2013年02月02日
64(ロクヨン) 横山秀夫
64(ロクヨン) 横山秀夫 文藝春秋
本屋大賞候補作3作品目です。
2本の線があります。主役は三上義信46歳、人口182万人ぐらいの地方都市警察署広報担当(元刑事職の部署所属)です。娘の高校生16歳あゆみが家出して行方不明、心の病があり、もしかしたら死んでいるかもしれないという1本目の線があります。
「64」は昭和64年1月5日に発生した身代金2000万円、小学1年生女児誘拐殺人事件を指します。死体で発見された犠牲者は、雨宮翔子ちゃんでした。これが2本目の線です。類似する現実の事件が栃木県であったような記憶があります。
作者が「警察」と「記者」が好きなことが伝わってくる文脈です。647ページのうちの159ページまで読みました。警察組織のことは知りません。おもに、警察広報担当と署内にある記者クラブの対立という図式とやりとりの進行でここまできました。この本の読者としての対象は、警察関係職員、各種メディアの記者さんたちでしょう。警察職員については、昇進、人事、プライド(自慢する気持ち)にまつわるお話が生々しい。前半は説明が延々と続きます。ものすごい文字量です。しかし、途中から量は減り始めます。
現在の時期設定は、平成14年12月5日です。雰囲気として緊迫感が続きますが、読み手には実感が湧きません。交通事故の加害者の氏名発表をするかしないかでもめます。そこまで、集中して、睨み合うような事項とは思えません。
他の登場人物として、雨宮芳男(誘拐殺害された娘の父親54歳漬物店経営)、その実弟雨宮賢ニ(過去に兄娘誘拐事件の容疑者として取調べを受けた)、漬物店の事務員だった吉田素子(当時32歳)、警察幹部職員として、小塚長官、警務課調査室ニ渡真治、赤間警務部長、荒木田刑事部長、松岡勝俊などが登場します。キーワードとして「幸田メモ」があります。記者として、東洋の秋川、主役の三上を囲む職員として、諏訪係長、蔵前主任、美人として三雲婦警がいます。
まだ、今後どう展開するのかわかりませんが、美術館建設の談合事件があります。当面、誘拐殺人事件の犯人はだれかということが興味になって読み続けます。
(つづく)
647ページ中の322ページまできました。
人間のやることに失敗はつきものだと思う。真面目に一生懸命やっても失敗は起こります。そう、責めてはいけません。明日は我が身です。「責任追及」の声ばかりが聞こえてくる物語です。274ページあたりが分岐点になりそうです。これから「人間ドラマ」を始めてくれなければなりません。このままでは、不正行為を突くことで満足するのみの文章になってしまいます。録音装置は、誘拐犯人から電話がかかってこようが、かかってこまいが、回すものだと思います。わたしなら、スイッチは録音状態で何時間でも入れっぱなしにします。「幸田メモ」は、いくらでもコピーすることができます。幸田メモは、被害者の父親雨宮芳男がもっている。小塚長官は、幸田メモを取り返したいということがわたしの推理です。あたるのかはずれるのかはわかりません。刑事部と警務部の軋轢(あつれき、仲が悪い、争い)があります。警務部は何をするところなのか知りません。物語を読む限りでは、警察署内の事務部門、それから、職員の素行チェックをするような部署に思えます。
さて、誘拐事件発生当時、被害者宅で捜査にあたっていたのは次の4人です。キャップ漆原、サブ柿沼、三番手幸田、科捜研若手日吉。力のある者は昇進し、力のない者は監視され、あるいは精神疾患に堕ちています。
(つづく)
読み終えました。これまで書いた感想の部分を読み返してみて、「復讐」とか「まっとうに生きる」とかの言葉が思い浮かびました。
さて、読書の経過です。
作者の特徴は言質(げんち)にこだわりをもつことです。言質とは、あとで証拠となる言葉ですが、わたしが思うには、相手の言葉から本音をさぐるという意味です。言ったことと思っていることが異なることもあります。
組織内の足の引っ張り合い、警察広報と記者クラブの対立が続きます。400ページを過ぎたあたりから、物語を成立させている樹(き)は少しずつ枯れていきます。葉が落ちていくのです。真相に近づいているということです。
目的を達成するためには手段を選ばない人間が多数登場する物語です。同時に、熱い情熱のかたまりをもった登場人物たちです。
440ページ付近、読み手にとってのこれまでの「嫌悪」が「共感」に変化していく部分です。「こだわり」をもつ登場人物たちです。こだわってもこだわらなくても状況に変化はないと判断しましたが、これもまた後半に、くつがえされます。種明かしは鮮やかでした。これ以上のことは書けません。ぜひ、読んでください。
(翌日)
ゆっくり読み返してみました。
談合事件はあまり関係がなかった。
警察広報担当職員とマスコミ記者たちが常時飲み会をしていることは一般人から見ると意外です。
誘拐事件に関する警察とマスコミの協定の最中に事件経過を詳細にマスコミに流す条件が付くことも意外でした。
元NTT職員日吉くんは正直で素直な青年だった。誠意は悪党に踏みにじられた。退職した幸田一樹警官も同様です。幹部職員の地位の高さと人としての高潔さとは比例しない。
退官した尾坂部部長の言葉「明日のために今日を費やしてはいけない」という言葉にはごもっともと賛同しました。明日のことは明日やればいい。
警察にはなんの期待ももっていない。
「匿名」は無意味というこだわり表現が各所に出てきます。匿名での発表は創作と同じ。架空である。事実の正反対にあるという考えには、はっとさせられるものがありました。
(そのまた翌日)
なにかしら、すき間を感じる物語だった。
本屋大賞候補作3作品目です。
2本の線があります。主役は三上義信46歳、人口182万人ぐらいの地方都市警察署広報担当(元刑事職の部署所属)です。娘の高校生16歳あゆみが家出して行方不明、心の病があり、もしかしたら死んでいるかもしれないという1本目の線があります。
「64」は昭和64年1月5日に発生した身代金2000万円、小学1年生女児誘拐殺人事件を指します。死体で発見された犠牲者は、雨宮翔子ちゃんでした。これが2本目の線です。類似する現実の事件が栃木県であったような記憶があります。
作者が「警察」と「記者」が好きなことが伝わってくる文脈です。647ページのうちの159ページまで読みました。警察組織のことは知りません。おもに、警察広報担当と署内にある記者クラブの対立という図式とやりとりの進行でここまできました。この本の読者としての対象は、警察関係職員、各種メディアの記者さんたちでしょう。警察職員については、昇進、人事、プライド(自慢する気持ち)にまつわるお話が生々しい。前半は説明が延々と続きます。ものすごい文字量です。しかし、途中から量は減り始めます。
現在の時期設定は、平成14年12月5日です。雰囲気として緊迫感が続きますが、読み手には実感が湧きません。交通事故の加害者の氏名発表をするかしないかでもめます。そこまで、集中して、睨み合うような事項とは思えません。
他の登場人物として、雨宮芳男(誘拐殺害された娘の父親54歳漬物店経営)、その実弟雨宮賢ニ(過去に兄娘誘拐事件の容疑者として取調べを受けた)、漬物店の事務員だった吉田素子(当時32歳)、警察幹部職員として、小塚長官、警務課調査室ニ渡真治、赤間警務部長、荒木田刑事部長、松岡勝俊などが登場します。キーワードとして「幸田メモ」があります。記者として、東洋の秋川、主役の三上を囲む職員として、諏訪係長、蔵前主任、美人として三雲婦警がいます。
まだ、今後どう展開するのかわかりませんが、美術館建設の談合事件があります。当面、誘拐殺人事件の犯人はだれかということが興味になって読み続けます。
(つづく)
647ページ中の322ページまできました。
人間のやることに失敗はつきものだと思う。真面目に一生懸命やっても失敗は起こります。そう、責めてはいけません。明日は我が身です。「責任追及」の声ばかりが聞こえてくる物語です。274ページあたりが分岐点になりそうです。これから「人間ドラマ」を始めてくれなければなりません。このままでは、不正行為を突くことで満足するのみの文章になってしまいます。録音装置は、誘拐犯人から電話がかかってこようが、かかってこまいが、回すものだと思います。わたしなら、スイッチは録音状態で何時間でも入れっぱなしにします。「幸田メモ」は、いくらでもコピーすることができます。幸田メモは、被害者の父親雨宮芳男がもっている。小塚長官は、幸田メモを取り返したいということがわたしの推理です。あたるのかはずれるのかはわかりません。刑事部と警務部の軋轢(あつれき、仲が悪い、争い)があります。警務部は何をするところなのか知りません。物語を読む限りでは、警察署内の事務部門、それから、職員の素行チェックをするような部署に思えます。
さて、誘拐事件発生当時、被害者宅で捜査にあたっていたのは次の4人です。キャップ漆原、サブ柿沼、三番手幸田、科捜研若手日吉。力のある者は昇進し、力のない者は監視され、あるいは精神疾患に堕ちています。
(つづく)
読み終えました。これまで書いた感想の部分を読み返してみて、「復讐」とか「まっとうに生きる」とかの言葉が思い浮かびました。
さて、読書の経過です。
作者の特徴は言質(げんち)にこだわりをもつことです。言質とは、あとで証拠となる言葉ですが、わたしが思うには、相手の言葉から本音をさぐるという意味です。言ったことと思っていることが異なることもあります。
組織内の足の引っ張り合い、警察広報と記者クラブの対立が続きます。400ページを過ぎたあたりから、物語を成立させている樹(き)は少しずつ枯れていきます。葉が落ちていくのです。真相に近づいているということです。
目的を達成するためには手段を選ばない人間が多数登場する物語です。同時に、熱い情熱のかたまりをもった登場人物たちです。
440ページ付近、読み手にとってのこれまでの「嫌悪」が「共感」に変化していく部分です。「こだわり」をもつ登場人物たちです。こだわってもこだわらなくても状況に変化はないと判断しましたが、これもまた後半に、くつがえされます。種明かしは鮮やかでした。これ以上のことは書けません。ぜひ、読んでください。
(翌日)
ゆっくり読み返してみました。
談合事件はあまり関係がなかった。
警察広報担当職員とマスコミ記者たちが常時飲み会をしていることは一般人から見ると意外です。
誘拐事件に関する警察とマスコミの協定の最中に事件経過を詳細にマスコミに流す条件が付くことも意外でした。
元NTT職員日吉くんは正直で素直な青年だった。誠意は悪党に踏みにじられた。退職した幸田一樹警官も同様です。幹部職員の地位の高さと人としての高潔さとは比例しない。
退官した尾坂部部長の言葉「明日のために今日を費やしてはいけない」という言葉にはごもっともと賛同しました。明日のことは明日やればいい。
警察にはなんの期待ももっていない。
「匿名」は無意味というこだわり表現が各所に出てきます。匿名での発表は創作と同じ。架空である。事実の正反対にあるという考えには、はっとさせられるものがありました。
(そのまた翌日)
なにかしら、すき間を感じる物語だった。
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