は本命とおぼしき者が強く前面に出るけれど、正解することはできませんでした。本当の悪人は表に出てこない。
 息子を亡くした父古賀の思いとして「あの日、あの時、あの場所で、あんなことをしなければ、息子が誘拐されることはなかった。」男親の後悔する思いが強く伝わってきました。それが、「事故」。そして、思いは、現実社会では「信仰」につながっていく。
 以下は印象に残った文節等です。
 人生が「壊れた」瞬間
 ホシのために汗と涙を流せ
 「お母さんって、強いの?」
 臓器移植法案
 「人間なんて屑(くず)だよ」


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