2022年11月21日

正欲 朝井リョウ

正欲(せいよく) 朝井リョウ 新潮社

 『性欲』ではなく『正欲』です。何だろう。『正欲』の意味がとれません。
 読み始めるとやはりエロい記述から始まります。
 児童ポルノです。
 本のカバーの絵では、天空から鴨がまっさかさまに堕ちてきています(おちてきています)。
 不気味です。

 佐々木佳道(ささき・よしみち):30歳。大手食品メーカー勤務。こどものわいせつ写真撮影会でのパーティリーダー。気持ち悪い奴です。罪を否認している。

 矢田部陽平:24歳。小学校非常勤講師。罪を認めている。こんな男にこどもを預けられません。

 諸橋大也:21歳。国公立大学3年生。イケメン(顔と人柄は一致しません)

 冒頭では常識が示されます。
 『……“大きなゴール”というものを端的に表現すると「明日死なないこと」……』(同感です)
 『……幸せには色んな形があるよね……(結婚しないとか事実婚とか、こどもをもたないとか)』
 『多様性……』
 そして、主人公の『私』は、この星にずっと留学しているような感覚だというのです。君は宇宙人なのか(まさかと自分は判断しています)

 納得いく理屈の言葉が続きます。さすがと思わせて下さる作家さんです。
 
 最初に出てきた三人は警察に捕まります。
 『小児性愛者(しょうにせいあいしゃ)』たちです。
 児童福祉法違反にあたるのだろうか。
 そんな人間が親になったら実子はどうなるのだろうか。不気味です。
 捕まった佐々木佳道には妻がいます。離婚ですな。仕事は解雇ですな。

(つづく)

 形式がわかりました。この物語の進行の仕方が見えてきました。
 登場人物、ひとりひとりが順番に出てきてなにかやるのです。
 先日読み終えた『セカイの空がみえるまち 工藤純子 講談社』と同じです。セカイのほうは『藤崎空良(ふじさきそら。公立中学2年生。半年前から父が失踪している)』と『高杉翔(たかすぎかける。藤崎と同じクラス。野球少年。甲子園に行きたい。在日韓国人)』が順番に語るのです。

 寺井啓喜(てらい・ひろき):横浜地方検察庁の検事。45歳すぎ。
 寺井由美:寺井啓喜の妻。主婦。
 寺井泰希(たいき):寺井啓喜と由美の長男。私立小学校3年生から不登校。もうすぐ5年生。
 なにやら2019年5月1日まであと何日と書いてある。あと515日でした。5月1日に事件か事故が起こるのかと思いましたが、令和元年が始まる日でした。平成が終わって、令和が始まる。

 子どもが不登校になった原因として、愛情不足、過保護、育児放棄、毒親、いろいろ書いてあります。
 長男寺井泰希の主張として『みんな洗脳されているように見える……』
 (読み手の意見として、そうなのだろうが、それが稼いで(かせいで)生活していくということです。そんなことはだれだって知っている。この世は矛盾(むじゅん。理不尽、不合理、不条理。筋が通らない)でできている。みんな矛盾に気持ちの折り合いをつけて生活している。それがおとなです)
 長男泰希は、不登校児を受け入れるNPOボランティアグループ“らいおんキッズ”に入り、そこで仲良くなった歯科医の息子登校拒否少年富吉彰良とYouTubeを始めます。
  『(不登校児の意見として)ユーチューバーになるから学校はいらない』(生活していくということは、そんなに単純で簡単なものではありません。社会の中で、法令や規則にしばられながら、脳みそを働かせて社会環境に順応していかなければ、人生が破たんしてしまいます)
 小学生の少年たちは、令和になるまでの日数カウントダウンでYouTubeを始めます。(読んでいて、ふたりのこどもは、犯罪者の標的になると予測します)

 富吉奈々枝(とみよし・ななえ):富吉彰良(とみよし・あきら。不登校児)の母親。検事の妻寺井由美に話しかけてくる。富吉奈々枝は、歯科医の妻。

 桐生夏月(きりゅうなつき):29歳ぐらい実家暮らし。独身。岡山県岡山駅直結のイオンモールにある寝具店で働いている。時代設定は、2017年(平成29年)12月ぐらいか。犯人佐々木佳道の高校の同級生。桐生夏月と佐々木佳道は同じ波長をもっている。(睡眠欲は私を裏切らない。食欲は人間を裏切らないという共通点)

 那須さおり:桐生夏月が働く寝具店の向かいにある雑貨店で働いている。桐生夏月より年上。夫あり。桐生夏月によく話しかけてくるが桐生と親しいわけではない。

 西山亜依子(にしやま・あいこ。旧姓広田):桐生夏月の高校の同級生。
 西山修:西山亜依子の夫。高校時代野球部のキャプテンだった。桐生夏月の同級生。
 西山莉々亜(にしやま・りりあ):西山夫婦の娘小学一年生。

 穂波辰郎:桐生夏月の同級生。父が同窓生一同の担任教師だった。桂真央と結婚した。
 (桂) 真央:穂波辰郎の妻。穂波の父も穂波夫婦も教師。

 門脇かおる(旧姓渡辺):西山夫婦のこどもと同じく小学一年生のこどもがいる。

 登場人物の自己紹介のような記述が続きます。

 神戸八重子(かんべ・やえこ):神奈川県内金沢八景大学の大学2年生で、学園祭である八景祭(ダイバーシティフェス)の担当をしている。学際の実行委員。太っている。美形ではない。恋愛ドラマ『おじさんだって恋したい(読んでいる途中で思い浮かべたのは「おっさんずラブ」でした)』の女性プロデューサーを講師に招いて学園祭で講演会をしたい。(冒頭の事件の犯人である)諸橋大也(国公立大学三年生。ダンスサークル「スペード」所属)に興味をもつ。
 神戸八重子には、学業成績が優秀だった兄がいる。兄と妹に対する親の差別がありそうです。母親は兄が好き。29歳の兄は現在引きこもりにある。

 平野千絵(ひらの・ちえ):ドラマ『おじさんだって恋したい(男同士の恋をしたいという意味)』のプロデューサー。

 神戸八重子の兄(今はまだ氏名不詳。正体不明):国立大学卒業後、銀行員になったが、職場や仕事に適応できず長い引きこもり生活中。

 久留米よし香:神戸八重子の仲間。中国語選択の大学2年生。塾講師のバイトをしている。

 桑原紗矢(くわばら・さや):大学生。学園祭の実行委員。実家は鎌倉市内。21歳。

 桑原真輝:桑原紗矢の姉。29歳。

 高見優芽(たかみ・ゆめ):大学新3年生。ダンスサークル『スペード』の代表。

 諸橋大也は『スペード』に所属している。冒頭で紹介された児童ポルノの加害者犯人。アニメ『耳をすませば』の天沢聖司に似ている。

 ワック:70年代ゲイカルチャーから生まれたダンス。

 SATORU FUJIWARA:今のところ、謎の人物。犯罪がらみの氏名。

 60ページまで読みました。
 ここまできて、物語の進行のしかたが、単調な感じになっています。
 
 おもしろかった表現で『学生時代にスポーツをしており、当時の筋肉が脂肪に変わった人の体格』

 これまでに出てきたこどもたちが今回のこども相手のエロ事件の被害者になるのだろうか。
 犯人の名前がちらほらページに出てくるようになりました。

(つづく)

 だんだん登場人物たちと犯人たちとの接点が生まれてきました。

 扱うのは『性癖』です。
 世の中には、ほかの人から見れば、不思議なことに気持ちが集中する不思議な人たちがいっぱいいます。『異常性癖』です。
 水道の蛇口(じゃぐち)を盗んだのは、盗んだ蛇口を売って換金することが目的ではなく、水道から強い勢いで出てくる水を見ることが快感だったから。(性的な快感があるそうです)

 変人と思われるのですが、変人は単体ではありません。複数です。仲間がいます。同じ趣向の人間がいます。

 藤原悟 45歳 新聞配達員 岡山県にいた。2004年6月23日のこと。蛇口どろぼう。

 だれかが事故死します。

(つづく)

 電気あんま:こどもの遊び。罰(ばつ)として、股間に足を入れられて股間をぐりぐりする。

 『スマホ脳』という本を思い出しました。SNSで人間がおかしくなっていくのです。
 『スマホ脳 アンデシュ・ハンセン 久山葉子・訳 新潮新書』
 
 右近くん(右近一将。うこんかずまさ):172ページ。寺井泰希が呼ぶ人。不登校児対象NPO法人「らいおんキッズ」の職員。

 キーワードとなる文章として『私はずっと、この星に留学しているような感覚なんです。』(152ページは6ページとつながる)

 登場人物が多いので、一生懸命メモをとりながら読んでいます。

 少数派(LGBTQ。レズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クイア(通常とは異なる性のありよう)、クエスチョニング(性についてわからない)は社会生活、日常生活において、人の中で精神的につらかった。

 無敵の人:家族、友人、恋人、仕事などの社会的なものとつながっていない人。守るべきものがないからなんでもできる。(犯罪をしでかして極刑(死刑)宣告を受けてもかまわない。周囲にいる人を道連れにして、自分も死んでいいという精神状態にある人のことなのでしょう)

 『被疑者には友人も同僚も恋人もいない。いるのは年老いた両親だけだ。』
 被疑者は社会に恨み(うらみ)があると言います。(うーむ。社会に受け入れてもらえなかったとあります。少数派の性癖をもつゆえにと、このストーリーの場合は受け取れます)
 性的な欲求として、異常性癖の人がいる。

 読んでいて感じることです。
 物語の語り手が変わると、ストーリーの流れがブツッと途切れるので、読みにくいです。

 人が事故死した瞬間を思い浮かべて笑い出しそうになる。(バス旅のえびすよしかずさんは、人のお葬式に行くと笑いそうになるので行かないそうです。思い出しました)
 139ページで人がつながる。ここで、こうつながるのか。
 だんだん人と人がつながり始める141ページ付近です。
 『自覚してるもんね。自分たちが正しい生き物じゃないって』
 もうひとりいるのか。ミステリーです。(不思議な世界)
 『本当は、男という生き物が気持ち悪い。』

 検事や看護師が喫煙するのはちょっと意外で信じられません。
 自分の体をコントロールできない人は検事や看護師には向きません。

 191ページまで読んでの感想です。
 若い人たちのお話です。
 遠くから『過去』をながめているような気分で読んでいます。

(つづく)

 弘明寺(ぐみょうじ):横浜市南区にあるお寺。初詣(はつもうで)の場所。神戸八重子(かんべやえこ。女子大生)のシーンで登場する。あわせて、右近一将(うこんかずまさ)と寺井啓喜(てらいひろき)のシーンにも登場する。

 『自殺の方法を何度も調べたことがあるのは……』余談ですが、そのうち読む本として、わたしの自宅の部屋に『完全自殺マニュアル 鶴見済(つるみ・わたる) 太田出版』が置いてあります。そのうち読んで感想をアップします。ちなみにわたしは、自殺なんぞする気はありません。歳をとってきて、自分が自殺を望まなくても、そのうちお迎えが来るので静かにその時を待ちます。自殺本のほうは、1993年発行で、120刷もされていてよく売れて読まれています。そのことに強い関心をもち購入しました)

 『特殊性癖』の話です。
 うーむ。どこかに書いてあった「自分がこの地球に生まれたことは間違いだった」というような文章から考えたことです。
 -見た目は、人間だけど、中味は人間ではない、人間とは別の生きものがいる。-
 その生き物はとても悩んでいる。だれにも『特殊性癖』を知られないように、親にも知られないように、神経を集中しながら生活している。
 標準という世界の中で、異質であるけれど、標準であろうと努力している。
 太宰治(だざい・おさむ)氏の言葉『生まれてきてすいません』を思い出しました。正しくは『生まれて、すいません』作品名『二十世紀旗手』昭和12年の作品。

 北海道厚真神社(あつまじんじゃ):苫小牧とか支笏湖の西に位置する。地震があったところ。平成30年9月6日胆振東部地震(いぶりとうぶじしん)。物語の設定は平成30年(2018年)の年末です。翌年、5月から令和元年が始まります。

 220ページ部分が、1ページまるごと白紙です。
 何かを意図した区切り目なのでしょう。

 川崎市鈴木町駅:佐々木佳道の勤める会社高良食品(たからしょくひん)の工場がある。
 佐々木佳道:営業部食品開発課所属。
 豊橋:もうすぐ40歳。品質管理部勤務。元食品開発課長。妻あり(元同社秘書課)。2男あり。
 
 クレームブリュレ風:焦がした(こがした)クリーム。カスタードプディングに似ている。
 キャラメリゼ:キャラメル化。

 マジョリティ:多数派。
 マイノリティ:少数派。
 アイデンティティ:同一性。「何者なのか」「AとBが同じであること」
 
 尻手(しって):ロープの端(はし)。
 『マジで育児は若いうちに終わらせといたほうがいい』(同感です)
 『この身体の中にはあなたが想像もしないようなものが詰まっていますと……』(そういう人っているのだろうなあ。つらそうです)
 『いつしか、幸福よりも不幸のほうが居心地が良くなってしまった……』
 常に自殺願望があるのを思いとどまるように『明日死なないこと』が毎日の目標になっている。
 『自殺禁止』です。
 『普通の嫁さん』のフリをする。
 恋愛意識はない結婚。されど、同じ仲間だからふたりでいる結婚。
 他人でも、友人でも、恋人でも、同居人でもない結婚。『共犯者』。
 (鋭くとがったものがあります。こういう夫婦っているんだろうなあ)
 
 五体満足な異性愛者に生まれることができなかった人もいる。
 タイトル『正欲(せいよく)』とは、男女間のことで標準的なLOVEを指すと読み取れます。それ以外は正しくない欲と読み取れます。
 もうひとつ解釈できます。男女の性別を超えて愛し合えることを『正欲』と呼ぶ。逆の発想です。
 
 Z世代:1990年代後半から2000年代に生まれた世代。
 ソーシャルネイティブ世代。生まれた時から身近にスマホがあった。
 スマホで仲間とつながる。
 つながりは『犯罪』にもつながる。

 SATORU FUJIWARA:正体が判明しました。

 『特殊性癖』の対象物は『水』
 承認欲求と特殊性癖者の性的欲求。

 時間は淡々と過ぎていきます。
 物語は、もうすぐ、『令和』の時代です。2019年5月1日令和がスタートします。
 寺井泰希は、新年度から小学6年生です。でも登校拒否児です。本人がどんなに自己主張をしても、おいてきぼりにされます。
 現実の今は、来年はもう令和5年です。早いものです。

 性犯罪者は、逮捕収監されても、出所すれば同じことを繰り返します。
 再犯です。

 社会にはバグがいる。(バグ:誤り)

 一家の主(あるじ)なのに、主(あるじ)としての判断が間違っている登場人物がいます。
 そして、恐怖が生まれます。
 自分で自分の『特殊性癖』に気づけていない人がいます。
 
(つづく)
 
 読み終えました。
 なんというか、児童ポルノではないのです。
 『水』に強い性的興味をもつ特殊な人格をもつ人たちがいるのです。
 かれらは、自分たちを人間ではない存在、地球人ではない存在として、悩んでいます。

 作者は、少数派の立場に立って、少数派の意見を代弁するようにメッセージを発信しています。
 少数派の人たちが生きていける環境をつくって、維持していかなければならない。

 同性愛者という指摘は違うのです。
 男も女も愛せないのです。
 愛情を向ける対象が『水』なのです。
 性欲を向ける対象が『水』なのです。

 だから『私はずっと、この星に留学しているような感覚なんです。』となるのです。
 死なないことが、この人たちの毎日の目標だった。
 
 いくつかの印象に残った言葉です。
 『精神的な互助会』『クレプトマニア(窃盗症。常習万引き。精神障害の一種)』『いなくならないで』『朝起きたら自分以外の人間になれていますようにって……』『ばいばい』『いてはいけない人なんて、この世にはないんだから』『いなくならないから』

 犯罪者の心理を分析しています。
 『親』にはなれない人たちがいます。
 愛情ってなんだろう。
 人間がもつ悲しみが広がっていきます。
 
 蔑ろ:ないがしろ。

 337ページ付近で、諸橋大也が発する本音(ほんね)の言葉に、すがすがしさを感じました。
 同情するなら金をくれの世界です。(同情はいらない)
 自分がああしたい、こうしたいと思っていることを、阻止しようと(そししようと)する相手に対する抗議があります。ほおっておいてほしい。干渉しないでほしい。

 342ページ付近の風景描写が不可解で不思議でした。
 喧噪(けんそう。対立するけんかのなかで騒がしい状態)のまわりに平和がある風景です。

 狡賢い:ずるがしこい。

 人間の叫びがあります。

 なんとも表現しようがない気持ちで、読書を終えました。

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