2023年08月21日

くもをさがす 西加奈子

くもをさがす 西加奈子 河出書房新社

(1回目の本読み)
 ページを全部、ゆっくり最後までめくってみます。
 タイトル『くもをさがす』とはどういう意味だろうか。
 『雲をさがす』だという思いこみがありました。
 7ページに『蜘蛛(くも)』が出てきました。雲ではなく蜘蛛(くも)なのか……

 19ページに『8月17日 今日から日記をつけようと思う』という記述があります。2021年(令和3年)のことです。
 20ページに『バンクーバー』とあります。カナダにある都市です。著者の居住地です。カナダの西にあります。カナダの首都は東にあるオタワです。東にあるケベック州はフランス語を話す人が多い。同州にモントリオールがあります。
 
 入院体験について考えてみます。
 本書はがん闘病記という前知識は自分にあります。
 人によって入院体験は違います。
 老齢になるまで、入院体験がない人もいます。
 生まれてすぐに入院体験があって、こどものまま亡くなっていくこどもさんもあります。
 『電池が切れるまで 宮本雅史 角川つばさ文庫』
 私自身は、二十代のときと五十代のときにそれぞれ三か月程度の入院体験があります。最初は内臓の病気、二度目は脳の病気でした。
 入院体験があるかないかで、がんを宣告された時の心の持ち方には違いがあると思います。初めて入院される方は、かなりショックを受けると思います。
 がんと言われたら、まずは『治療に専念』だと思います。逆に、がんだから働いてはいけないということもないと思います。ケースバイケースです。
 『治療に専念』パターンだと、それまでの生活が切断されます。別世界へ、体も心も送り込まれます。

 57ページに『10月3日 体が重くて起き上がれない……』とあります。がんではありませんでしたが、二十代の頃の自分の入院体験だと、背中に2トンぐらいの大きな岩がのっかっている感じがしてベッドからなかなか起き上がることができませんでした。

 63ページに『ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』』とあります。読んだことがあります。
 そのときの感想メモの一部です。
 十二月の十日(じゅうにがつのとおか) ジョージ・ソーンダーズ(米国作家。男性) 岸本佐知子=訳 河出書房新社(かわでしょぼうしんしゃ)
 本の帯に『全米ベストセラー第1位!!!』とあります。知りませんでした。長編小説かと思ったら短編集でした。日本で言うところの、星新一さんのショートショートのようです。全部で10編あります。 購買を誘ううたい文句として、①親しみやすい ②共感を呼ぶ ③笑わせてくれる ④ダメ人間の優しさ、尊厳、奇想 ⑤独創的な文体 とあります。

 こちらの本に戻って、112ページに項目としての章が『3 身体は、みじめさの中で』

 172ページまでめくって、同じく作家の加納朋子さんの本を思い出しました。白血病になられています。『無菌病棟より愛をこめて 加納朋子 文藝春秋』
 そしてもう一冊『無人島のふたり 120日生きなくちゃ日記 山本文緒(やまもと・ふみお。女性) 新潮社』山本文緒さんは、すい臓がんのため2021年(令和3年)に58歳でご逝去されています。(こちらの本を読み続けていたら、75ページに山本文緒さんのことが出てきました)

 作家の職業にある人間は、「作家」ですから、自分が病気になれば、自分の病気のことを文章化します。文章化する行為が 作家の心を支えてくれます。

 180ページに、2021年3月名古屋入国在留管理局で、病院受診をさせてもらえず亡くなった外国人のことが書いてあります。
 たまたま用事があって、昨年何度か同管理局の前の道路を車で行ったり来たりしました。立派な建物です。でも、密室の中でのことは外にはわかりません。

 224ページ、日本国前首相が狙撃される。
 リアルな時の流れがあります。ひとつの命が消えて、自分の命も消えるのではないかという不安があります。

 (そのときのことですが)241ページ、今朝方(けさがた)読み終えた本に載っていたシンガーソングライターのお名前が出てきました。椎名林檎さんです。
 読んだ本は『僕の心臓は右にある 大城文章(おおしろ・ふみあき) 朝日新聞出版』です。

(2回目の本読み)
 ちょっとびっくりしたのは、蜘蛛(くも)に関する記述が、自分と同じ心持ち、体験でした。
 わたしがこどもだったころ、だれかに教えてもらったこととして『蜘蛛(くも)は先祖の生まれ変わりだから殺してはいけない』というものがあります。
 この本では、著者の亡くなった母方祖母であるサツキさんが蜘蛛になって、著者を噛んで、著者ががんであることを著者に教えてくれたという流れの文脈になっています。
 だから『くもをさがす(蜘蛛を探す)』という本のタイトルなのです。ただ、今読んでいるページでは、まだ「さがす」の部分の意味はわかりません。(25ページまで読んだところです)
 ご自宅にいた蜘蛛に刺されたことが、乳がんの発見につながっています。
 著者の右の胸にしこりがあります。

 右胸にしこりができて、超音波検査に行く。紹介状をもらった。2021年(令和3年)5月のことです。3週間後が検査でした。
 日本では2020年(令和2年)初春からコロナ禍のごたごたが始まっています。
 カナダの医療制度のことが書いてあります。
 日本とはだいぶ異なります。読んでいて、日本は恵まれていると思いました。
 カナダでは、直接各科目のクリニックの受診はできない。
 ファミリードクター(総合医)をまず受診する。ファミリードクターがいない人は、ウォークインクリニックを受診する。紹介状をもらってから専門医を受診する。
 救急は混んでいる。8時間から9時間は待たされる。(「救急」とは、なのれないのではないか)
 
 著者が12歳のときに胃がんで亡くなった母方祖母のサツキさんは、電車で席がないと、床に新聞紙を敷いて座っていたそうです。
 自分にも同様の体験があります。
 まだ自分が小学生だったころ、家族で、夜中に走る、たぶん急行列車で、日本列島を東へ西へとかなりの長距離を移動していました。乗客で混雑しているときは、床に新聞紙を敷いて座っていました。

 著者はお酒好きだったそうですが、がんの宣告を受けて断酒したそうです。
 
 不思議だった記事があります。19ページに『(たぶんがんの宣告を受けたから)8月17日 今日から日記をつけようと思う。』とあります。
 私が思うに、作家は、こどものときからずーっと日記をつけることを習慣としている。作家は、日記から創作のヒントをつかむ。でも、著者は違います。意外でした。

 20ページ付近まで読みましたが、がんの宣告を受けて、著者は混乱しています。
 コロナ禍もあって、さらに、外国にいることもあって、著者の心は混乱しています。著者の英会話はペラペラというわけではなさそうです。医療の専門用語はわからない。
 著者は一般的な日本人から見ると、特別な世界にいるように見えます。血族や姻族(いんぞく。婚姻による親族関係)に頼るよりも、身近な友人たちに頼る。
 カナダで長年暮らしている日本人とか、カナダ人であろう友人とか。著者の夫はカナダ人で、デヴィッドさんです。ベジタリアンのヨギーだそうです。(菜食主義。ヨガを行う人)。編集者をされているそうです。こどもさんはおひとりで、お名前は『S』で書中に出てきます。
 (外国住まいで、親戚づきあいが薄いことは、61ページに記述があります)
 (92ページに、義母とはもう2年間会っていないと記事があります)

 がんの治療内容です。
 1タームが3週間。8ターム続ける。
 4タームまで:パクリタキセルを投与する。
 3週間に1回:カルボプラチンも投与する。
 後半4ターム:AC療法(乳がんの抗がん剤治療)。
 後半、3週間に1回:シクロホスファミドとドキソルビシンを投与する。
 その後、4月ころに手術をする。(乳房を切除する)

 侵潤性乳管がん:しんじゅんせいにゅうかんがん
 MSPの履歴:マネージドサービスプロバイダ。コンピューターやネットワークのシステム管理
 イースター:復活祭。イエス・キリストの復活
 
 (なんというか、文章を読んでいて、著者が、ノートパソコンなり、タブレットの画面なりに、がんがん文字を打ち込んでいる光景が頭に浮かびました)(読み終えて違っていました。自筆の日記を出版化してあるそうです)

 72ページまでの第1章部分を読み終えて、著者はがんの宣告を受けて、心が不安定になり混乱しています。
 たくさんの名前が出てきます。わからない単語も出てきます。
 著者は自分に向けて、文章を書き続けていると思います。(自筆の日記と聞いて納得できます)

 9月2日メディカルクリニック受診。ロナルド医師と面談。診断は、トリプルネガティブ(転移が多いがん)

 自然が豊かで、街中に女性蔑視の広告がないバンクーバーと、そうではない東京の比較があります。
 日本人男性の感覚はマヒしています。女性を商品として扱うことになんの違和感ももっていません。そして、そういう人が社会で権力を握っています。

 トレイル:歩くための道
 PET検査:がんの検査。がんの有無、転移、治療効果、再発など。
 Spotify:デジタル配信サービス
 生検査:病変の一部を顕微鏡で詳しく調べる。
 
 実母の気持ちとして『お母さんには、祈ることしか出来ひんから。』(自分でどうすることもできないとき、人は祈ります)

 いろいろ読んでいると、著者はがんの家系に生まれたことがわかります。がんで亡くなっている人が多い。

 著者は小泉今日子さんとZoomでお話をされています。(私は毎朝NHK朝ドラの再放送で『あまちゃん』を見ているので、毎日のように小泉今日子さんが登場します。本を読んでいて身近に感じます)Zoomズーム:Web会議サービス

 1977年5月7日生まれ。

 著者は抗がん剤治療の副作用で髪の毛が抜け落ちていきます。
 悲惨です。
 鼻毛も、だいじなところの毛も抜けます。
 鼻毛が抜けると鼻くそがたまるそうです。
 
 患者と医療事務関係者との立場は対等です。
 患者は王様ではない。
 日本だと、お客さまは神様というような扱い方がありますが、間違っています。
 サービスを提供する者も受ける者も立場は対等です。

 2019年12月(令和元年)にバンクーバーに来た。

 海をながめるビーチのようすが素敵です。
 がんになって、海を見る。
 波の音を聴く。
 自分の人生について深く考える。

 著者はむずかしい精神世界の中で生きています。

 日本とはずいぶん違う医療システムです。
 救急外来に行っても、医師にみてもらえるまでに8時間もかかっています。(ご主人の胆石による痛みにて)

 カナダのバンクーバーでは、日本のように、従業員が組織を代表して謝るという習慣がないそうです。
 自分は〇〇の担当だから、〇〇のことをしているから、自分は自分の仕事をきちんとしている。
 相手にとって不都合な点は、自分の職務怠慢が原因でないときは謝らない。
 悪いのは、会社や組織の運営にある。というような理屈で、それが外国での常識です。
 著者は、それはそれで良しとしています。
 客がいないのに、持ち場でじっとしている日本人は奇異なのです。
 くわえて、日本のように、黙っていても人がやってくれるという意識でいたら外国ではやっていけないというような表現があります。自分のことは自分で調べてどんどん聞く。たしかに、自分のことを自分でやらず、人にやらせようとする人は多い。

 著者は、抗がん剤治療をしている自分と、自分が拾ってきて飼っていたネコ『エキ』のことを重ねます。『エキ』は、電車の車庫で保護したので『エキ』という名前のネコです。『エキ』は、病気です。

 79ページに、角田光代さんとの対談に関する記事があります。

 2019年12月6日(令和元年)。著者夫婦は、バンクーバーに到着した。
 バンクーバー滞在は2年間の予定だった。

 パニックアタック:ストレスで、息ができなくなる。よつんばいになる。床にうつぶせで倒れこむ。

 吐く(はく)。かなりしんどそうです。
 赤い尿が出る。
 
 セージのお香:ハーブの一種

 ときおり、ゴシック体の太字で、本から引用した文章がページ上(じょう)に置かれています。
 心の支えです。読書が、心をささえています。

 カナダバンクーバーの歴史や風土のことが書いてあります。(カナダの首都は東部にあるオタワ)
 いいところもあるし、そうでないところもあります。
 バンクーバーでの暮らしはお金がかかる。高額な家賃。キツラノ:キツラノ地区。都会のビーチ
 広告が少ない。消費衝動をあおらない。
 先住民が暮らしていた土地を白人が奪ってカナダという国をつくった。
 アルコール中毒や薬物中毒が社会的な問題になっている。薬物使用者が多い。路上で薬物注射をしている人がいる。
 日本で、薬物使用で逮捕された芸能人の話があります。最近は、大学運動部の部員が逮捕されて大きな問題になっています。
 オーバードーズ:薬の過剰摂取
 スティグマ:否定されて、不当な扱いを受ける。
 ハウスレス:ホームレス。家のない人
 矜持(きょうじ):プライド。誇り

(つづく)
 第3章の部分です。『身体は、みじめさの中で』
 112ページ、全体の半分ぐらい、ここまで読んできて、この本の内容を理解するためにはそれなりの労力を要します。
 いくつかの雑誌でこの本の書評や感想を読みましたが、どれも似たような内容でした。本当にきちんと読んで感想を書かれたのだろうか……(本を売るためと自身の収入を得るための書評なのか)

 饒舌な(じょうぜつ。おしゃべりな)文章が続きます。
 命の喪失の未来について考察するのなら、言葉数はもう少し少なくても良かった。
 文学作品として考えるならば、読み手にとって、情報が多すぎます。

 かなり長時間の読書になりました。
 疲れました。

 両方の乳房を失う手術を受けるそうです。(術後は、二本の赤い線がある状態と、うしろのページで読みました。そうなのか)(右胸にしこりがあって、しこりがない左胸も切除するのか。そういうときもあるのでしょう)(乳首を残すか残さないかの話が出ます)
 手術は12時スタート、午後3時15分終了、その日に退院だそうです。びっくり。
 ドレーンケア:体内にたまった血液、膿(うみ)、浸出液を体外に出す。
 タイレノール:痛み止め
 手術当日は、自宅で、午前5時起床でした。
 あっという間に手術が終わります。本人は麻酔で手術中の記憶はありません。夕方退院しました。
 
 疾病の状況とは関係のない友人・知人のプライベートな家族関係に関する記述が多い。
 著者の不安と緊張、ストレスとパニックの現れなのでしょう。混乱して心理の自己コントールが失われています。
 150ページから流し読みに入りました。ちょっと読書が苦痛になってきました。
 ときおり、ゴシック体太字で、他の本の引用文が出てくるのですが、必要なものなのだろうか。著者にとっては必要なのでしょうが、読み手にとってはそうでもありません。文章全体にくどさが目立ちます。

 全部をなんとか読み終えて思ったことです。著者はパワフルな人だ。
 
 私は、タイピングで書いた文章だと思っていました。
 違っていました。
 自筆の筆記で、日記として書いたそうです。
 出版の予定もなかったそうです。
 ゆえにとめどない文章なのでしょう。
 夏目漱石作品『吾輩は猫である』に似ています。
 谷川俊太郎さんの同作品評論にありましたが、牛がよだれをたらしているような文章がとめどなく続くのです。

 キャンサーフリー:治療後、がんの再発はないということ。著者のことです。
 
 本のタイトルにある蜘蛛(くも)はどこに行ったのだろう。
 読み手である自分が蜘蛛の居場所を探します。
 197ページで見つけました。
 著者の寝室にいました。(蜘蛛は母方祖母の生まれかわりです)

 2022年(令和4年)、日本への一時帰国があります
 マスクがらみの日本社会の不自由さがあります。
 東京の街の狭苦しさが、カナダのバンクーバーと比較して分析があります。
 日本人は『お金』を大切にする。いっぽう、バンクーバーの人は『自分が自由に使える時間』を大切にすると読み取れます。
 日本人は、自分の居場所を守るために、必死で生きている。ほかの人のスペースを尊重できなくなるほど心理的に追い詰められているという分析があります。
 論文のようです。日本人論(にほんじんろん)です。
 おおむねあたっています。そして、日本人の多くは人間関係で悩みをもっています。

 著者は再びカナダへ戻っています。
 
 がんサバイバー:がんの診断を受けたあと生きていく人々

 すさまじい量の文字数でした。
 疲れました。

(翌日朝のこと)
 がんの治療をしている人がこの本を読んでもあまり参考にならないような気がします。
 一冊思い浮かぶ本があります。
 『がん患者の語りを聴くということ 病棟での心理療法の実践から L・ゴールディ/J・デマレ編 平井正三/鈴木誠 監訳 誠信書房』
 一冊3520円と、ちょっと高いですけれど、いい本でした。

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