2012年06月02日

ナイフ 重松清

ナイフ 重松清 新潮文庫
 
 わたしには、すんなりと理解できない作品群でした。5編の短編が集まっています。素材は、いじめです。いじめられている中学生と異質な野球選手とかワニとかを並べて比較しながら物語は進行していきます。違和感があります。
「ワニとハブとひょうたん池で」この本全体に通じることは、いじめにあうのはいわゆる優等生です。作者はその辺を読者のターゲットとして選んでいます。いじめの手法は、「存在を無視する」ことです。このあとの物語でも暴力を始めとしたいじめの手法が次々と登場するのですが、いじめ方を記述することに好感をもてません。文章から目をそむけたくなります。私立女子中学校に通うミキさんがハブられます。村八分からきた「ハブ」といういじめです。ワニは公園に捨てられているらしき姿なきワニです。物語としてはひねりすぎではなかろうか。
「ナイフ」40歳の父親と14歳の息子によるいじめとの闘いです。いじめから脱却する手立ては中学校を「卒業」することしかないのか。息子はあたかも兵士です。父親も中学生の頃、息子同様にいじめられていた。学校は頼れない。父親はポケットにナイフを忍(しの)ばせるようになったのです。
「キャッチボール日和(びより)」父親同士が野球部の同級生、片方の息子が野球選手にちなんで名付けられた小川大輔くん、されど名前負けしている。いじめられている。もう片方の娘が内藤よしみさん。大輔くんを助けられない。涙なしでは読めません。この作者さんの作品では涙が大量に出ます。
「エビスくん」小学校6年生同士の物語です。いじめるのはエビスくんで、いじめられるのは相原ひろしくんです。ひろしくんの妹は小さい頃から心臓の病気で長期間の入院生活が続いています。彼の両親の愛情のすべては妹に注がれていて、その点でひろしくんは忍耐することを要求され、怒らない人ガンジーというあだながついています。エビスくんの家庭・家族がはっきりしないまま、ひろしくんはいじめられ続けます。
「ビター・スィートホーム」女教師と共働きを断念した元女教師の母親との戦いです。この短編だけパターンが他とは異なります。共働きについて言えば、夫は(男は)、自分の都合のために妻に仕事を辞めてもらいだいだけです。15年以上前、わたしも辞めろ辞めないで妻とよく喧嘩しました。こどもたちが大人になった今ふりかえってみると、小さな事で深刻な喧嘩をしたと反省しています。ひとりの給料で生活できなければ、妻だろうがこどもだろうが働かなければならないのです。同僚や親族に迷惑をかけようが稼がなければならないのです。そして、こどもが大人になれば、そんな喧嘩をしたことは記憶の彼方に消えていきます。だから共働きを始めたら病気や事故がない限り、妻が仕事を辞めるという選択肢は最初からないのです。

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