2012年06月10日

東京物語 奥田英朗

東京物語 奥田英朗(ひでお) 集英社文庫

 6つの短編集です。約10年前につくられた文庫です。作者は当時、40歳ぐらいでしょう。作者は、主人公田村久雄になりかわって、自身の体験をもとに創作で作品に仕上げています。田村久雄は、名古屋から東京の大学に進んでいます。
「あの日、聴いた歌 1980年12月9日」
 聴いた歌とは、キャンディーズの歌です。先日高速道路のパーキングエリアにあるコンビニで彼女たちのCDを売っていました。今度見かけたら買ってみるつもりです。(この部分を書いた数日後、買いました。通勤の車の中で毎日のように聴いています。思い出に浸(ひた)れます。なかなかいい。)流行歌で物語を引っ張りたい手法がわかります。広告代理店「新広社」で働く田村久雄君は21歳で、ステレオ販売のキャッチコピーを考えています。
「春本番 1978年4月4日」
 18歳以降は親と一緒に居られない、あるいは、暮らせない。欲しいものは「自由」。お金はないけれど「自由」と「時間」があった若い頃。お金も自由も時間もなかった30代から40代、少しお金は貯まったけれど、体が壊れた50代。そんなところでしょうか。もう20代は忘却の彼方(かなた)です。
「レモン 1979年6月2日」
 東京での大学生活、演劇部での様子です。登場する有名人たちは、もう死んでいます。「国電」という単語も死語になってしまいました。最後は涙がにじみました。なんだかんだ、すったもんだしても、みんな最後は老人になるかその前に死んでしまう。
 名古屋の詳細地理が登場します。地理や地名を知っているかいないかで、共感度はずいぶん異なるでしょう。この本のタイトルは「東京物語」ですが、どちらかといえば、少し東京、大部分が名古屋の物語です。
「名古屋オリンピック 1981年9月30日」
 オリンピックを名古屋に誘致しよう。確かにそういうことがありました。(当選したのは韓国ソウル市)だけど、そのことを今、記憶している日本人は少ない。興味の対象になりませんでした。オリンピックにしても万博にしても、やりたかったのは一部の人で、大部分の人たちは、人迷惑な話だと感じていました。
 「ソウルの練習帳(関川夏央著)」の中で、韓国の老人が、オリンピックは名古屋に負けると思っていた。勝った時は大感激したと答えておられました。
「彼女のハイヒール」
 秀逸です。どこまでが本当なのだろう。上手につくってある恋愛小説です。過去の名古屋人話には、笑いました。今は違うのですが、30年前、20年前の事実です。気どっているようで気どっていない。ありのままをあけすけに、楽しい物語でした。
「バチュラー・パーティー 1989年11月10日」
 結婚式前夜に、男友達ばかりで飲み会をやることをバチュラーというようです。急に激怒するサラリーマンのストレスが記述してあります。現代にも通じるタイムリーな事実記載です。作者の動機を勘ぐってしまいます。作者は金銭面でたくさんだまされたのではないか。以前同作者の「無理」を読んだことがあります。愛情も救いもない転落小説でした。その小説の片鱗がみられる短編でした。


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