2010年06月07日

カラフル 森絵都

カラフル 森絵都(もりえと) フォア文庫

 背が低い小林真一くん中学3年生が自殺して、そのからだに「ぼく」がのりうつります。息を吹き返した真一くんが目を覚ますと、病室には、真一くんの父親、母親、兄がいるのです。
 死んでしまった「ぼく」は、天使のプラプラに勧められて、天国ゆきのために「ぼく」が犯した罪を期間内に解き明かさなければならないのです。
 わたしは、読み始めで、「ぼく」が小林真一になりきる必要はない。「ぼく」は「ぼく」だと心に強く刻みました。「るり色」が前半部で多用されるのは、「るり色」がタイトルであるカラフルにつながっていく筋書きでしょう。
 父母兄は善人ではないという設定です。彼らの表面的な悪行(あくぎょう)が紹介されているだけで、内部の細部は記述されません。悪行が、真実か否(いな)かは、証拠がありません。その点については、後半部で突っ込みが出てきます。
 真一の目の前にいる女性たちが、中学2年生のかわいらしいけれど援助交際が好きな「ひろか」、そして死んでしまった真一くんの個性が好きだったチビ女という形容詞の中学3年生の「佐野唱子」です。
 人間の陽と陰、たてまえと本音、うわべと実態の相違、そういった矛盾を扱った作品です。2万8000円のスニーカーにこだわりがあり、こだわりは何かを意味していると思うのですが、何かは推察できませんでした。
 浮気者の母親の独り言めいた言葉は、自己中心的、自己にとって便利がいい、調子がいい、ご都合主義であり、許せない。だけど、人間って、そんなものという答にたどりついてしまう。だから、親には期待しないという思いにかられ、斜め横に向かってうつむいてしまう。真一の高校進学話は現実によくある状況です。親と子の希望する進学先高校が違います。子は親の言うとおりに我慢することの方が多いでしょう。経験から言えば、子ども本人の希望が優先です。そうしないと先々、親も子も後悔と苦労をすることになります。
 人生とは多彩な色、だからタイトルが「カラフル」になることに気づく。派手な赤・黄・オレンジだけではなくて、無彩色のグレーや黒だってある。155ページあたりで、なんだろう、このふわーっとしたファンタジーの空間にいる気分は。「ぼく」という魂(たましい)は、「ひろか」なのではないか。それとも「唱子」なのか。ふたりのうちどちらが自殺したのか。しばらくして、ひらめきました。わたしの答は正解でした。

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