2022年12月23日

風が吹くとき レイモンド・ブリッグズ・さく

風が吹くとき レイモンド・ブリッグズ・さく さくまゆみこ・やく あすなろ書房

 先日読んだこども向け絵本作品『さむがりやのサンタ』の作者です。
 こども向けの原子爆弾とか核兵器使用の反対を訴える作品かと思ったら、こどもさんには無理な話の運びです。おとな向けです。とにかく、長い。マンガのコマ割り形式なのですが、とにかく長い。

 登場人物は、イギリス国に住む夫婦で、夫がジム、妻がヒルダです。年配のご夫婦です。
 ロンドンの街から離れた農村地帯で暮らしています。(定年退職後に引っ越したいなかです)
 以前、ロシアのミサイルを迎撃するためのウクライナの迎撃ミサイルが誤ってポーランドに堕ちて(おちて)犠牲者が出た場所のような、いなか風景を思い出すような絵です。

 SILENCE:サイレンス。沈黙。最初のページに注意喚起の表示があります。図書館です。新聞紙が広げて置いてあって、図書館の利用者が読むようになっています。「お静かに」でしょう。

 日本での発行は、1998年(平成10年)の本で、けっこう有名な作品のようです。
 イギリスでの初版は、1982年(昭和57年)です。
 
 国家という組織の末端で暮らしている人間の生活とか気持ちを表現した作品です。
 組織の上層部にいる人間は、末端にいる人間の気持ちはわかっていません。
 上層部にいる人間は、命令や指示をすれば、末端にいる人間は自動的に自分たちの指令に従うと勘違いしているときがあります。庶民にはできることとできないことがあります。

 『予防戦争』があるかもしれない。
 戦争をしないための戦争?

 核戦争の死の灰を避けるために、3日以内に各自が家の中に室内シェルターをつくりなさいとの指示がでたそうです。
 図書館でもらった『自宅でのサバイバル・ガイド』を参考にして準備をします。
 室内核シェルターは(屋根の部分を)60度の角度でつくる。分度器を買いにいかねばならないという話になります。

 息子の名前がロンで、現在は、ロンドンに住んでいるらしい。
 カブスカウト:ボーイスカウトのうち8歳から11歳まで。ボーイスカウト:国際的な少年のための教育団体。ロンが所属していた。

 ページをめくっていくと、たまに、原子爆弾の不気味な絵や戦闘機・爆撃機らしい飛行機の影が2枚開きの絵として出てきます。
 恐ろし気(おそろしげ)な絵です。
 
 『長距離ミサイル』とか『コンピューター管理』という単語が出てきます。
 なにやら、リアルに重なる今のウクライナでの戦闘です。1982年(昭和57年。東西冷戦が終結した1990年前後の前)にできた本なのに、2022年のロシアの核の脅威を予想しています。
 第二次世界大戦中のイギリスの事情が年配夫婦の言葉で思い出ばなしとして語られます。『防空シェルター』『灯火管制』『警報解除』など。

 核爆弾が落ちるかもしれないというのに、定年退職をして田舎に引っ越してのんびり暮らしているジムとヒルダの年配夫婦はのんびりしています。
 世間話を楽しみながら、パンや分度器を買いに行くだんなさんのジムです。
 みんなが買い占めをしているのでパンがありません。(この部分もリアルです(現実に起きた)。コロナ禍(か)が始まったころのマスクとか体温計、トイレットペーパー不足を思い出しました)
 
 原子爆弾投下の話ですから、広島の話が出ます。以降、何度か広島のことが話題として登場します。白い服や布は、放射能をさえぎるという迷信があります。
 (絵本に描いてあることとして「広島のときは、太陽1000個分の熱さだった」)
 最近のテレビ報道で、日本の総理大臣が、核廃絶をアピールしながら、同時に、戦費の増額をするというメッセージを出していることが理解できません。相反することです。あれもこれも立ててその場しのぎをする手法です。戦力を増強すると、外国は日本の軍事力に脅威を感じて警戒して、戦争が起きる危険度が高くなります。相手のある話です。軍備増強の流れは止められそうにありません。この絵本のように覚悟をしておいたほうがいいのかもしれない。そのときの対応を考えておいたほうがいい。絶対に戦争は起きないと思い込まないほうがいい。

 ジムとヒルダの老夫婦はのんびりしています。(まさか、自分たちが核兵器の被害者になるとは思っていないようすです)老齢者夫婦の毎日の生活です。のんびりしています。庶民の暮らしがあります。

 1982年(昭和57年)に作者が立てた未来予知が半分当たっています。『ロシアが中央ヨーロッパに先制攻撃をしかける……』そして、アメリカ空軍が(防衛のために)押し寄せてくる。(2022年の現実では、米軍空軍はウクライナに来てくれませんでした)
 ロシアは降参して、共産主義国家はなくなる。自由で公正な選挙が行われる。(ジムの未来予想です。今回の本当の戦争については、どうなるのか。わたしにはわかりません)

 絵がきれいです。
 ただ、お話はかなりくどいです。
 読むのがちょっとつらかったりもします。

 核ミサイルが発射されました。ミサイルが向かって来ます。
 されど奥さんのヒルダが『洗濯物をとりこまないと……』
 そんなものなのです。庶民の暮らしは。

 まっしろのページが登場しました。
 ピカ・ドーンです。
 一瞬でなにもかもがなくなる(2022年の今、ロシア大統領は脅しを(おどしを)かけています)。
 この世の終わりだと思ったら、ジムの声が聞こえました。『なんてこった!』
 
 老夫婦は、手づくり室内シェルター内で生き残っています。
 ふたりが家の中に隠れたまま日にちがたっていきます。
 『核爆弾なんて、毎日落ちてくるわけじゃないんだから』
 水道は出ないし、水もきていません。電気もストップです。(ウクライナみたいです)
 テレビも映りません。情報がありません。電話もつながりません。老夫婦は、息子の心配をしています。

 戦争が終わったのかどうかもわかりません。
 アスピリン:解熱鎮痛剤(げねつちんつうざい)。痛み止め。この絵本では頭痛の薬。
 放射能の後遺症の話が出ます。
 ロシアによって原子爆弾がロンドンに投下されたという設定です。
 イギリスはロシアに負けたような書き方です。
 老夫婦は、ロシア兵が来たらどう対応するかということについて話し合っています。
 ロシア兵と対立はしないことを心がけるそうです。
 第二次世界大戦中のドイツナチスによるユダヤ人虐待の話が出ます。
 なんとか、ロシア兵を受け入れようと気持ちを整理する老夫婦です。(生きるために)
 
 放射能を浴びた症状が、ふたりに出始めます。
 細胞が溶けて(とけて)いくような症状です。
 出血があります。だんだん人間であるふたりの姿が消えかかっていきます。
 助けが来ません。
 ふたりは歌を歌って励まし合います。
 神さまに祈るふたりですが、そこで絵本は終わります。
 先には『死』しかないのです。

 戦争反対です。
 されど、攻め込まれたら立ち向かう。
 やはり人間は、この地球においては地球を壊して滅ぼす『悪の存在』でしかないのか。
 『風を吹かせてはならない』風を吹かせた者には、大きな制裁を与えなければならない。
 絵本の表紙の老夫婦の表情が複雑です。嬉しそうで悲しそうな顔をしておられます。
 世界的なベストセラーになった絵本だそうです。知りませんでした。

(追記 絵本を読んで、数週間後にふと思ったこと)
 この絵本では、ロシアが攻め込んできたら、アメリカ合衆国の空軍が波のように押し寄せて来てくれて、自国を守ってくれると予言しています。
 だけど、今年ロシアに攻め込まれたウクライナには、アメリカ合衆国の空軍は来てくれません。
 日本もウクライナと同じ対応になるのではなかろうか。
 日本が攻め込まれて戦争になったとき、もしかしたら、アメリカ合衆国の軍隊は動いてくれないのではないか。約束は、見た目だけのもろい信頼関係のうえに立っているのかもしれない。ウクライナのように、武器供与と金銭援助だけかもしれない。心中は複雑です。アメリカ合衆国はアメリカ合衆国のために働くのです。

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