2012年04月16日

あの日にかえりたい 乾ルカ

あの日にかえりたい 乾ルカ(いぬいるか) 実業之日本社

 舞台は北海道です。雪や川が風情を高めます。つまらなくいえば幻覚、ロマンチックにいえば妖精が登場します。短編6本です。前半の数本から、作者は前職として自治体の職員だったのではなかろうかという推察が生まれます。動物園で働く現業職、父親が役場職員、特別養護老人ホームの話などが出てきます。
「真夜中の動物園」いじめられている小学校6年生は遠藤正です。彼は両親とも喧嘩をしています。夜、自転車で家出を決行するのです。旭山動物園が素材でしょう。彼は動物に慰められます。
「翔る少年(かけるしょうねん)」奥尻島の地震と津波が素材です。人生には悲しいことがいくらでもある。
「あの日にかえりたい」33才女子の同窓会。未婚だとこうなる。今を悲しみ、昔を慕う。やりたいことをやりたいようにやれることがしあわせか、という質問が生まれて、そうではないという答にたどりついた。
「did not finish」スキーヤーのお話です。圧倒的に夢をかえられない人のほうが多い。夢がかなっても夢はきり(終わり)がない。冒険家植村直己さんを思い出しました。
「夜、あるく」冬には雪が降っている。春が来ればハクモクレンが咲く。早朝の桃の花も美しい。死なない人はいない。

 主人公たちは、書中の言葉を借りれば、この世でもない、あの世でもない、どっちつかずの世界に存在します。あの日にかえれるわけもなく、「帰る」のではなく「還る(輪廻転生ぽいもの)」ことを望んでいる。だから「かえる」とひらがななのでしょう。


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